第三話 剣と魔法に、現実を


 現実を突き付けようとはしたが、やはり勇者召喚されただけあって、彼は『チート』を持っていたらしい。


おもっ……!」


 ……身体能力アップのチートは授けられなかったみたいだが。


結城ゆうき

「はい」


 呼ばれたので、振り返る。


「ほら」


 青年こと鳴海なるみさんが、剣を差し出してくる。

 どうやら、私が二人の名前を聞いていなかったことに気付いたらしく、こっそりと名乗られた。

 しかし、これはどうしたものか。差し出されたこの剣を受け取ったところで、私は普通に持てるぞ。


「……私、魔法を極めるんで、剣はお二人に任せます」

「……」


 逃げてみたら、鳴海さんに疑いの眼差しを向けられた。

 まさか、見破られてたりします?


「嘘です。持ちますから、貸してください。その代わり、怪力とか思わないでくださいよ」


 保険を掛けて、鳴海さんから剣を受け取り、軽く振ってみる。

 使い慣れた剣ではないが、どうやら身体がまだ覚えていたらしい。


「凄いな」

「……何でしょう。物凄く、嬉しくない」


 あれか? 鳴海さんの言葉に、それなりの感情が乗ってないからかな。


「あはは、剣でも負けちゃったかー」


 少年が苦笑するが、それ男としてどうなんだ。


「単に持てたってだけで、そう判断するのもどうかと思うけど? それに、実際にそれを使うのは君なんだし、自分のためだと思って覚えればいいじゃん」


 実際、私はそうしていた。

 勇者としての能力なんて、元の世界では何の役にも立たないだろうけど、この世界で生き抜くためには必要だろうから。


「結城。それ持ったまま、動けるか?」

「動けますよ?」


 手始めに、握っていた剣を手元で一回転させてみる。


「……思ってたのと違うが、またペン回しみたいに簡単にやるな」

「というか、むしろそっちの方が難しいんじゃ……」


 呆れなどを含んだ眼差しを向けられつつ、私は目を逸らす。

 そりゃ、普通は剣より短剣の方がやりやすいけどさ。


「とりあえず、二人は剣を持てるようになって、早々に慣れるべきだと思います」

「……まあ」

「……そうだね」


 きっと、これから筋トレの日々が始まるのだと、二人は思っているのだろう。


「後は……魔法か」


 鳴海さんが呟くようにして言う。


「僕、実はそっちの方が気になるんだよね」

「そうですね。まあ、私たちは魔法についてはよく知らないので、基礎知識からになるんでしょうが」

「あ~……やっぱり、そこからなのかぁ」


 私は知っているから良いけど、この二人は知らないことだらけなはずだから、教えてもらっておいて、損は無いはずだ。


「勇者となったからには、この世界について、ちゃんと覚えないと」

「う~ん……勇者って言われても、魔王退治しに行くわけでもないしなぁ」


 つまり、目先の目標や目的が無いわけだから、今すぐ覚えないといけない理由にはならないんだろうけど……


「それでも、護身術程度には身に付けておかないとな。この世界じゃ、俺たちは無力なもんだし」

「鳴海さん、またばっさりと……」


 けれど、事実だ。


『頼むよ、勇者殿。たとえ、いつか故郷へ帰ることになるのだとしても、せめて、それまでは――』


 私がこの世界にまだ居ると知ったら、彼ら・・はどうするのだろうか。


「結城?」

「どうかした?」

「いえ、何もありませんよ。使えるのなら、どんな魔法が使えるのかな、と思っただけです」


 以前と同じ、『光』と『火』と『水』だろうけど。





「『闇』に『火』に『水』、ですね」


 準備が終わったとかで姫様に案内されつつ、適性属性検査室での検査に来てみれば、そんなことを言われた。

 確認を含め、再度やってみるも、結果は変わらず――……


 ――『光』、どこ行った!?


 その代わりに『闇』とか、これどういうこと?

 え、散々ユリフィールの悪口言ったから?

 え、何で? どうして?


「……つか、これマズくね?」


 ちなみに、少年は『光』と『土』と『雷』を出していたし、鳴海さんは『風』と『氷』と『無』を出していた。

 ……うん、このメンバーで『草』以外の属性揃っちゃったね。


「そ、そこまで落ち込むことでも無いと思うよ?」

「……『闇』は、魔王や魔族が使用するイメージ。つまり、私は城から追い出されると」

「いやいやいや、さすがにそれは飛躍しすぎじゃない!?」


 少年が何やら必死に励まそうとしているようだが、『光』が無くなるなら、せめて『風』か『無』が良かった。


「で、ですが、セナ様が言ったことも事実ですよ。『闇』はその……魔族が使うものだとされていますし」

「レフィー!」


 少年が姫様に向かって叫ぶ。

 彼女の名前なのか、愛称なのかは分からないが、そうか。彼女は『レフィー』と言うのか。


「で、でも、セナ様がご一緒に召喚されたことは、きちんと私も見ていますから、城から追い出されるようなことはないかと」

「……でも、姫様がそうは言っても、疑心暗鬼になった人たちは追い出そうとしてきますよね」

「とことんネガティブになっているな」


 いえまあ、放り出された所で金と武器さえあれば、どうにでもなるんですがね。


「ま、放り出されたら放り出されたで何とかなるだろうし、もうなるようになれ、ですよ」

「いきなり立ち直ったな」


 鳴海さん、そんな突っこみは求めてません。


「せめて、放り出されない方向で考えません?」

「どっちに転がっても大丈夫なように、準備だけはしておきます!」

「結局、放り出される前提なのね……」


 でも、準備しておいて良いと思うんだ。


「けどまあ、どんな結果になるにしろ、その前にまずは剣と魔法の練習をしましょうか」


 姫様の言葉に誰も反論できず、肯定するしかこと出来なかった。


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