第十九話 明かされたのは


 ただひたすらに走る。

 状況がどうなっているのかは分からないけど、とにかく走る。


「っ、」


 ああ、嫌な予感しかしない。

 けれど、近付いているのは間違いなくて。


「居たぞ!」


 鳴海なるみさんが目の前へと見えてきた黒い影に、声を上げる。


「あれが、魔物……?」


 次第に見えてきたソレ・・に、佐伯さえき君たちの表情が変わる。

 見ないと、見ておかないといけないとは言っていたものの、実際目にしたソレ・・は物語に出てくるような想像していたモノ・・ではなく。


『グルル……』

「……どうする?」


 走りながらも魔物の居る場所までの道中、着いた後のことを軽く確認してはいたのだが、「相手の魔物の次第」と返していたのを地味に後悔するレベルの魔物が、そこにはいた。

 だが、魔物の上に居る存在もまた厄介極まりなくって。


「ん? また新たに愚かな人間が――いや、何だか懐かしい顔があるな」


 がこっちに気づいたらしい。


「帰っただとか何だとか言ってたが、結局は人間どもの嘘だったということか」

「……」

「――なあ、勇者?」


 ニヤリと笑みを浮かべ、こちら――私に目を向ける、魔族の男・・・・

 けれど、問題はこの状況だ。

 魔物は元より、今この場で私が『勇者』であることをバラされてしまったことの方が厄介だ。


「え? 『勇者』……? え?」

「……」


 奴が私から視線を逸らさないせいで、佐伯君が戸惑い気味にこちらに目を向けてくるし、鳴海さんも鳴海さんで視線を向けてくるのみ。

 ドクンドクンと心臓が嫌な音を立てる。


「まーあ? この場に勇者一行が全員いないというのなら、それも仕方ないけど、お前だけでも殺すことが出来れば、あの世の魔王様もお喜びになられるはずだ」


 奴の高笑いが響く。

 けれど、けれどさ――……あいつはいま、なんていった?


「おい、セナ。落ち着け」

「……落ち着いてる」

「落ち着いてないやつの定番の台詞だろうが、それ。つか、殺気駄々漏れはめろ!」


 エルに横目を向ければ、盛大に顔を引きつらせていた。


「……ねぇ、エル。後で何があったか話してあげる。だから、そこの二人のこと、頼んでいい?」

「俺は今回サポート担当だから、別に構わないんだけどさ。一応、何する気なのか、聞いてもいいか?」

「あいつら、潰してくる」


 私が少し前に出たためか、背後から諦めモードの「そうかよ」という返事が来た。


結城ゆうきさん!?」

「結城、」


 佐伯君が正気を疑うような声を上げ、鳴海さんは何か言おうとして止めたらしい。


「二人にも、後でちゃんと話すからさ。それまでは、頑張って逃げてもらえると有り難いかな」


 振り返って、そう告げる。


「話すのは分かった。でも、無茶だけはするなよ」

「鳴海さん!?」

「う~ん、それは約束できませんかねぇ」


 鳴海さんの言葉に、佐伯君がぎょっとし、私はそう返す。


「ちょーっと装備が心許ないんで、少しばかりの無茶は多目に見てもらわないと、無理ですね」

「それに、後でアルストリアの奴も合流する。それまでは許してやれ」


 まさかのエルからの援護射撃に、肩を竦める。


「お前ら――このオレを無視するとは、いい度胸だな!」

『グォォォォオオオオ!!!!』


 奴の叫びに呼応するかのように、魔物の咆哮がその場に響く。


「無視?」


 こいつは何を言ってるんだ。


「何の気掛かりも無くなった以上、私が手を抜くはずがないでしょ?」

「ハッ、聖剣でもない普通の剣でこいつが倒せると思ってんのか? 笑わせてくれる」


 どうやら、普通の魔物ではないのだと言いたいらしいのだが、やはり普通の魔物とは違うらしい。


「それじゃあ、普通の剣で貴方たちに勝ったらどうする?」

「――は?」

「普通の剣装備な勇者の全力と、中級から高位ランクの魔物と魔族の力」


 やっぱり、攻撃面と防御面が心許ないから、『炎帝装備』を展開する。


「一体、どっちが勝つんだろうね」


 ニヤリと笑みを浮かべて、そう聞いてやった。


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