第十二話 模擬戦、やってみました。Ⅱ(勇者の残したものとぶつかりあう氷炎)


「装備って、あの時のか?」

「そう。あの時・・・の」


 あの時――勇者として活動していたときの装備。

 剣だけはどうしたのか覚えているのだが、それ以外はもう仲間に一任――というか、みんなが個人的に管理するかレレイラに保管してもらうかの二択だったし、私としてはてっきりレレイラに保管されているのだと思っていたのだが……さて、どうなっていることか。


「マントは俺が、魔導具はエミリアが。エルとエレインは宝石とか装飾品系を持っていったぞ。で、召喚国であるレレイラに何も残さない訳にもいかないので、防具はルウス殿下――というか、レレイラに任せた」

「そっか」


 むー……となると、最初に回収するのはマントになるわけか。

 そして、エミリアたちからも回収するとなると……


「問題はエルの居場所、か」


 他のメンバーと違って、唯一各地を転々としている彼を見つけるのは大変だろう。

 手紙を出したところで、届くかどうかも怪しい。


「まさか、順番に回収していくつもりか?」

「いや、剣以外は持っててもらっても構わないんだ。金銭面だって、旅立つときには渡されるだろうから、そんなに心配していないんだけど……」


 剣だけは絶対に回収しなきゃならない。


「ま、確認できたし、もういいかなって」

「……」


 何か疑われている気もするが、無視である。

 それにしても……


「長いなぁ」


 まだ吹雪いている。


「……」

「……」

「……」

「……止める、か?」


 うーむ……


鳴海なるみさーん!」


 とりあえず呼んでみるが、返事があるはずもなく。


「セナさん」


 あくまでも、他人の振りをしつつ、アルストリアが聞いてくる。


「騎士団長さーん!」


 呼び掛ければ、一瞥される。


「他の二人の様子がおかしいんですがー!」


 吹雪を示しながら、やや叫ぶようにして言えば、副師団長さんたちがいる方に騎士団長さんと佐伯さえき君が目を向ける。


「いつから?」

「もう、かれこれ十分じゅっぷんぐらいですかね。とりあえず、広がらないように、“熱風”で抑えてはいますけど」

「……」

「……」


 もう一度、時計を確認してみる。


「雪国じゃないだけマシだけど、このままずっと続くと凍傷になりかねないぞ」


 仕方ない、か。


結城ゆうきさん!?」

「我慢比べを止めてきます」


 今、鳴海さんに寝込まれても困るから。


「もう時間も無いし、行動制限されるのは痛手だからね」

「でも、危なくない?」

「大丈夫だよ。私、『火』使えるし」

「いや、でも……」


 佐伯君の不安そうな表情は変わらない。


「じゃあ、何か他に案はあるの?」

「……それは」

「佐伯君の気持ちは分からなくはないけど、止められる手があるなら、使ってみた方が良いでしょ?」


 というわけで、と吹雪に目を向ける。

 規模的にはちょっとお久しぶりだから、微調整しながらになるだろうけど、相手が『氷』なら、『火』で抑えられるはずだ。


「あ、あと、もし私がぶっ倒れたときはよろしく」

「え?」

「は?」


 佐伯君と騎士団長さんはきょとんとしていたが、アルストリアは頭を抱えていた。

 やる直前で言うな、ってことなんだろうけど。


「さて、今回は吹雪を相殺するだけだし」


 元勇者兼先輩勇者として、見せてあげよう。

 足元の赤い魔法陣が視界に入る。

 銃を撃つかのように親指と人差し指を立て、今もなお吹き荒れている吹雪と平行になるように空へと向ける。


「『我が願いしは解氷』」


 この世界の詠唱って、一部独特なものがあるんだよなぁ、と思いつつ、紡いでいく。


「『舞え、緋の鳥よ 開け、の華』――」


 詠唱を進めれば進めるほどに、人差し指の先にも赤い魔法陣が出現する。


「――“紅蓮鳳華ぐれんほうか”」


 魔法陣から現れた、凄まじい炎の鳥が飛翔し、吹雪の中央へと突っ込んでいき――同時に、炎の華を開かせる。

 火と氷が激突したその影響か、爆風がこちらを襲ってくる。


「ちょっ――!?」


 何かぎょっとされたような気もするが、これでも手加減したから大丈夫……なはずだ。多分。


「……」


 きらきらと、完全に解氷しきれなかった氷の粒と花びらのような火の粉が、降ってくる。

 うん、綺麗。


「……結城?」


 やっぱりというか、その場に倒れていた鳴海さんからぼんやりとした眼差しを向けられるが、正直地味にキツい。

 あの鳥……というより、あの魔法、私からかなり魔力を持っていったっぽいからなぁ。


「あー……生きてます?」


 生きていなかったら、声が掛けられるはずもないのだが、思わずそう聞いてしまう。


「何か、その……悪い」

「いえいえ。あのままだと、私たちの方も出来なくなっていたと思うので」

「そうか。いや、本当に悪かった」


 やり過ぎたという自覚はあるのか、目を逸らされる。

 副師団長さんの方は、といえば、騎士団長さんたちが声を掛けていた。

 聞こえてきた声のみを信じるなら、どうやら、鳴海さんのことも助けたかったらしいのだが、自分の身を守るだけで必死だったらしい。

 こっちに気づいた副師団長さんに、小さく頭を下げられる。


「それで、どうする。二人の模擬戦もやるか? こんなことになった以上、あまり勧めたくはないが」

「やりますよ。五分ぐらい休憩させてもらってから、ですが」


 騎士団長さんに聞かれて、私はそう返すが、アルストリアはどうするのだろうか。


「俺もやりますよ」


 アルストリアもやる気らしい。


「だが、休憩は五分で良いのか? 俺はもう少し後でも良いんだが」

「冗談はしてくださいよ」


 そして、『ふざけんな。めんのも大概にしろよ』という注釈付きではあるが、きっと私がそうすることを分かってて言っている部分もあるのだろうが。


「さっき魔法を使ったとは言え、万全の状態である方が、アルストリアさん・・・・・・・・もやりやすいでしょ?」


 訳を付けるなら、「お前相手に手を抜くつもりはねーよ」だ。

 状況的には、実力が劣る私の方が不利かつ万全でない状態で、いくら模擬戦とはいえ、騎士であるアルストリアと戦えば、負けるのは目に見えているのだが――実際は逆だし、彼は手を抜かれるのが嫌いだから。


「それもそうだな」

「はぁ。なら、五分後に試合開始な」

「はい」

「分かりました」


 それぞれそう返事をして、一度解散することとなった。


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