第十八話 信頼されているようでされてない元勇者
浮いていた空中から、地面へと戻る。
うん、やっぱり物理的に地に足が着いてるのは良いことだし、安心できるよね。
……なーんて、言っている場合ではないのは、私が重々承知である。
ただ、この状況をどのように説明するべきなのかが、問題なだけで。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
助けた子供を親の元まで送り届けたエルことエルヴィンは、元勇者一行の一人にして、盗賊職の青年である。
イケメンで気が利いて、女性にもモテるが、浮いた噂は一切無いというある意味完璧っぷり。
「こんな問題の上に、さらに新たな問題が出るなんて!」
近くの冒険者が叫んでいるが、冒険者ギルドの上の方に設置してある注意喚起や警告を示すための鐘が、今もなお響いている。
「絶好調だな。お前のトラブルメーカー気質」
「嬉しくない……」
ことを簡単に話すと、私たちが地面に戻ったあと、ギルド職員から冒険者の面々に緊急事態の知らせが入ったのである。
それが、魔物の襲来である。
一人の冒険者が暴走を起こしている
現状、この面々の中で判断を任せられているのは、私とアルストリアと
私に判断を仰ごうとしているのは、アルストリアとエルの二人。二人が判断を
アルストリアに判断を仰ごうとしているのは、佐伯君と
佐伯君に判断を仰ごうとしているのは、この面々の中では表向きリーダー扱いなので、私は彼が何て言おうと、従うつもりである。
つまり、こんな状態なので、方向性が決まらないのである。
――ズドン。
遠くの方から音がし、
「セナ」
「セナさん」
おい、エルはともかく、アルストリア。お前は私に指示を聞いたら駄目だろ。
「……
でも、一応言う。
「で、私たちはどうする?」
自然な流れを装いつつ、佐伯君に聞いてみる。
「え……」
「避難するか、様子を見に行くか。好きに選んで良いよ」
正直、私の『闇属性』センサーに引っ掛かったり、引っ掛からなかったりしてるから、別に向かったところでそんなに困らないだろうし、何より私がサポートに回れば問題ないはずだ。
それに――自業自得なところもあれど、この冒険者を放置するつもりはない。
みんなの目が向いたからか、まさか自分に判断を委ねられるとは思ってなかったであろう、戸惑うような目を返してきた佐伯君が微笑みを返す。
――君が決めれば良い。
この先、自分で決めなきゃいけないときが必ず来る。
対人戦闘も魔物との戦闘も、やはり少しばかり早かった気もするが、時が来てしまったのだから、仕方がない。
「逃げたい、ところだけど、魔物とかは一度見ておきたい。見ておかないと、駄目な気がする」
「そっか」
「うん」
軽く確認の意味も込めて返せば、頷かれる。
「鳴海さんは?」
「お前らに任せる」
うん、何となくそんな気はしてた。
「だって。アルストリアさん」
「……仕方ないですね。
「分かってますよ」
佐伯君たちは
「エル。お前にはみんなのサポートを頼みたい」
「俺、必要無くね?」
エルよ。気持ちは分かるが、ちらっとこっちを見て言うの、やめーや。
「さすがに俺無しで向かわさせるのだけは避けたい」
「あー……まあ、そうだな」
だから、エルよ。アルストリアの言葉に、
つか、佐伯君と鳴海さんも一緒だっていうのに、信頼ねーなぁ。そんなに私が一人で魔王戦に挑んだことを根に持ってるのか。
「あれはどうする?」
エルが指したのは、今もなお暴走状態の冒険者。
正直、魔力切れを起こすまでそのままにしておいても良いのだが、私たちも一応関係者である以上、無視することは出来ない。どうしても優先順位は魔物が先にになるけど。
「
おやまぁ。
「ですから、セナさん」
何か剣を渡された。
「もしもの場合は、容赦なくやってもらって構いません」
「アルストリアさんの得物が無くなると思うんですが」
いや、気持ちは分からなくはないんだけどさ。そもそも、剣どころか武器も無しにどうする気だよ。
短剣とか持ってるのは予想出来るけど、リーチの差が違うだろうに。
「問題なく。予備はいくらでもあるので」
あ、これは連絡ついでにそこから頂戴してくる気だな?
「予備、ですか」
そして、渡された剣は『
不自然さを無くすなら佐伯君か鳴海さん辺りに渡しておくべきなんだろうけど、もし相手が相手ならということで、私に渡してきたんだろう。
「責任は、俺と国が持つ」
「……何か言われました?」
「いくらかは」
アルストリアはぼやかしていたけど、姫様か陛下辺りに私関係で何か言われたんだろうなぁ。
「そうですか」
何だか益々ややこしいことになりそうだ。
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