第六話 城下にてⅠ


 姫様からの提案で始まった、城下巡り。

 様々な人々や、人間だけではなく獣人などの亜人たちが行き来する光景に、「ああ、やっぱり異世界なんだな」と思うのと同時に、「帰ってきたんだな」と思う。


「うわぁ……っ!」

「皆さん、はぐれないように。特にセナさんは女性なので、特に気を付けてもらえると助かります」

「はい、もちろんです」


 城下の光景に目を輝かせている少年を余所に、案内役の騎士さん――アルストリアの忠告に耳を貸す。だって、人攫いとか怖いし。

 ちなみに、アルストリアの私たちへの呼び方は、みんな『さん付け』だ。


「まあ、今の状態なら、そいつの方が心配になるけどな」

「あはは……」


 少年を見ながら言う鳴海なるみさんの言い分も尤もだ。


 私との挨拶が終われば、アルストリアは案内人ガイドモードへと切り替える。

 今回はうっかり召喚してしまった勇者一行の城下見学という名目ではあるが、いくら元勇者わたし騎士アルストリアが一緒とはいえ、いつ何があるのか分からないので、全員念のための帯剣している。私やアルストリアはともかく、二人の剣技はまだまだなので、その出番がないことを祈りたいところではある。


「それにしても、結城ゆうきさん。そうしていると、女騎士みたいだね」

「そう?」

「確かに、何も言われなかったら、女騎士だと思われるでしょうね」

「あはは……」


 アルストリアが言うと、冗談に聞こえない。


「それでは、行きましょうか」


 そんなアルストリアの言葉に、私たちの城下散策もとい城下見学は始まったのである。


   ☆★☆   


「~っ、美味い!」


 近くの屋台で売っていた串焼きを食べて、少年が如何いかにもな幸せそうな顔をする。


「ああ、確かに美味い」


 鳴海さんの口にも合ったらしい。


「セナさんは?」

「美味しいですよ」


 私が何も言わなかったからか、アルストリアが聞いてくる。

 全員食べ終わり、串をごみ捨て場に捨てれば、次はまた別の店――服屋や雑貨屋、異世界特有とも言える武器屋などを見て回る。


「おおっ!」

「鳴海さん、鳴海さん。ねぇ、ほら銃だよ銃!」

「……ここに来て、結城のテンションが一番高いな」


 剣と魔法の世界だというのに、銃というものが存在しているのだから、反応せずにどうするというのだ。


「まあ、相変わらずとも言えますが」

「ん……?」

「いえ、何でもありませんよ」


 何やらアルストリアと鳴海さんが話していたけど、何を話しているのかまでは分からない。


「随分、騒がしいな」


 私たちが話しながら見ていたためか、奥の方から店主らしき人が顔を覗かせる――って、え。


「ん? 何だ。また来たのか」


 いかにも機嫌の悪そうな言い方だが、そんなことよりも今のは私に向けられていないか?


「……」

「ああ、違いますよ。アルバートさん。彼ら・・の案内をしているだけですよ」

「だが――まあ、いい。あまり、騒がしくせんでくれよ。何か買いたければ、奥に居るから声を掛けろ」


 アルストリアの話の方向転換に乗っかってくれたのか、それともどうでもよくなったのか。店主さん(アルバートさんと言うらしい)はそう言い終わると、また店の奥へと戻っていく。


「ねぇ、アルスさん。自分にあった武器って、どうやって選ぶの?」

「そうですね……」


 少年がアルストリアから武器の選び方を聞いている間に、私は店内を見て回る。


「何かあったか?」

「鳴海さん?」

「結城のことだから、一緒に説明を聞くかと思っていたんだがな」


 鳴海さんに示された方に目を向ければ、少年とアルストリアが話しているのが目に入る。


「……そうですね」

「もし使うなら、さっき見ていた銃か?」

「まあ、一度使ってみたいとは思いますが、やはり無難に剣とかの方が良いと思います」


 銃は魅力的ではあるが、やはり使い慣れた武器の方が良いだろうから。


「確かに、剣と魔法の世界ではあるだろうが、だからと言って、剣は……無難、か?」

「まあ、価値観とかは人それぞれってことで」


 これで誤魔化されてくれたかどうかは分からないが、察するぐらいはしてほしい。


「鳴海さんは、これが良いって武器はありますか?」

「そうだな……属性がかせれば良いとは思うが」

「確か、属性は『風』と『氷』と『無』でしたっけ」

「だな」


 となると、中衛か後方支援か。


「弓とか、槍なんかはどうですか?」

「弓や槍か……」


 そのまま考え始めた鳴海さんをそのままに、「そういえば、属性で考えたりしたことが無かったなぁ」と思う。

 召喚されて勇者となった以上、特に意見もなく剣を渡されたからね。


「杖、か」


 私の属性が『闇』と『火』と『水』である以上、職業は魔導師にするしかないのかもしれない。

 いや、別に杖が嫌と言うわけではないのだが、やはり落ち着かない。


「……やっぱ、取りに行かなきゃ駄目かなぁ」

「セナさん」


 呟きと同時に声を掛けられ、思わずびくりとしてしまう。


「セナさんは、どんな武器にするか、お決まりになりましたか?(何かをどこかへ取りに行く的なことが聞こえましたが、気のせいですかね?)」

「いえ、まだですけど……」


 ……って、あれ? 何か副音声的なものが聞こえた気がしたのだが。


「そうですか。セナさんは……杖ですか?」

「あの、アルストリアさん。近いですし、私なら後で良いので、先に鳴海さんの方をお願いします」

「……彼の方を?」


 何で声が数トーン下がった?


「セナさん。後でお話があるので、少しばかり、お時間頂戴しますね」


 あ、これマズい奴だ。


「あ、いや、私に話すことはないので……」

「そちらに無くても、こちらには有りますから」

「……」


 アルストリアの有無を言わせない笑み、久々に見た気がする。

 ……一体、何を聞かれるのやら。


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