第十七話 参戦と、再会せしは

「どんな結果になったとしても、恨まないでくださいね」


 そう笑顔で言ったものの、ある意味これは脅しである。


 さて、久々の戦闘が対人戦闘なところに不安は残るが、今まで通り・・・・・に戦えば問題ないだろう。

 もし、危険だと判断したら、アルストリアも止めてくれるだろうし。


「セナさん」

「んー?」


 アルストリアに呼ばれ、目だけ向ける。


「壊さないでくださいよ」

「誰に言ってんの?」


 人のことを馬鹿にしているのか。この騎士様は。

 だが、呆れた様子で言ってくる。


「時と場合を選ばない卑怯なことと仲間を貶されることが嫌いな、セナさんにですが?」


 この野郎……。

 だが、元仲間なだけあって、アルストリアが言っていることは間違ってはいない。


「おいおい、仮にも見届け人が片方のチームに口出しして良いのかよ」


 まさかこのタイミングで口出しするとは思っていなかったのだろう、冒険者の一人がそう告げるが、アルストリアは彼らを一瞥すると、再度こちらに目を向ける。


「ええ。それに貴方がたが、彼女に勝てるとも思いませんし」

「なぁっ!?」


 これはまた……言ってくれたものである。

 いや、アルストリアにしてみれば、元とはいえ勇者と一介の冒険者の戦いを見ているようなものだから、結果など分かっているようなものなのだろうが。

 でも、それを彼らは知らないし、立ち会い兼見届け人を引き受けた騎士アルストリアにすら、こんな小娘に負けると思われているとは予想すらしなかったのだろう。


「じゃあ、もし俺たちがこの嬢ちゃんに勝ったら、あんたどうするんだよ」

「どうもしませんよ? それに、彼女が負けるなんて思っていませんので」


 何とまあ、信頼されているのは嬉しいが、それはプレッシャーだからね?


「……何かすごい信頼されてない?」

「あれはさ、ハードル上げまくった無茶ぶりって言うんだよ。佐伯さえき君」

「つか、物凄い余裕だな。お前ら」


 私と佐伯君が話していれば、鳴海なるみさんがそう突っ込んでくる。


「それ、まんまブーメランですよ」

「……」


 同じことを思ったのか、佐伯君の台詞に鳴海さんが目を逸らす。

 まさか、自分でもそう思ってたのか。


「――ッ、!?」

「まあ、さっきよりは上手かったですけど、まだ気付ける範囲ですよ?」


 そもそも、私の死角にいなかった訳じゃないから、捌こうと思えば捌けるんだよなぁ。


「クソが……」

「本当に何者なの、結城ゆうきさん」


 巻き込まれ召喚された元勇者ですが?

 ――なんて答えてる暇などないので、『火』……は威力を変えたところで周辺に燃え移るとヤバいから、『水』にしよう。


「動きも、魔法の発動も早い……っ!」


 見ていた冒険者の誰かが呟く。


「きっと、俺たちと会う前に何か仕掛けてきたんだ!」

「失礼な。貴方たち相手にドーピングとかするわけないでしょ」


 こっちは普通の生活をしていた高校生で、少しだけ召喚勇者経験があって、更に今は巻き込まれ召喚された上に勇者一行の一人だぞ。

 何もおかしなことはしていない。していないのだが――冒険者の奴らが顔を引きつらせる。


「見事に挑発しちゃったね」

「つか、今のでキレるのか」

「いや、だって今の結城さんの言葉は『あの人たち相手にドーピングするまでもなく勝てる』って、言ってるようなものだし」


 佐伯君、説明ありがとう。あと、完全にとどめを刺しましたね。


「黙って聞いてりゃ、好き勝手言いやがって……!」


 リーダー格の男が怒りの形相でこちらを睨み付けてきたかと思えば、彼を中心に、風が渦巻いていく。


「おいおい、何かヤバくないか!?」

「みんな、逃げて! 貴方たちも!」


 この状況がどうなっているのか分かったらしい魔導師の女性が周囲に注意換気を促したあとに、私たちにも声を掛ける。


「……ちょっと、これは無理かなぁ」


 無属性の魔法が使えたら、遠慮なく使ってたけど、実際は使えないからなぁ。


「どうします? あれ」

「う~ん……」

「迷ってないで逃げようよ! あれはさすがにどうにも出来ないって!」

「結城。気持ちは分からなくはないが、身の安全が最優先だ」


 アルストリアが意見を求め、佐伯君と鳴海さんが避難を促してくる。

 そんなときだった。


「うわぁぁぁぁっ!?」


 冒険者の起こした風により、子供が空へと吹き飛ばされる。


「ああもう……っ!」


 身の安全は必要だけど、こちらの事情で巻き込まれた子供を助けないわけにはいかない。


「鳴海さん、風魔法で――」


 援護を、と言おうとするが、すぐ側を通りすぎて、子供を助けに行った人に気付く。

 けれどもし、私の見間違いでなければ、あれは――


「エル……?」


 目を細め、同じように『』に目を向けていたアルストリアが不思議そうに呟く。


 ――タイミングが良いのか悪いのか。


 いや、子供が助かったことについては良い方だし、私の存在がバレることに関しては悪い方なんだけど。


「みんなして、俺たちを――俺を、馬鹿にしやがってぇぇぇぇっ!」


 風の渦の方から、そんな声が届く。

 けれど、そんなのに気を取られてる場合じゃなかった。


「えっ」


 いつの間にか身体が浮いていた。


「結城!?」

「結城さん!?」

「セナ!?」


 あ、アルストリアが素で叫んでるや。

 それにしてもコレ、どこまでぐるぐると飛ばされるんだろうなぁ。あ、回り過ぎて何か気持ち悪くなってきた――なんて思っていたけど、身体の浮遊がいきなり止まる。

 ……何故いきなり止まったのかは、分かってる。『彼』が助けてくれたからだ。

 故に、必死に目を合わせないように逸らしているのだが、それよりも一番厄介な問題があった。


「お姉ちゃん、大丈夫……?」


 先に助けられていた子が聞いてくる。

 きっと私の様子を見て、心配してくれたのだろうが、今の私に返せるほどの余裕はない。


「どうやら、このお姉ちゃん。気分悪いみたいだから、そっとしておいてあげてもらえる?」


 エルよ。気を使ってくれたのは有り難いが、ウエスト部分に回していた腕に力を入れるのだけは止めてほしい。マジで吐きそうだから。


「吐くなよ。もし吐いたら、ここから落とすからな。――セナ」

「……」


 これで是が非でも吐き気を耐えなければならない。

 そして、やっぱりどころか完全にバレてましたね。あはは……はぁ。


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