第十三話 模擬戦、やってみました。Ⅲ(元勇者vs騎士(元勇者一行))


 さて、今度は私たちの番である。

 模擬剣とはいえ、軽く二、三回素振りしてから鞘に収め、アルストリアに目を向ける。

 何が楽しいのか、彼は笑みを浮かべているが、気持ちが分からない訳ではない。

 だって、こうやって剣を交えるのは久しぶりだから。模擬戦だけど。


「――で、何故、ここに居るんですか。姫様」


 五分間の間に何があって、このお姫様はここに居るのだ。


「何やら興味深いことをすると聞いたので」


 その『興味深いこと・・・・・・』って、私たちの模擬戦のことだよね?

 元勇者わたしvs元勇者一行アルストリアだから、見に来たんだよね?

 そして、『聞いた』ってことは、誰かがやっぱり話したんじゃねーか!


「一応は注意しますが、危ないですよ?」

「大丈夫ですよ。カナタ様たちもいらっしゃいますから」


 うふふ、と姫様は微笑むが、危ないことには変わりないと思うんだ。


「それに、こちらに流れ弾が来たところで、貴女がどうにか防いでくれるでしょうし」


 貴女からの、私への信頼は一体どこから来ているのかを、一度聞いてみたい。


「それじゃ、そろそろ始めるぞー」


 騎士団長さんの声が届く。

 どうやら、姫様のことは本当に見学メンバーに任せることになるらしい。


「はい!」

「いつでも」


 相対するアルストリア、私の順で返せば、試合開始の声が掛かる。


「手加減抜きで行かせてもらいます!」


 抜剣したアルストリアが、走ってこちらに向かってくる。

 こっちとしては、最初の行動は絶対回避と決めていたから、軽く後方に下がることで、アルストリアの一撃目を回避する。


「やっぱり、避けられるか」

「予想していたなら、何で突っ込んで来るかね」


 魔法使えるんだから、初撃は魔法でも良かろうに。

 そう思っている間にも、アルストリアの攻撃は止まらない。


「避けてばかりだな」

「んー? 私だって、別に何も考えずに避けてる訳じゃないよ?」


 そこでハッとしたように、アルストリアが地面に目を向ける――が、そこには何もなく。

 まあ、以前まえに避けながら魔法陣書いたことあったから、今回も似たような手で来るとでも思ったのだろう。


「……セナさん」

アルストリア・・・・・・のことだから、みんなと別れてからも訓練を怠ったりはしてないんだろうし、現在進行形で、あの時よりももっと強くなってると思う。私が分からないぐらいに少しずつ」


 私が何を言いたいのか察したであろう、アルストリアは返してこない。


「でも、私だって、あの時から多少のブランクはあっても、アルスとはまだ明確な差がついたとは思ってない」

「……」

「だから、現時点でのアルスの実力と、私の実力。可能な限り、ぶつけてみようか」


 抜剣した模擬剣の切っ先を向けて、そう言ってやれば。


「……ああ、別に構わない」


 声のトーンは変わっていないが、表情は違う。

 明らかに嬉々とした感情が現れている。


「それじゃあ、今度はこっちから――行くよ」


 私とアルストリアとの距離を一気に詰め、持っていた剣を振るう。


「っ、!?」

「さっすが」


 とっさにアルストリアが対応するが、それを称賛すると共に彼の足に蹴りを入れる。


「っ、火傷か……」

「私の得意分野は『火』と『水』だからね。まだ能力がよく分かっていない『闇』は使えないけど、この二つがあれば十分じゅうぶん


 先程、私が蹴りを入れた場所から熱さを感じたのだろう。

 顔を顰めるアルストリアに、そう言ってやる。


「余裕だな」

「だって、アルストリアだもん。余裕でいられるうちは余裕ぶっておかないと」


 お互いの手の内は大体分かっているから、せっかく負わせた火傷も、そのうち回復させてくることだろう。


「そうかよ。それなら――元勇者おまえ相手に手を抜くのはここまでだ」


 ああ、何だろう。物凄く、物凄く――面白く、楽しくなってきた!


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