第四話 姫様からの提案
この世界に(ある意味)出戻りしてから、一日が経った――にも関わらず、ユリフィールからの接触はない。
このまま目的もなく、自堕落に過ごせと? 冗談じゃない。ただでさえ、私は早く帰りたいと言うのに、あんまりではないか。
「……」
「何か不機嫌そうだな」
以前はこっちが呼ばなくったって、出てきてほしくないときに限って出てきたくせに、何で今は出てこないのだ。
――ああ、何だろう。今、無性にレレイラに行きたい。こちらの面々も大切だが、私の装備一式があるのは、(恐らく)レレイラなのだ。ついでだから、みんなに会いたい。
「……」
無言で立ち上がれば、鳴海さんが不思議そうに目を向けてくる。
「少し出てきます」
「一応聞くが、どこに行く気だ?」
「言うと思います?」
「一応って、言ってるだろ」
「……王様に会いに」
「よし、止めとけ」
だから言いたくなかったんだよ。
やだ、この人。会ってまだそんなに経ってないのに、何でこっちのこと分かるんだよ。
「チッ」
「舌打ちも止めような」
舌打ちは音を出したから、ともかくとして。
本当、まだ一日しか経っていないのに、何かやることなすこと鳴海さんに見破られている気がするのは気のせいか? やっぱり、この人は隠れチート……
「
「――な、わけないか」
「……?」
少年と二人、何故か真剣白羽取りをしあっているのだか、少年の木剣を頭に直撃させていた。
その後は軽く昼食を取って、再度訓練である。
私は復習も兼ねているし、『闇』の魔力のコントロール練習も行えるから、全く苦ではないのだが、慣れない二人は眉間に皺を寄せたりしながら、コントロールの練習をしていた。
夕食を食べたら、自由時間。
元の世界なら、宿題やら漫画やらゲームやらでいろいろとあったのだろうが、こちらにはそういうことはないから、やることがない。
「……」
まあ、この時間に姫様と話したり、少年と話したり、鳴海さんと話したり、剣の素振りをしたり、魔力のコントロールをやってみたりしていたら、いつの間にか一週間が経っていた。
「え、街に行って良いの!?」
「ええ……」
あの、姫様。こっちの様子を窺いながら言うの、止めてください。
「皆さんが来てから、もう一週間ですし、城内だけではなく、城外の様子も知ってもらわなくてはならないので」
そういえば、レレイラでも似たようなことをしていたな。
確か、あの時は――
「姫様。私たちはどんな格好で行くんですか?」
「そうですね。設定としては、良家のご子息やご令嬢。もしくは、裕福な商家のご子息やご令嬢、といったところでしょうか」
ですよねー……。王城で手に入る服なんて、庶民のものと比べたら、明らかに別の代物だし。
「それと、当日は私服の騎士たちが護衛に付きますから、気楽に見て回ってくださいな」
「え、でも、騎士の人たちが仕事しているのに、僕たちだけ遊ぶって言うのは……」
「気持ちは分かりますが、彼らもそれが仕事なのですから、当日ぐらいは受け入れてあげてください」
まあ、そうなることは、何となく察していましたよ。レレイラだと、事前情報無しでしたけど。
「案内役は誰が?」
「それも、騎士が務めます。セナ様もいらっしゃるので、女性騎士も含めて、人選中ではありますが」
あ、もし女性騎士になったら、少年か鳴海さんのハーレムの一員になるパターンだ。
もし、男性騎士なら――……
「けどまあ、勇者様たちをご案内するわけですから、変な人が来るなんてことは無いと思いますよ?」
「……」
姫様……?
「元とはいえ、他国の勇者様を
「姫っさ……!?」
疑問に思っていたことをこっそり耳打ちされたことで、その内容に驚いて、変な呼び方になってしまった。
というか、知っていたなら知っていたと言っておいてほしい。
「それに、セナ様も女性なんですから、男性に理想を抱くことぐらいは許されると思いますよ?」
「ちょっ……」
可愛くウインクしながら、姫様に言われたが、それどころではない。
何その明らかに誤解されそうな言い方!
しかも、もうすでに私に好きな人が居るみたいな言い方じゃないか!
「男への……」
「理想……?」
男性陣が不思議そうにしつつ復唱したことで、きっと今の私の顔は赤くなっているはずだ。
「姫様ぁっ!」
「あらまぁ、うふふ」
何故、そんなに嬉しそうなのだろうか。
「でも、良いじゃないですか。それに私、恋の話が出来る同年代の人がいて、とっても嬉しいんです」
「……ぅ」
あんなに嬉しそうにされたら、
「あ、そうですわ。セナ様。少しばかり、お付き合いくださいませ」
「え? あの……?」
「ささ、参りましょう。カナタ様たちは、訓練頑張ってくださいね」
戸惑っていれば、笑みを浮かべる姫様にぐいぐいと背中を押される。
「ちょっ、姫様……え? 本当に何やる気ですか!?」
「女性は身支度に時間が掛かりますから、当日時間を掛けないように準備しなくては」
「いや、別に私は……」
「セナ様が良くても、私が許しません」
どうやら、今の姫様には勝てないらしい。
「さ、みんなもセナ様を着飾るの、手伝ってくれる?」
「はい。姫様」
「もちろんです」
類は友を呼ぶ――どうやら、姫様だけではなく、御付きの人たちもやる気みたいです。
ああ、嫌な予感しかなしない……。
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