第31話:MIRACLE

「お願い!走って!!」


 震える手を抑えながらスタートレーンにマシンを投入する。


 ぎゅぃーーーん


 静かな走り出し。


「現状、超帝よりタイヤ径が大きいからか走り出しは少し遅いか……?」


 しかしストレート2枚超えるころにはトップスピードに。


「はっや!この速度でコーナー突っ込むのか!?」


 バンパーがレーンに触れコーナーに突入。


「な、なんじゃこりゃー!?」


 土井が叫ぶのも無理はない。

 コーナーに入った瞬間、マシンが消えるかのような急加速をしたのだ。


「尋常じゃないコーナーリング速度だ……ホエイルはコーナーで減速が少ないから相対的に速く見えるのはわかってるけど……明らかに加速してるじゃねぇか!」


 コーナーリング時にレーンの壁に吸い付くような動きをしている。


「ウチのATバンパーの能力超えてますよ!?一体何が起こってるんですか!?」

「狙い通りです」


 1人冷静なこういち。


「おまえ、いったいこのマシンに何を仕込んだ!?」

「このマシンのシャーシ、フレキの仕組みを変えたんです」

「減衰式に、か?それだけでこんな動きにはならないだろ?」


 ナツのマシンにも搭載されている減衰式フレキ。

 安定感の増す改造ではあるが、これだけでこんな走りになるとは思えない。


「いえ、減衰式ではありません。リアに関しては超帝と同じユニットです」

「じゃ、いったい……?」

「……フロントを北陸フレキにしました」

「それって、ハイブリットフレキでは!?」

「知っているの、木暮くぅんッ!?」

「みかどさん、僕のセリフ取らないで……」

「あ、ごめんね水戸くんw」

「そう、ハイブリットフレキです。MSシャーシのトレッド幅調整可能シャーシを加工し、フレキというより内蔵サスに近い動きにしてみました。これによって、コーナー入り口でローラーがレーンに当たり、スラストが入った瞬間、マシンが斜めに沈み込みトラクションがかかって加速。その後、ATバンパーでスラストが抜け、ローラーが0スラストになりながらピボットで壁に吸着、ローフリクションタイヤで滑らせながらコーナーリングしている、まぁざっとこんな感じだと思います」


 こういちの説明で理解はできたが、あまりの性能にみなが驚愕の表情をしている。


「すご……すぎないか……」

「ただ、これはこのマシンの素性の良さというか、各パーツ、ユニットの良さ、チタンシャフトや高回転モーターなど全てが相まっての能力かと。同じように組んでもこの走りはなかなか出来ないと思います」

「ミラクルすぎじゃないのこれーーー!ネバーストップザミラコゥーーーーー!!」


 超帝の速度域を全てにおいてあきらかに上回っている。


「しかもこの電池、垂らしてるやつだぞ……全開走行の底が見えねぇ……」

「すごい……こんなに速いのに安定感もある……レーンの底に張り付いて走ってるみたい」

「回帰性は上下に稼働するATバンパーもあるから以前のフレキ以上になってるんだな……すげぇぞこのマシン!!よっしゃー!これならみかどの新しいマシンとして使っていけそうだ!みんな協力ありがとよ!!」

「ほんとうに……こんなすごいマシンになるなんて……みんなのおかげです。ありがとうございます」


 目に涙を浮かべながら感謝の気持ちを伝えるみかど。


「喜ぶのはまだ、速いんじゃなくて?」


 別室に篭っていたナツが襖を開けて入ってきた。

 何故か満身創痍、顔中塗料だらけである。


「これを喜ばずにいられるか!っていうのよー!……あ、もっしかして、ボディデザイン、出来たのかしら?」

「とりあえずデザイン画だけどね……」


 みなが息を飲む。


「これが新しい、みかどのエンペラーよ!!」


ーーーーーーーーーー

用語解説:

・北陸フレキ

 フレキって名前がついてるけど、内蔵サスの一種。

 簡単に作りやすいので、初心者向けのサスシステムだと思う。

 なぜ北陸フレキって言うのかは…知らないですw


・ハイブリットフレキ

 フロントに北陸フレキ、リアに普通のなんちゃらを仕込むフレキ合体ユニット。

 サス車としてのバランスがよく、作りやすい。


・トラクション

 駆動力のことをいう。

 駆動輪軸重、トルクとタイヤと、路面摩擦力により決まる。


・マルーンハーフ

 マルーンはローフリクションタイヤのこと。

 これを半分のサイズに縦にカットするとハーフタイヤになる。

ーーーーーーーーーー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る