第14話:廃部になんか、させない
3日後の皇工場にて。
部員一同揃い踏みで生徒会の到着を待っていた。
日曜の午後からの勝負だったが、全員お昼前から準備を行い、万全な状態である。
15時を回るころ、1台の高級車が工場前についた。
金田の隣にはケースを抱えた副会長が寄り添っている。
「……やぁ、待たせたねぇ、火野くん」
「ふん。忘れてねぇだろうな、勝ったら部として認める約束」
「わかってるよぅ……その代わり、負けたら部室は没収だぁ」
「部長……」
「心配すんなって、たかだか3日で作ったマシンでどうにかなる世界じゃないって、お前らだって知ってるだろ?」
「でも……なんだか……」
「ふふ……」
不敵な笑みを浮かべる金田。
「なにがおかしい?」
「ふふ……とりあえず、これがボクのマシンだよぉ……」
テーブルに置かれたのはMAシャーシのトライダガー。
でも、見慣れない、何か変な、違和感を感じるマシン。
「うわ、これトレサスでありますぞ!!」
「なにっ?!知ってるのか木暮っ!!?」
「うーむ、正式にはトレーリングサスペンション。ミニ四駆の内蔵サスの中でも高度な製作技術が必要なサスペンションユニットである。フレキとかと比べると、機構的にトルク抜けが起こらず、ギアの噛みの反動自体も衝撃吸収になり、その制振性は最高クラス。着地性能だけを見たら、既存のシステムでも最高のものになるのだ。しかし一長一短で作れる仕組みではないですぞ。ミニ四駆の上級者じゃなければセッティングを出すのだって難しいはず……」
(民明書房刊「サスペンションのサスペンス」より)
「てめぇ……謀りやがったな!?」
「ボクはなにも言ってないさぁ……キミらが勝手にボクを初心者と決めつけてただけだろぅ?」
「くっ……」
「部長ぉ……」
みかどがびっくりした表情で金田のマシンを指差している。
「ん?どうしたみかど?」
「会長さんのマシンの黄色いモーター、めっちゃくちゃ光ってる……」
「な、なん……だと……!?」
「ほぅ、キミはモーターを見ただけで速さがわかるんだねぇ……おもしろい。そう、このライトダッシュは……28000回転以上、回る」
「ふざっけんな!!そんなモーターあるわけないだろ!!」
「1000個のライトダッシュから厳選に厳選を重ねた、最高の逸品なんだよ、こいつわぁ」
「公称値より10000回転以上回るモーターなんて……」
「とはいえ、回るハイパーダッシュより回らない程度のモーターだよぉ、何を臆しているんだいぃ?」
「……そうだよ、俺のハイパーだって28000回転くらいは回ってるわけだから互角じゃねぇか。よし!やろうぜ!!」
「ふふ……勝負だよぅ……」
ーーーーーーーーーー
用語解説:
・MAシャーシ
両軸モーターの最新シャーシ。
とても剛性が高くギア周りの精度もいい。
ただ、すごく硬い。
この硬さを活かせるセッティングを出せると効果的。
・トライダガー
会長のトライダガーは、正確には「ネオトライダガーZMC」。
ポリカボディの入手がラクでとても普及している。
お笑い芸人でミニ四駆系ユーチューバー、熊とブルーのタザワさんのマシンとして有名。
彼の動画にトライダガーで参加できるとTTKで囲ってくれる。
(タザワ トライダガーで囲む会)
・トレサス
本文の説明の通り。
実車のサスペンションシステムと同等の仕組みの1つで、ミニ四駆で再現するにはかなりの工作テクニックが必要。
・トルク抜け
駆動力がなんらかの原因で伝わらなくなる現象のこと。
フレキなど内蔵サスに近いものは、上下の可動が大きいとギアが浮いた状態になり、トルクが抜ける場合がある。
ーーーーーーーーーー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます