第30話:REMIND
風呂から上がり、全員で広間にて晩ごはん。
しっかりした和懐石が振舞われている。
「……山菜の煮物……美味しい……」
「それも、うちの山で取れたんだぞぉ」
「この焼き魚も初めて食べる感じだ……油が乗っててめちゃくちゃうまい……」
「ノドグロっていう魚で関東ではなかなか手に入りづらいんだぞぉ」
「すっごい、白米だけで美味しい……なんなのこのお米……」
「あきたこまちの新米なんだぞぉ。親戚の家で作ってるから毎年送られてくるんだが、余らせてしまっているんだぁ」
ほんとに個人の別荘とは思えない。
お抱えの料理人、ばぁやと呼ばれていたおかみさん、他にも従業されている方々がいるようだ。
「ふぅー、ごっそさんでした!」
「ごちそうさまです、会長、とっても美味しかったです」
「ふふ……おそまつさまでしたぁ」
新マシンの開発に向けての腹ごしらえは万端である。
「さて、じゃあみかどの新マシンについて。みんなにも協力してもらえたら、と思う」
「あ、あの、ほんとうにごめんなさい、ありがとうございます。あたしのマシンなので自分で考えるべきなんだけど、なかなか決まらなくって」
「なぁに言ってんのよ、これだけのミニ四駆クラスタを集めてるんだから。なんでも聞いてみて」
「うん……あたし的にはいままでの、お兄さんのマシンで使っていたものは、使えたら使いたい。ボディはこのライズエンペラーをもう少し丸っこくかわいくしてあげたいな。あと前のフレキも同じように組み込みたいです。それとあおいのホエイルやジョニーさんのアクアみたいな、制振性、回帰性とコーナーの速さ。このあたりをまとめて行けたら……いいかなぁ」
みかどの中ではMSシャーシを使ったシステムを構築する方向、ということは決まっているようだが、ホエイルシステムやアクアのようなギミックをどのようにして構築しているかなど、具体案はまだわからずにいる。
これらの仕組みは知見もなしに、はい作るぞ、と簡単に作れるものではない。
「なるほど……であればホエイルの実験はしてみたほうがいいわね。アレはそもそもMSのために作られたシステムだからあおいのS2より作りやすいはずよ」
「じゃウチがオートトラックバンパーの作り方から伝授するよ」
「はい!お願いします!!」
オートトラックバンパーとは上下可動機構搭載のピボットバンパーである。
ピボットで壁からの衝撃を吸収し、衝撃を後方へ受け流すことができ、ジャンプ下降時にレーンにバンパーが触れた際にも上下の可動でフレキシブルに対応可能。
コーナーの切れも良く、特殊なセクションでも難なく切り抜けることができる。
そしてそれはホエイルシステムの肝でもある。
本当はライバル校には秘密にしておきたい技術だろうが、あおいは提供してくれるという。
「フレキ、ホエイルだったら1つ案があるので、シャーシは見てみます。それとカーボン削るときは言ってくださいね」
「はい!ありがとうございます!」
こういちは「変態」とまで言われた削りの真髄を見せてくれるらしい。
「じゃボディデザインはわたし、と。美術部の実力見せてあげる!」
「はい!よろしくでっす!!」
部長の炎龍のフレアパターンの見事さ、あれはナツがやったものだと聞いている。
ボディのデザインまで行うとなると、どんなものが出来上がってくるのか、想像もできない。
「だいたい固まってきたか?あとは足回り、ホイールやタイヤだな。このへんはミニ四駆部でやるぞ!」
「ほんと……いろいろありがとう、部長」
「こんなんどうってことねぇよ、オレらがみかどから受けてるもんはこれくらいじゃ全然足りねぇし」
ミニ四駆部は基幹以外の細かなパーツの調整を請け負うことになった。
みかどは「それと……」と大事そうにパーツを差し出す。
「あと、この超帝の部品も使いたいです。ベアリングとシャフト、ローラーにモーター。あとはネジや電池のところも」
「あぁ、そうだな。そうしてやれば超帝も新しいマシンの中で生きていけるさ」
「はい、彼の勇姿を忘れないためにも。ボクヲワスレナイデ、そんな風に聞こえてくるので」
「それじゃ各自、できるところから作業を始めるぞぉ」
みかどとあおいはバンパー製作。
こういちはシャーシ周り。
ナツは別室に篭りボディデザイン。
ミニ四駆部員はタイヤの削り込み。
「うんうん、合宿らしぃ感じがしていいねぇ」
「はい」
「かおるにも付き合わせちゃって、悪いねぇ」
「私は会長とご一緒できれば……その……」
「んー?最後よく聞こえなかったけど、まぁいいやぁ」
「……」
作業は夜通し続けられた。
「ATバンパーはだいたいOKかな、こういち先輩、ヒクオのアームは出来ましたか?」
「もう少しで出来る……あぁなんて美しい……仕上げにコンパウンドで磨いてやるぞ……」
「こういちさんの新しいフレキ、すごいかもです!前のフレキより安定してm……って聞いてないですね……」
ゴーグルやマスク、手袋を真っ黒にしながら恍惚の表情でカーボンを削りこんでいる、こいつもかなりの変態である。
一通りパーツがそろったところで組み上げる。
「とりあえずボディ以外の仮組みはこれでOKか。モーターもギアも超帝のものだから慣らしはほぼ済んでいるハズだ。走らせてみようぜ」
「コースは少し小さいのも用意してあるぞぉ。こっちのJCJCを使ってくれぇ」
部室のコースと同じコースが再現されていた。
「まずはお試しだからこの少し使ってあるアルカリでも入れてみようぜ」
電池を入れて電源を入れる。
しゅいぃぃーーーん……
勢いよく回り始めるタイヤ。
「すごい……持ってるだけで前と違うかも……すごく静かで力強い」
「みんなと、おまえの兄ちゃんと、そしておまえ自身が詰まってるマシンだ!遅かったりしたら承知しねぇぞ!」
「うん!じゃ……行きます!!」
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用語解説:
・オートトラックバンパー
ホエイルのキモともいえる仕組み。
ミニ四駆界に革命を起こしたと言っても過言じゃないユニットである。
詳細は以前のホエイルのときに書いたのでそちらを参照。
ちなみに考案者のおじゃぷろ氏は現在新システムのアンカーと言われるものを作成中である。
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