第24話:Fire Cracker
「リベンジ……できますかね?」
不敵に笑うこういち。
「あの時と同じマシンだと思うなよ?」
シニカルに返す火野。
会場のDJが両者の対戦を盛り上げる。
ELLEGARDENの楽曲でつないでいるようだ。
「勝ちも負けも、どっちもどっち。終わらないゲームのスタートってやつかよ」
「僕らにはぴったりの勝負曲だ、素晴らしい」
「今回はオレが……勝つ!!」
火野の炎龍。
見た感じはあまり変わってないようだ。
対してこういちのアスチュートはカーボンの削りが以前よりも、より変態じみている。
装甲部分をすべて削り落とし、骨組みだけが残った状態になっているのだ。
強度をギリギリ保てる、そんな状態までの削り込みだ。
「鬼の削りだな……0.5g落とすことに命懸けってか?」
「軽量化しても強度は落とさず、それでいて芸術的に削り込む……機能美とはかくあるべきです」
2人のマシンがグリッドに並ぶ。
「今から負けたときの言い訳でも考えたらどうです?」
「ぬかしやがれ!いくぞ炎龍!!」
「シグナルに注目!!」
オールグリーン!
各車が一斉にスタートする。
炎龍の初速が飛び抜けて速い。
明らかにいままでのマシンとは物が違う。
「……モーター、このトルク感と速度は……パワーダッシュですか?」
「いや……トルクチューンだ」
「トルクチューン……パワーはありますが、こんな速度が出るわけ……そうか、わかりました、みかどさんですね?」
「へへへ、あったりー♪」
みかどの特殊能力「当たりモーター感知能力」で光るトルクチューンモーターを探し当てたのだ。
「このトルクチューンはヤバいぜ、22000回転だ!これで大径26mmをきっちり回す!」
トルクチューンモーターとは爆発的なパワー、トルクがあるのが特徴である。
大径タイヤとこのトルクチューンは、各所でブレーキをかけながら進むストップ&ゴーが信条の炎龍にはぴったりな組み合わせだろう。
大径タイヤの最高速度は早いが、そこに到達するまでに時間がかかる。
しかし火野は高回転トルクチューンモーターを使うことにより、苦手な加速を克服したのだ。
急制動をかけながらも立ち上がりがよく、速度も伸びる。
「減速しても立ち上がりをこんなに速くできるものなのか……しかも大径タイヤなのに加速までいいなんて……」
デジタルコーナーの抜けもよく、60度バンクも余裕で駆け抜けていく。
「このマシン、高回転のトルクチューンでバケましたね……そうとうなマシンになっています。だが……最後まで気を抜かないことです」
トータルバランスーー。
こういちのマシンの目指す場所はこれである。
どんなコース、どんな場面でも、変わらず走り抜けられる。
これを高い次元で突き詰めていけば、全てにおいて完璧なマシンになる。
火野はこういちのアスチュートを見て歯噛みする。
「さすがに速いな……さらに削り込んでいるせいか、前より軽やかに走ってやがる。軽量化を突き詰めると1gで走りが変わるからな」
軽量である、というのはレースシーンではアドバンテージである。
特に小型のミニ四駆というマシンであれば、1g変わるだけで性能に差が出てくる。
1/32スケールモデルなので、実車と同等のスケールに直すと、
(1g x 32 x 32 x 32 = 32768g = 約32kg)
子供一人分の重量、この軽量化は大きいと考えられるはずだ。
「付かず離れず、ほぼ互角ですよこれ……本当に最後までわかりませんよ」
「部長はいっつも最後にやらかしますからなぁ……」
「……今回ばかりは負けられないぜ!大会出場がかかってるんだ!」
炎龍が最後のレーンチェンジに差し掛かる。
「たのむ、超えてくれ!!」
がっ……たん。
左側のタイヤがリフトしたが無事生還。
「あっぶねー、また弾け飛ぶとこだったぜ……」
そのまま炎龍の勝利である。
こういちは負けを歯牙にもかけぬといった調子で言い放つ。
「今回は負けを認めます……ただあなたの勝利はみかどさんの助力あってこそだったことをお忘れなく」
「そこはわかってるよ、ただ今回チーム戦だ、文句は言わせないぜ」
みかどは今回、自分の能力が役に立ったとあって鼻が高い。
「部長!やったね♪」
「おぅ!おまえの能力のおかげだ、やっぱすげぇよ!」
「ミニ四駆以外に使うところのない能力ですけどねー(棒」
「そういうなよw次はお前の番だ!ナツにキッチリ勝ってこい!!」
「はいっ!!」
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用語解説:
・DJ
ディスクジョッキー。
大きな大会などではDJを呼んでばを盛り上げていただいたりもするらしい。
・トルクチューン
トルクチューン2モーターのこと。
最高速は伸びないがその分、爆発的なトルク、パワーがある。
・リフト
持ち上げるとかって意味。
車体がコーナーなどで浮き上がるときに使う。
コーナーリング中に内側が浮けばインリフト、外側が浮くならアウトリフト。
レーンチェンジで左が浮いたらアウトリフト。
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