第35話:Burn

 ジャパンカップ当日。

 品川シーサイドに町田宮、京商のメンバー全員が集まっていた。


「場所取りのために会長たちが先に会場に来てるはずなんだが……」

「あれじゃないですかね?」


 コースを見渡すことができる「一頭地」に陣取っている会長と副会長。

 しかしなにやら様子がおかしい。


「か、会長?」


 トライダガーを持ったまま、呆然と座り込んでいる。

 そして目の周りが赤く腫れている。


「やぁ、君たち。おはよぅ……」

「どうしたんですか?」


 先に来た会長は朝一で入場チケットを手に入れ、先行して予選に出場していたようだ。


「もしかして……」

「あぁ、負けたさぁ。完全な速度負けだったんだぁ」

「あのトライダガーが!?速度負けって……」

「君たちも気をつけたほうがいいぞぉ。あのホエイルの黒いエンペラー、真面目にヤバいぞぉ……」


 エンペラー。

 プラボディには重量ハンデはあれど取り立てて長所はない。しかしそれを背負ってでも使うところは、ボディ自体への愛があるのだろうか。


「君たちも登録は済んだのかぃ?」

「はい、先ほど全員で行ってきました。全員の番号が近いので……今回はリベンジ戦も兼ねて、同じグループに町田宮と京商1人づつ入って勝負しちゃう感じにしました!」

「それはなかなかサバイバルだねぇ……」

「つまり、みかどさんvsナツ子さん、部長さんvsこういちさん、土井さんvs大河内くん、の組み合わせになるようにするのだな」


 会長の隣にいる副会長もなんだか楽しそうである。


「はい!なかなか熱いでしょ?」

「ふふ、おもしろいことを考えるなぁ。がんばれよぅ」


 まずはナツvsみかど。

 車検を受け、二人でコースに向かう。


「みかど、今日も負けないわよ」

「今回こそは勝たせてもらいます!3度目の正直ってやつです!」


 ナツの山椒MK2はデジタルコーナー対策にフロントにスラダンが入っている。

 デジタルコーナーの衝撃を緩衝し、スムーズに駆け抜けるためだ。


「ホエイルのATバンパーはデジタルで減速しやすいのよね……あたしのサンダーショットに追いつけるのかしら?」

「たしかにピボットはデジタルが苦手です。でも対策をいくらかしてきました!」

「対策ね……見ものだわ」


 みかどにとっては初の公式5レーン。

 3レーンと比べて硬い素材でできており、安定した走りが可能だが、コースのつなぎ目などの凹凸が激しい。

 また硬い素材でできているということは、ジャンプなどで触れると弾かれる可能性も高いということだ。

 会長の模擬コースで体験はしているが、こんなに人がいる場面でなおかつ、カタパルトのようなこのスタート台は緊張に拍車をかける。

 ちなみに今回のコースレイアウトは、2016オータムと同じレイアウトである。

 アイガー登りから1.5枚に着地、ライジングチェンジャーを超えたあとのデジタル複合コーナーが鬼門になっている。


「シグナルに注目!」


 ナツとだけではない、他の参加者もいるのだ。

 5人が同時にレースをし、勝ち残るのはたった1人。

 過酷なレースが、今始まる!!


 シグナルオールグリーン!

 各車一斉にスタート、しかし初参加のみかどは緊張からかスタートで少し遅れる。


「緊張しすぎよ……おバカ」

「ぐぬぬ、でも大丈夫です!いっけぇー!エンプレース!!焼っきつっくせーーー!!」

「……物騒ね」


 最初のコーナー、そしてバンク。

 このあたりですでに他のマシンに追いついていた。


「あいっかわらず、コーナークッソ速いわね、そのマシン」


 そしてアイガーの登りで


 きゅっ!


「……?ジョーダンブレーキ!!」

「はい!今回のコースはジャンプするセクションはここだけ、なのでがっつり減速できるようにジョーダンブレーキ入れました。代わりにリアはスキッドでブレーキ貼ってません」


 アイガーを下るときにはエンプレスが先頭に立っていた。


「この先、デジタルがあるのよ。ここでの減速をどこまで抑えるかがカギ。ホエイルにはきついんじゃないかしら?」


 ががががががが!

 デジタルコーナーに突入するエンプレス。

 しかし……たしかに減速はするのだが、そこまで遅くなっているようには見えない。


「ピボットバンパーで……この速度で抜けられるの!?」


 ピポットバンパーは接続部分のゴムが柔かく、デジタルコーナーの衝撃を吸収することはできるが、ピポット可動分、外回りを走ることになる。しかもその際のタイヤのスライドでのブレーキ効果まで発生する。

 なのでかなり減速するはずなのだ。


「ちょっと改造してみました♪」

「なにをしたの?」

「ピボットの可動部分のゴムリング、あれが柔らかすぎるんですよ。なので、ポールキャップを回すためのゴムチューブを代わりに使って硬くしました」

「あ、あれを使ったの!?ゴムブレーキ以外の使い道があるのね……いいアイデアじゃない」

「へへへ、ありがとうございます」


 そのまま走りきり、みかどの勝利。

「やったぁ♪」

「負けちゃったか……あたしの理論も少し考え直さなきゃならないようね……」


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用語解説:

・エンペラー

 初代エンペラーはダッシュ四駆郎の最初のマシン。

 だっさいライトが逆にかっこいいデザインで素敵。

 やっぱザウルス先生はすごいなぁ・・・


・スラダン

 スライドダンパーのこと。

 バンパーをスプリングなどを使ってスライドさせて、レーン接触時の衝撃を吸収させる仕組み。

 バンパーがスライドするんだからスラバンじゃね?というツッコミはなしでw

 基本的には遅くなるんだけど、デジタルコーナーでの減速は少なくなる。

 また、衝撃からマシンを守ってくれる、なんて副作用もある。


・アイガー

 スイスにある山が語源だと思うけど。

 山のようにそびえ立つ、そんな上り坂のこと。

 大型のテーブトップだと思っていただければ。


・ライジングチェンジャー

 レーンチェンジャーの一種で、バンクっぽい感じにコーナーとLCが一緒になっている。

 攻略は簡単な部類。

 というか高速コースにあることが多い。

 フラットなどの大会では好まれるLCである。

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