第十四話 レフィーリアから見た、“勇者様”
「アルストリアさんもそうだけど、
「ありゃもう、見て避けるんじゃなくて、勘で避けてるんだろうな。見て避けてたら、多分間に合わない」
二人の戦いを見ていたカナタ様たちの会話を隣で聞きながら、目の前で戦い続ける二人を見つめる。
アルストリアはともかく、セナ様は剣を握らなかったブランクを感じさせないほどに動き回っている。
相手が勝手知ったるアルストリアだからか、元からそんな性格だったのかは知らないけれど、今のセナ様は嬉々として模擬戦を行っている。
剣がぶつかり、魔法が飛び交う。
きっと、あの二人にとっては見慣れた光景なのだろう。
「勇者、ですか?」
その存在を知り、聞かされたのは、『海上国家 レレイラ』で勇者召喚が行われると聞かされた時。
『勇者』という存在については知っていながらも、近いようで遠い存在――まるで御伽噺。
この世界に生まれた『勇者』が居なかった訳ではないし、異世界から『勇者』となり得る人物をこの世界へと喚び寄せる召喚陣がいくつかの国々に無いわけでは無いのだが、その時はまだ信じられなくて。
そして何より、この世界を救うために、他の世界の人間を巻き込ませるのはどうなのだろうか、と疑問に思ったが、召喚された勇者は私たちのようなこの世界の住人よりも、強力な力を持っているらしい。
剣を持てば、敵を凪ぎ払い。
膨大な魔力を持って、強力な魔法を放つ。
それはまるで――人の形をした兵器。
その勇者に同行することになる勇者一行は、レレイラだけではなく、他の国々からも選ばれることとなり、我が国からはアルストリアと数人の騎士と魔導師がレレイラへと向かうこととなった。
「アルストリア!」
「殿下? いかがなさいましたか」
運が良いのか悪いのか。
アルストリアのことは知っていたので、彼を見つけるのにそんなに時間は掛からなかった。
「あのですね、少しお話ししたいことがありまして。お時間はありますか?」
「ええ、まあ……」
そして、彼とは『勇者』について、話し合った。
「貴方には言うまでも無いとは思うのですが、どのような人が『勇者』として、お越しになるのかは分かりません。ですが、可能な限り、友好関係を築いてください。私たちの勝手とも言える事情で、最前線に立ってもらうのですから」
『世界を救う』という大役を押し付けるのだから、助けてもらって当たり前、と思っては駄目なのだ。
もし、勇者が『この世界を助けたくない』などと思った場合、世界は終わりへと進んでいく。
故に、勇者に嫌われたり、嫌がるようなことをするわけにはいかないのだ。
☆★☆
アルストリアがレレイラに旅立ち、さらには勇者一行の一人として選ばれ、レレイラを旅立ったことは、世界各国へと知らされた報により、私たちアルトリア民も知ることとなった。
レレイラで先に勇者を見てきた騎士たちによると、召喚された勇者は少女とのこと。
「ちょうど殿下と同い年ぐらいの少女でした」
私と同い年ということは、十代後半ぐらいということだが――そんな子に、この世界の命運を託すと言うの?
「正直、私もあの少女に任せると言うのはどうかと思いますが、『勇者』として召喚されたのですから、彼女に任せるしか……」
「そう。それにしても、貴方は選ばれなかったのね」
一体、『勇者一行』はどのような基準で選ばれたのだろうか。
目の前にいるのは、我が国の騎士たちの中では、それなりの実力もあり、かなりの美形といえるであろう青年だが、召喚されたという少女は彼が気に入らなかったのだろうか?
「ええ、まあ……どうやら、アルストリアの方が上手くやったみたいですよ」
「そう」
どうやったのかまでは分からないが、少なくとも勇者となった彼女に選ばれたのはアルストリアだと、彼は言った。
☆★☆
勇者一行が、
「お初にお目に掛かります、陛下。今代勇者、
――ああ、彼女が『勇者』なのか。
ようやくその姿を見ることが出来た、聞いていた通りの同い年ぐらいの少女。
遠目から見ているから、こちらに気づいているのかは分からないが、どの視線も彼女(たち)に向けられているから、視線は感じていることだろう。
お父様が勇者たちをもてなすために、パーティーを開くのだと言う。
彼女がどう思っているのかは分からないけど、行った国々でパーティーが開かれているのだとすれば、彼女が苦笑するのも理解できなくはない。
「お前も参加しなさい。勇者様と同性の同い年となれば、勇者様もそんなに気を使うことも無かろう」
そうお父様は言っていたが、彼女との共通点など、『同性で同い年』ということのみ。
好みすらも分からないと言うのに、どのように話を発展させていけばいいのだろうか。
年頃の少女たちの話題と言えば、大体は恋の話や日々の出来事ではあるが、戦い続ける毎日の彼女に、その手の話をしたところで困らせてしまうのかもしれない。
他国の方たちは、一体どんな話をしたのだろうか?
「――そうではありませんね。たとえ、どんな話をされていようと、私は私のやり方をするまでです」
利用できる舞台が違うだけで、最初から『彼女と話す』と言う目的は変わらないのだから。
☆★☆
パーティーは無事に終えたが、結果としては作戦失敗だろう。
この世界を救う『勇者様』である彼女の周りには挨拶と言う名の様々な思惑が渦巻いていた。
というのも、一行の中には召喚国の代表としてレレイラの王子もいるため、年頃の令嬢が居る家は伝手を作っておきたかったのだろう。
それは勇者様たちに対しても同じで、男女比率が女性の方に傾く勇者一行に、独身や婚約者のいない貴族男性たちが寄っていくのも分かりきっていた。
しかも、私たち王族も姿を見せているから、挨拶に来る人が多く、私たちから勇者一行の元へ行くこともできないし、あちらから近寄ることも出来なさそうだった。
彼女たちを見てると、時折、女性陣が何か言われて、男性陣が庇うような
「殿下。ご挨拶に向かいますか?」
「大丈夫かしら?」
「向こうにはアルストリアが
護衛の騎士にそう促されたので、勇者一行の元へと向かってみる。
「『勇者様』」
この口から『勇者様』と声に出すとは思わなかった。
「えっと……」
「この国の王女様です」
アルストリアがこっそり教えているのが目に入った。
「お初に御目に掛かります。
「これはご丁寧に。
お互いにそう名乗る。
さあ、何を話そうか。
「それでは、セナ様」
「あ、敬称は無しで構いませんよ?」
――え。
「ですが、仮にも
謁見の時と同様に、彼女にそう言われて呼び捨てにした方々もいるのでしょうが、私にそんなこと出来るはずもなく。
「まあ、無理にとは仰いませんよ。ただ、こちらが慣れていないだけなので」
「……」
きっと、彼女は元居た世界で家族や友人たちと共に、過ごしていたはずだ。
そんな彼女が、呼ばれ慣れていないであろう敬称付きで名前を呼ばれたりすれば、戸惑うのは当たり前だろうから。
「そう、でしたか。では、この国に居る間だけでも、私に何か出来るようなことがあれば、何でも仰ってくださいね!」
思わず前屈みになって、彼女の手を掴み、勢いでそう言ってしまったが、この事に関しては後悔なんてしていない。
「は、はい……」
若干引かれていた気もしなくはないが、
その後の私は勇者様と話せたといえば話せたのだが、状況としては私が一方的に話していた状態だった。
確かに、彼女と話したといえば話したのでしょうが、私が思っていた『勇者様との会話』とは違うもので。
だから、私はあのやり取りが『作戦失敗』だと思えて。
けれどもし、彼女とまた話す機会があったなら――
「今度こそお友達に、なれるでしょうか?」
せっかく、同年代で同性なのだ。
仲良くならないわけにはいかない。
「――いえ、絶対になってみせます」
そんな決意をして、数ヵ月後。
魔王が倒されたという報せが入り、歓喜に湧く人々を残し、勇者は元の世界へと帰還したと、レレイラから伝えられ。アルストリアが、勇者が身に着けていたマントと共に帰国した。
彼曰く、勇者が身に着けていたり、使用していたものは、仲間内で分けたのだそうだ。
「では、レレイラには何も?」
「あ、いえ。レレイラへはルウス殿下が防具を持っていきましたから、何も無いというわけではありません。それに、自分たちで分けるように言ったのは、彼女なので」
勇者直々にそう言ったのであれば、仕方がない。
「では、それは貴方がきちんと管理していなさい」
貴方たちの旅の思い出と共に。
「良いんですか?」
「お父様――陛下から何も言われていないのなら、そうしておきなさい。貴方が勇者様と共に旅した記念として」
そして――……
「あなたが、勇者様ですか?」
彼女は再び現れた。
タイムラグが発生した、勇者召喚により、巻き込まれて――
剣の音がする。
この場で彼女が勇者であることを知るのは、私とアルストリア、騎士団長と副師団長のみ。
彼女が私のことを覚えているのかは分からないけど、それでも、私が彼女のことを覚えているのは事実だから。
「っ、」
アルストリアの切っ先がセナ様の頬を掠るものの、セナ様本人は特に気にした様子もなく、どこか楽しげで。
今度はこちらの番だとばかりに、セナ様の手にしていた赤い光――『火属性』を宿した模擬剣が、アルストリアに迫る。
「そう簡単に食らって
アルストリアが吠え、迎撃体勢に入る。
「もう、二人とも限界でしょうね」
「そうなのですか?」
どちらが有利なのだとか、いまいちよく分かっていないので、騎士団長の言葉に思わず問い返してしまう。
「ええ、今のあの二人は実力を発揮できる相手と戦えているという状況に、ハイになってるだけでしょうから」
「模擬戦、なんですよね?」
「ええ、模擬戦ですよ。ただ、たとえたどんな形であれ、戦う口実があるのなら、利用しない手はないということなんでしょう」
――二人とも、対峙するのは久々でしょうから。
小さくそう付け加えられた言葉に、きっと魔王退治の旅の最中でも時折ああやって腕を
それが、魔王退治の旅も終わり、彼女は送還の陣に乗ってしまった。
でも、
「ですが、そろそろ真剣に止めないと、あの二人が倒れますからね」
騎士団長が肩を竦め、声を掛けるが、聞こえているのか。いないのか。
二人が止まる気配が無い。
「……あの二人。団長の声聞こえてて、続けてるな」
「みたいだねぇ」
カナタ様たちはそんなに驚いた様子もなく、そう告げる。
「えっ」
「正確には、声は届いてはいますが、まだ大丈夫だと判断なさっているんでしょうね。二人とも状態異常や重傷でないとはいえ、ケガを負っているというのに」
魔導師師団副師団長――オルフェの説明に、不安になってくる。
最初は
私が思っていたよりも、二人は本気で。
「……っ、」
「大丈夫だよ、レフィー。今、団長さんが止めに行ったから」
「え――」
いくら騎士団長とはいえ、さすがにあの二人を止めることなんて――
「ほい、回収」
「……」
出来てしまった。
「あー、やり過ぎた」
「やり過ぎた、じゃないだろ。もう途中から模擬戦レベルじゃなかったぞ」
「
「そこには同意だね。あと、結城さんはレフィーに謝っておきなよ? 途中からずっと心配そうにしていたんだから」
何やら話していたカナタ様たちから私の名前が出たことで、セナ様が私の方を見る。
「始まる前から見るのを楽しみにしていたっぽいのに?」
「も、模擬戦だって聞いていたのに、ここまで本気でやり合うなんて思わなかったんです!」
「んー? でも、『模擬』とは付くけど、勝負事だったし。これが本当の戦いになると、生きるか死ぬかの二択ですからね。いくら相手がよく知る相手でも、手を抜けば
故に、今回は出来る限り、本気に近い形で模擬戦をしていたのだと言う。
せっかく、『勇者様』たちを支えられる『一人』に少しでもなれたのかと思ったのに、私はまだまだだったらしい。
「何が本気に近い形だよ。本気そのものだったじゃねぇか」
「でも、騎士相手に手を抜くと、こっちが負けるの目に見えてるじゃないですかー。そっちが手を抜くなら話は別ですけど」
「……テメェ」
セナ様の言葉に、アルストリアが顔を引きつらせる。
そして、じゃれ始めた二人にカナタ様たちも加わって。
「ちょっ、姫様。助けてっ」
「嫌です。私を心配させた罰です」
だから、助けません。
「はははっ、ざまぁ」
「……アルストリアさん、ウザい」
「何か言ったか?」
「何でもありませーん」
今もなおじゃれ合う彼女たちを微笑ましく見つめながら、駆け寄っていく。
「ちょっ、姫様。いきなり抱き付いてくると倒れ――」
こちらに気付いたセナ様の忠告も空しく、派手な音を立てて、みんなしてその場に倒れ込む。
「おー……」
「つか、お前ら。さっさと
「……はぁ」
「あはは……レフィー、無事?」
「大丈夫です。セナ様が守ってくれたので」
セナ様、アルストリア、ユズキ様、カナタ様、私の順で声を出す。
ちなみに、倒れ込んだ順番は下からアルストリア、ユズキ様とカナタ様、セナ様と私である。
「何か凄い音がしたみたいだが……」
「大丈夫かっ!?」
騎士団長たちが慌てて駆け寄ってくるが、私たちの状態を把握した二人の目は「お前ら、何してるんだ」と言いたげで。
「あ、いや、呆れる前に手を貸してもらえると有り難いんですが……」
そんなセナ様の申し出もあって、二人の手を借りつつ、私たちは何とか起き上がる。
「姫様、汚れちゃいましたね」
「そうですね……」
メイドたちの仕事を増やしてしまいました。
「まあ、私も人のこと言えませんけど」
軽く服を
そんな彼女をぼんやりと見ていたからか、カナタ様から不思議そうに尋ねられる。
「レフィー、どうかした?」
「いえ、何も」
ただ、特に理由もなく見ていただけなので、こう返したのは嘘ではない。
そして、セナ様たちが戻ってきたのを確認した後、時間も時間なので、私たちは夕食へと向かうことになったのでした。
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