第八話 姫と元勇者と騎士Ⅰ


「それで、いかがでした? 初めての城下は」


 姫様がそう聞いてくるが、正直、私にはその会話に加わるほどの余裕など無い。


「楽しかったです! いろんなものがあって、いろんなことがあって!」

「ふふ、そうでしか。楽しんで貰えたようで何よりです。アルストリアも任務、ご苦労様でした」


 興奮しながら話す佐伯君に、姫様も嬉しそうに返しながら、アルストリアにも振る。


「いえ。私は与えられた任をこなしただけなので」

「そう?」

「はい」


 「なら、いいわ」と姫様は切り上げてしまう。


 正直、上手いこと切り替えた佐伯君と何事も無かったかのように話すアルストリアに驚きである(まあ、後者は当たり前といえば当たり前なのだが)。


「セナ様はいかがでした?」

「楽しかったですよ」

「それだけですか?」

「ええ、まあ……」


 姫様のことだから、アルストリアとのことを聞きたいのだろうが、特に何かあったわけでもない。……武器屋で有無を言わせない笑みを向けられたことと冒険者ギルドでの出来事以外は。


「ユズキ様は?」


 姫様が鳴海さんにも振る。


「いろいろと興味深いものがありました。また時間があれば、ゆっくり見てみたいものです」


 まるでお手本みたいな答え方である。


「そうですか」


 それでは――と、私の手をがっしりと握られる。


「あの、姫様……?」


 嫌な予感しかしないのだが。


「女の子同士、まだまだお話ししましょう!」


 やっぱりか!!

 そして、そこの二人。もう慣れたとばかりに見送ってないで、助けて!





「あの、姫様。お分かりでしょうが、私、自分から積極的に話すタイプではないのですが」

「もちろん、分かってます」


 だったら、何故呼んだ。


「だって、こうでもしないと、セナ様はアルストリアともお話しにならないでしょう?」

「……何が目的ですか」

「目的も何も、貴女がアルストリアときちんとお話ししていれば、こうなることなんてなかったんでは?」

「……」


 この姫様ひと、一体どこまで知って――


「では、私はカナタ様のお部屋でお話ししてきますから、きちんとお話ししてくださいねー。あ、テーブルと椅子はご自由に使ってもらって構わないので」


 そう言って、姫様は部屋を出ていく。

 部屋の主が居ない部屋で、何を話せと!


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