第十五話 あっという間の一週間
模擬戦をしていたのが嘘だったみたいに、それがたとえ付け焼き刃とはいえ、出来る限り剣技も魔法も取得した私たちは、アルストリア付きの元、約束通り、先週訪れた冒険者ギルドに来ていた。
「お、逃げずに来たな?」
「……逃げるわけないでしょう」
偉そうに喧嘩を売ってきた冒険者の言葉に、
「
「分かってます。ギリギリまで手出ししません」
この三人の中で、明らかに私だけ別格の戦闘力があるためか、
佐伯君は最後まで渋っていたが、「私でも駄目なら、アルストリアさんに任せよう」と丸投げしておいた。最後の砦は彼ですからね。
そんなこと言いつつ、アルストリア本人にはこっそりと告げておいた。
「――大丈夫。アルストリアは出させないから。国の騎士が出てきたら、それこそややこしくなる」
「なら――」
「私を仲間にしたけりゃ、勇者一行の一人でも連れてこいってんだ」
その一言で、アルストリアは完全に黙りこんだ。
きっと、私がもしもの場合は、本気でやる気だと分かったからだろう。
まあ、そんなこんなで、佐伯君には『アルストリアに丸投げ』したことを、アルストリアには『私が本気出すことを示し』て、鳴海さんからは『自分たちが危なくなるまで待て』と言ったり、言われたりしたわけですよ。
ちなみに、あのとき周囲にも何人かの冒険者たちが居たので、そのときのことを知っている冒険者たちは、今現在、
「大丈夫かしら。あの子たち」
「まだ冒険者にすらなってない子たちを相手にするとか、俺たち、あいつらと同類にされたくないんだけど」
「え、それマジ?」
どうやら、私たちがギルド登録者じゃないことを知っている人が何人か居るらしい。
「うーん……これは早とちりしたかも」
この騒動の原因……相手が悪いとはいえ(だって、こっちは謝ったし)、登録前からこんな騒ぎ起こして、素直にギルドへ冒険者登録できるのかどうか、怪しくなってきたぞ。
「君たち、まだ冒険者登録してないなら、悪いことは言わないから、
「でも……」
冒険者のお兄さんが佐伯君に言うが、当の佐伯君は私の方を一瞥する。
「冒険者同士の私闘なら、ギルドは干渉しないけど、貴方たちはまだ登録すらしていないでしょ?」
「悪いことは言わねぇ。引き下がるなら、今のうちだ」
この人たちが、完全なる善意で言ってきていることは分かる。
けどさ。
「お気持ちは有り難いのですが、このまま何もしなかったら、彼女が……仲間を、取られるわけにはいかないので」
「……」
彼の意志は固いから。
私という『仲間』のために、彼は強行スケジュールで出来る限りのことをやっていたのを知っているから。
「貴女はそれで良いの?」
「正直、不安ですけど、言い出したら聞かないので」
結局はそこなのだ。
彼が自分自身のために言っているのではなく、私のために戦おうとしてくれていることが分かっているからこそ、私は止められなかった。
「それに、いざとなったら私も加わりますからね」
腰から下げていた剣を軽く見せてみれば、心配そうな表情のまま、「助けてほしかったら、いつでも言いなさい」と言って、
声を掛けてくれた冒険者の人たちは仲間同士だったらしく、戻っていった場所にいた冒険者たちと何やら話していた。
「鳴海さん、鳴海さん」
「何だ?」
「私たち、完全アウェーかと思っていたんですが、どうやら違ったみたいです」
「……ああ、そうだな。少なくとも、俺たちを心配して、声を掛けてくれた人たちはいた」
ふっと笑みを浮かべた彼に、笑い返す。
「これは、何が何でも勝たないと。私たちは大丈夫ですよーって」
「そうだな。じゃないと、冒険者どころか旅なんて、無理だろうしな」
とりあえず、ある程度、鳴海さんの肩の力は抜けさせられたと思う。
後は……
「佐伯君」
「……どうしたの?」
「大丈夫?」
ずっとしかめっ面だけど、と言えば、ああ、と眉間の皺を取り除くかのように、ぐりぐりと指で押している。
「あんまり、気負わないようにね。鳴海さんも居るし、私も居るし」
「でも……」
「自分の身は自分で守ります。それに、私が蒔いた種でもあるから、少なからず私にも責任があるんだよ」
だから、佐伯君が気にすることなど何も無いのだ。今回の事に関して、彼にとっては、完全にとばっちり同然なのだから。
「だから、姫様を悲しませるような結末だけは、絶対に避けよう?」
つまり、私が居なくなっても駄目だし、佐伯君たちが瀕死になるほどの重傷を負っても駄目なのだ。
「……うん、そうだね」
それにしても、先程からずっと笑みを浮かべっぱなしだから、顔が引きつりそうである。
軽く頬を撫で、息を吐く。
「どうやらそっちの話し合いも終わったみたいだし、始めるか」
そう告げる冒険者の男に、待ったが掛かる。
「その前に、これだけの
「……何だと?」
「あと、分かりやすいルールとして、殺しも含め、やり過ぎるのは厳禁とさせていただきます」
「ふざけんな! 勝手に出てきておきながら、決めるんじゃねぇ!」
「では、取り止めますか? それならそれで、私としても有り難いのですが……両者、いかがなさいますか?」
……へぇ、そう来たか。
でも、これでアルストリアの手を借りることは出来なくなったわけだ。
「どうする?」
「結城さん、これだと……」
佐伯君もアルストリアの手が借りれないことを察したらしい。
「ま、そういうことなら仕方ないね。足りなさそうだったら、中級解放でもしますよ」
「中級解放?」
「って、中級魔法、使えるの? 僕たち聞いてないんだけど」
うん、言ってないし。
それに、中級どころか上級使えるのは『火』と『水』だけで、『闇』は本当に初級しか使えないから、嘘は……ついていないはずである。
「まあ、それは
「ギルド職員を引き合いに出すつもりか?」
「彼らがどんな人であれ、私たちに勝負を持ちかけたのは事実ですから」
「受けた俺たちも俺たちだがな」
鳴海さん、それは言わないでください。
「とりあえず、さっさと勝って、帰るに限ります。余計なゴタゴタを
とりあえず、返事しましょうか。
「分かりました。こちら側は勝負の判断も、そこの騎士様が判定役を引き受けることについても、どちらのことに対して、どんな結論になろうとも構いません」
「おいおい、そっちでどんな判断したのかは分からねぇが、勝手に決められちゃあ困るぜ」
「……と、言いますと?」
まさか、いちゃもん付けるつもりじゃねぇだろうな。
「つか、その騎士様。そっちの奴らと一緒に居たじゃねぇか。そんな奴に判定役なんざ、任せられるかってんだ」
いちゃもん、というか普通の文句だった。
よく見てたら、分かることだよね。
「ああ、そういうことですか。それならご心配なく。彼らには手助け等の一切手出ししないので」
「信じられるか!」
「信じる信じないはご自由に。貴方がたがどう思おうと、私は手出しいたしません。この場で今のやり取りを聞いていた全員が証人です」
これで、多数の視線は私たちに、数人の視線はアルストリアに向くわけだ。
「これはまた……はっきりと宣言されたな」
「ですねぇ」
しかも、私に目を向けてだから、完全に自力で頑張れってことなんだろうなぁ。
いや、これは意外とキツいのかもしれない。肉体的にも、精神的にも。
「……」
「大丈夫か?」
「大丈夫です。スイッチ切り換えます」
戦闘モードを軽くオンしておかなければ、状況の見極めは難しくなる。
頬を軽く叩いて、切り換える。
「それでは、二人とも。無茶をせず、可能な範囲で頑張ってください」
「うん。せめて、ここ一週間の努力が無駄にならない程度には、頑張ってくるよ」
「そうだな」
それじゃあ行ってくる、と前に出た二人を見て、思わず剣の柄に手を乗せる。
図らずとも勇者となってしまった少年と、彼に巻き込まれた青年。
対人戦闘などまだ先のはずだったのに、思わぬタイミングで訪れてしまった。
「――頑張れ、二人とも」
後ろには、
ただ、一つだけ。
予想外の事があったのだとすれば、それはきっと――……
「へぇ、ここがアルトリアの王都か。アルスのやつ、元気にしてっかな」
元勇者一行の一人が、この国の王都に来ていたことだ。
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