第十一話 模擬戦、やってみました。Ⅰ(現勇者組vs教師組)


 やっぱりというか、アルストリアも含め、模擬戦をするらしいのだが、二対二と一対一に分けるらしい(私は後者とのこと)。

 今回は魔導師師団副師団長さん(長いから副師団長さんでいっか)も一緒だから、魔法を使用しても良いみたいだけど、相手が相手だからか、副師団長さんは二種類の防御魔法のみ使用するとのこと。完全に超ハンデマッチです。

 ちなみに、私に対しては全力で来る気だというのは察しました。


「どれを使うか、決まりましたか?」


 使用する模擬剣を見ていれば、騎士団長さんがこっそりとそう聞いてくる。

 本物ならともかく、刃を潰してある模擬剣を選ぶのに、そんなに迷う必要は無いんだよなぁ。

 でも、やるからにはやっぱり勝ちたいからね。


「まあ、使い慣れていないやつでも何とかなると思いますよ」

「でも、相手はアルストリアですよ?」

「まさか、私が以前の仲間相手に手を抜くとでも?」


 それこそ、『まさか』だ。


「いや、変なことを聞きました」


 変なこととは思っていないくせに、よく言う。


「でもまあ、数日間のブランクはあれど、アルストリアにあっさり負けるほど、私とて握ってなかった訳ではないですから」

「……そうですか」


 負けるにしても、瞬殺されるなんてことは無いはずだ。

 そして、それぞれ向かい合うわけだが……


「……」


 隣に立つアルストリアの顔が、満面の笑みなのがムカつく。


「……アルス」

「何らかの賭けをしているわけではないんですから、ね?」


 こっちをチラチラ見ながら、私に同意を求めるかのように言うのは止めてください。副師団長さん。


「それじゃ、さっさと始めますよ」

試合バトル……」


 先に佐伯さえき君たちがやるから、私たちは審判である。


「「開始スタート!!」」


 私たちの合図と同時に、模擬戦開始である。

 佐伯君が素早く駆け出し、鳴海なるみさんが魔法発動のための動作に入る。


「そう簡単に魔法を使わせると思わないでください」


 今回のハンデとして、攻撃魔法が使えない副師団長さんの代わりに、騎士団長さんが攻撃全てを受け持つらしい。

 佐伯君の剣を、騎士団長さんがあっさりと受け止める。


「攻撃魔法は・・・使わないと言いましたが、他の方法を使わないとは言ってませんよ?」


 ニヤリとした笑みを浮かべながら、副師団長さんが素早い蹴りを繰り出す。


「っ、」


 でも、それはとっさに防御魔法を展開した鳴海さんに防がれる。


「佐伯!」

「ああ!」


 全てを言わずとも、鳴海さんの言いたいことを察したらしい佐伯君が、騎士団長さんとの立ち位置を入れ替える。


「二種同時発動ですか」

「感心している場合じゃないですよね!?」


 鳴海さんの取った方法を見て、感心したように告げる副師団長さんに、騎士団長さんから声を上げる。


「大丈夫ですよ。間に合いますから」


 その言葉通りに、副師団長さんの防壁が、騎士団長さんの前に展開される。


「この距離を防ぐとか、嘘だろ!?」

「嘘も何も無いんだけどねぇ……」


 珍しい鳴海さんの驚きの声に、思わずそう呟いてしまう。


「だな。それで、どっちが勝つと思う?」


 アルストリアも魔法については特に疑問に思わなかったらしいが、そう聞かれる。


「さあね。実力からなら、手を抜いていても団長組が勝つだろうけど、佐伯君たちにビギナーズラックが発動すれば、佐伯君たちが勝つ可能性はあるだろうね」

「ビギナーズラック、なぁ……」


 出るか出ないかは本当に運任せだ。


「あ、副師団長さんの方に切り換えた」

「まあ、倒しにくい方と比べたら、倒しやすそうな方を選ぶのは当たり前だよな」


 二人でそんな会話をしつつ、四人の様子を見る。

 佐伯君が副師団長さんに切り換えたが、そうはさせるかとばかりに、騎士団長さんが防ぎに向かう。


「やっぱり、防御魔法も禁止してもらうべきだったかな」

「いや、そこまで行ったらもう、あの人が居る意味が無くなるからな?」

「それもそっか。でも、佐伯君たちがあの人の発動速度に反応するのは難しいよ」


 私でも不意打ちでだと厳しいかもしれない。


「佐伯、後ろだ!」

「っ、!?」


 鳴海さんの声に、騎士団長さんの剣を佐伯君が防ぐ。

 先程と立ち位置が完全に入れ替わっている。


「セナさんなら、こういうときはどうする?」

「一対二? それとも、二対二?」

「後者」

「なら、もう一人は組んだ相手に任せる。魔導師は魔導師に任せるよ」


 餅は餅屋だ。


「もし、前者なら?」

「一対二なら、好きにさせてもらうよ。魔法だって何だって、『敵』を倒すためなら、手を抜く必要は無いでしょ?」

「それもそうか」


 アルストリアはなるほどとでも言いたげに返してくる。


「――でも、模擬戦だからって、何が起きるかなんて、分からないよね」

「は?」


 状況は何時いつだって、変化するのだから。


「佐伯君、そのまま魔法を使っちゃえ!」

「――!」


 何のための魔法使用の許可なのだ。

 前線に立つ者が、魔法を使っては駄目だと、誰が言った?

 戦闘の場に居る者が、自身が勝つためなら、魔法だろうと何だろうと、卑怯と呼ばれなければどんな手を使ってもいいはずだ。

 そんな私の声が届いたのだろう。佐伯君が即座に『土属性』の魔法を発動させる。


「物質強化に関しては、『土』が得意中の得意だからね。団長さんがここからどうするのか楽しみだ」

「この、魔法マニアめ。横から口出しして、どこが審判なんだが」


 何やら横から文句言われている気がするが、無視しておこう。

 佐伯君たちは、といえば、硬直状態が続いていた。『土』の補助があれど、騎士団長さんの剣を押し返せないらしい。

 一方、鳴海さんたちは、といえば……


「……」


 何か吹雪いていた。

 十中八九、鳴海さんの魔法にるものなんだろうけど、これ、誰が除雪するんだ。まさか、私にしろとは言わないよな?


「セナ。俺、ルーレイア言ったときの事を思い出したぞ」

「言うな」


 『氷結国家 ルーレイア』。

 北に位置するこの国は、その名が示す通り、雪に覆われた国である。

 ただ、ルーレイア全域が寒いわけではなく、国内でも北に向かうに連れて極寒の地と化していくのだが、南から来た人たちにはどちらにしろ寒いらしい。

 そのため、他国と接している街(や町)では、防寒着が山ほど売られている。私たちもルーレイアに訪れたときには、お世話になったものだ。


「ま、このまま吹雪かれてもいろいろと迷惑だし」


 『火』属性の魔法――“熱風”を広範囲で展開する。


「燃やすなよ」

「燃やさないよ」


 “吹雪ブリザード”を囲むようにして展開しているから、城に燃え移る心配はない(はずだ)。


「でもなぁ。これ魔力勝負だと、鳴海さんが不利そうなんだよなぁ」

「ん? ユズキの魔力量なら、勝てるだろ?」

「量なら、ね。でも、コントロールとなれば話は別。膨大に近い魔力量をずっとコントロールするってことは、当然その分時間が掛かるし、そんな長時間、コントロールしたことあると思う? この短期間で剣技も覚えなくちゃならないのに」

「……」


 私の言いたいことを理解したのだろう。アルストリアは黙り込む。


「まあ、副師団長さんの判断次第だけど、私も私でヤバいと思ったら抑え込むつもりだから、騎士団長さんたちへの説明は任せるよ」

「ったく、無茶だけはするなよ」


 そう言いながらも、ちゃんとやってくれることを分かっているから。


「ん、大丈夫だよ」


 相性もそうだけど、それ以上に今までの経験にものを言わせるつもりだ。


「ああ、そうだ。後で聞きたいこと出来たから」

「何だ? 今言えることなら、答えるぞ?」


 ……ふむ。


「なら、聞くけど……私の装備って、どうなったの?」


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