第五話 準備と再会


「何だか、お疲れだな」

「……姫様と御付きの人たちに、ずっと着せ替え人形にされてたからね」


 まさか、夕食の時間になるまで付き合わされるとは思わなかった。


「でも、レフィーの事だから、そんなに変な服装にはしないと思うけど……?」

「城下に行くためだけの服装ならまだ良かったけど、お針子さんたちまで巻き込んで、パーティー用のドレスまで仕立てるところまでやってたんだから、この時間までに終わったのが奇跡だよ」


 普通はこんな時間に終わらない。

 終わったのは、姫様の準備が良かったのと、お針子さんたちの腕が良かったからだ。


「それに、次は二人の番だよ。姫様が目を輝かせていたから」

「……マジで?」

「マジで。まあ、そんなに時間は掛からないんじゃないかな。男の人が身に付ける物なんて、女の身からすれば少ないぐらいだし」


 少年と鳴海なるみさんが顔を見合わせる。


「んー、でも時間が掛かりそうだなぁ」

「一から作らないといけないわけだしな」


 二人が夕食を摘まみながら唸る。


「まあ、姫様がやる気満々だったから、頑張って付き合ってあげて」

「……それじゃあ、少しばかり頑張りますか」


  頑張れ、後輩勇者。


   ☆★☆   


「あ、そういえば、結城ゆうきさんがレフィーと一緒にいる間に、案内役の騎士さんが決まったらしくて、挨拶に来たよ」


 それぞれの部屋に戻るまでの間に、少年が爆弾を投下した。


「え」

「結城さんに会えなくて残念だって、言ってたけど」

「まあ、残念そうっていうよりは、どこか困惑してたがな」


 それは、つまり――……


「……そう、なんだ」


 そういうことなのだろう。


「結城?」

「一緒に居られれば、二度手間にならずに済んだと思うと、案内役の騎士さんに何だか申し訳ないです」

「あー、そっか。そうだよなぁ」


 一度、少年たちに会って、次は私に会うために再びやってくる。二度手間ではないか。

 いや、なら、私に挨拶することなど、二度手間になろうとも気にしないのではないのだろうか。


『お初にお目に掛かります、勇者様』


 『騎士』という存在が『自分』という存在に片膝を付いて、まるで忠誠を誓うかのように声を掛けてくるなど、女の子なら一度は夢見た瞬間ではないだろうか。


「……どちらにしろ、謝らないと」


 当日になるのか、その前に会えるのかは分からないけど。

 そして――





初めまして・・・・・。本日、城下の案内役をさせていただきます、アルストリア・ギーヴァと申します」

「これは、ご丁寧に。初めまして・・・・・結城ゆうき星奈せなと言います。先日はお会いできずに申し訳ありませんでした。本日はよろしくお願いします」


 一度で済ますことが出来なかった挨拶は、『互いに初対面』というていで行われることとなった。


 勇者の召喚国であるレレイラに集められた、各国からの代表の中から選ばれる勇者一行。

 彼――アルストリア・ギーヴァはその中にいて、現在地でもあるアルトリア国代表の騎士だった。


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