第25話:ドタン場でキャンセル

 全国大会行きをかけた決定戦。

 女子対決となった。


「あたしに出番が回るとはね。同じMSシャーシ、フレキ対決ってことかしら」


 ナツのサンダーショットMK2。

 相変わらずマスダンパーがない。

 よくこれで高難易度のコースを走れるものだ。


「あたしにとっては師匠ですが、勝負となれば全力です!今回は勝たせてもらいます!」

「言うようになったじゃない、みかど。目を見ればわかるわ、その自信のほどがね。マシン、タイヤにまでしっかり手を入れてきたのね」


 みかどの超帝。

 フロントにローフリクション、リアはハードタイヤの組み合わせ。フロントバンパーはカーボン2枚重ねのリジット。

 リアブレーキの高さを3mmまで上げてバンク対策としている。

 また、大径ホイールでタイヤ径を25.7mmまで削っている。

 以前よりフロントを強化し、タイヤも軽量化、速度と安定性を上げて来ている。


「このリアの高さがあればバンクにはそこまで当たらないはず。あそこさえ乗りきれれば……」


 対するナツの山椒MK2は中径25mm。

 ノーマスダン、ブレーキレスが信条のナツだが。


「今回はさすがにフロントブレーキを軽く貼ってるわ。ほんの少しのブレーキがあれば、このライトダッシュモーターで引っ掻き回せるはずよ。恨みっこなし、勝負よ、みかど!」

「はい!!」


 2台がスタートラインに並ぶ。


「女の対決ってわけね……テリブルテリブル……」

「ナツ先輩が負けるわけありません。走り込みが違いますよ」

「なぁーに言ってんの!みかどちんだって工場のコースで日夜特訓したんだから!ナツにだって……勝てる……と思うわ!」

「そうさ、オレたちは勝たなきゃならねぇんだ、みかどの兄ちゃん探すために」


「シグナルに注目!!」


 みなの視線が2台に注がれる。

 赤ランプから……緑ランプに切り替わる。

 その瞬間放たれるマシンたち。


 スタートはみかどが速い。

 ハイパーダッシュとライトダッシュではトルクが違う。


「相変わらずとんでもないスピードね。でもこのコースを回れるのかしら?」

「回れます!あたしが思う、できる限りのセッティングは出来たはず……だから、回れます!」


 みかどの言う通り、超帝はとてもよく走っている。

 適度な減速とタイミングのいいジャンプモーメント。

 全域走破スタイルのナツのマシンをジリジリと引き離す。


「いけるぜみかど!お前の超帝、走れてるぜ!」

「勝負は下駄を履くまでわからないわよ……デジタルコーナーからのバンクは登れるかしら?」


 超帝がデジタルコーナーに突入!!


 ががががががんっ!!


「すげぇ、リジッドバンパーだけあって減速はあまりしねぇな!」

「……リジッド……。大丈夫なの……」


 リジッドバンパーとはスライドダンパーなどを装備しない、固定された通常のバンパーのことを言う。

 単純に速さを求めるのであれば一番手っ取り早い。

 走りのスムーズさではスラダンが上だが、速度はリジッドが勝る場合が多い。


 しかし、2週目に入ったところで超帝の様子がおかしい。

 コーナーでフラつく挙動が見える。


「なんだ……突然どうしたんだ!?マシントラブルか?」

「……いけない、みかどさん、マシンを止めるべきだ、フロントバンパーまわりがグラついて見えます!」

「でも……止めたら勝負に負けちゃう!!がんばって……がんばって……!!」


 ナツの山椒MK2が背後まで迫ってきている。

 そして、2週目のデジタルコーナーで「それ」は起こった。


 がががん、ばきん!!


「あっ……!」


 デジタルコーナーの衝撃が抑えられず、フロントユニットが大破。

 そのままコース外に勢いよく飛び出し、店内の柱にクラッシュ。


「超帝!!?」


 その瞬間がみかどにはスローモーションに見えた。


 くだけ散るボディ、折れ曲がるシャーシ。

 飛散する欠片までもがはっきり見える。

 ボディは真っ二つに割れ、フレキユニットの軸受けも破損。

 電池も外れ、音も無く沈む超帝。


 そのまま淡々と周回しナツの勝利。

 だが誰も喜べない空気になっている。


「お兄さんの……お兄さんのマシンが……、あ、あぁ……もうダメだ……」


 みかどは呆然とマシンの亡骸ともいえるパーツを拾い集め無言で店内から出て行ってしまった。

 あまりの悲壮感にみなが声をかけることも後を追うこともできなかった。


 翌日、学校に彼女の姿はなかった。

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