第13話:部費が、欲しいです

 平日の旧校舎音楽室にて。

 部室に入るなり、火野が踏ん反り返って話し出した。


「さて、部員もそろったことだし、これで愛好会から部活へと昇格できる。部活に昇格できりゃ多少の活動費が学校側から出るようになるだろ?こっちと工場、両方にコースが欲しいからな……俺たちの小遣いじゃJCJC1セット買うのも大変だし」

「このプラスチックのコース、いくらくらいするの?」


 そういえばミニ四駆にどれくらいのお金がかかるのか、みかどはあまりわかっていない。


「ん?4万くらい」

「えぇぇーーーー!めちゃくちゃ高い!」

「JCJC……つまりオーバルコースだな、それが2セット、スロープが2個、バンクが1個、これで4万はかなり安く買えたんだぞ」

「こんな……ちゃちぃのに……」


 もやしがいっぱい買えるな、とみかどは思ったが口に出さないでおく。もしかするとコースが高いのではなく、もやしが安すぎるのかもしれないし。


「言うなよ、怒られるぞ……まぁとにかくだ、部としての登録をしにいこうぜ」


 行き先は生徒会室。

 部員総員連れ立って、扉の前にずらりと並ぶ。

 火野がここがバンカラの見せ所とばかりに「コホン」と咳払い。

 どんどんっ!と道場破りかのように扉を叩くと、大声を張り上げた。


「たのもー!部活申請させてくれー!」

「大声を出すな、馬鹿者!」


 すかさず、火野より大きい声で返される。

 水戸と木暮はその威圧感で早くも戦意を喪失しつつある。

 みかどもなにやら攻撃的な物言いに及び腰になっていた。

 恐る恐る入室すると、彼らを出迎えたのは黒髪ロング、切れ長な瞳、赤い眼鏡と腰に携えた日本刀がトレードマーク。生徒会副会長、弓月かおるであった。

 彼女は睨むように火野を見た。


「貴様、相変わらず小うるさいな。何用だ?」

「おぅ、やっと部員がそろったんで部活として申請しようと思ってな」

「…はぁ?もしかしてあのおもちゃの……?本気で言っているのか?」

「あたりまえだろ、前から何度も申請して部員が足りずに蹴られてたんだ、これで人数はそろった、文句はねぇだろ」


 副会長は火野を馬鹿にするように鼻で笑う。


「馬鹿か貴様。却下に決まっておる」

「はぁ?ふざけんなよ、お前らがそう言ったんだろ、ケジメつけろよ」

「おもちゃで遊ぶための部活なんぞ、学び舎で許されるわけがないだろう、戯けが」

「なんだと…勝手におもちゃとか決めつけんなよこら!」

「たとえ神が許しても、生徒会が許さん!……斬り捨てるぞ」

「くっ……」


 剣道部部長でもある副会長が刀の柄に手をかける。

 噂によると真剣らしいが……銃刀法はいったい何をしているのか。

 剣呑な空気に水を差すように幼い声がそこに響いた。


「まぁ待ちたまぇ、かおるくん」

「会長……」


 後ろ向きで置かれていた椅子が回転すると、そこにもう1人生徒が現れた。

 みかどと同じくらいの背格好、ふわふわな髪型の可愛らしい男子。

 喋り方はおっとりしてるが瞳の奥には只ならぬ威厳を放つ。

 生徒会長、金田じゅんや。

 家は有名な起業家で超お金持ち。

 影から学校を支配している、なんて噂もある。


「火野くん、ミニ四駆だろぅ?」

「そうだ、ミニ四駆部を部活として認めて欲しい、頼むよ」

「いいよ、許可するよぉ」

「ほんとか!?」

「会長!!?」

「……ただし条件がある。このボクにミニ四駆勝負で勝てたら、部として認めよぅ」

「はぁ?そんなんで……ってお前もミニ四駆やってるのかよ?」

「やってるやってないはどうでもいいんだぁ、勝負するか、どうするぅ?」


 金田はにこにこと笑っている。

 思わず油断しそうになる愛らしい微笑みだ。


「するに決まってんだろ、負けるわけねぇしな!」

「ふふ……その代わり負けたら、今後一切、校内でのミニ四駆活動を禁止するよぉ」

「なっ……!!」

「旧校舎も取り壊したかったんだよ、ちょうどいいだろぉ?」

「……わかった。やってやるよ!!」


 きっと値の張るマシンでも買って勝とうという算段だろう、と火野は踏んだ。

 残念だがミニ四駆はお金を出した方が勝ちという世界ではないのだ。

 それもわからないような輩に負けるようなミニ四駆部ではない。

 みかどはすがるように火野を見る。


「部長……」

「心配すんなよ、こんなやつに負けるわけねぇぜ」

「う、うん……」


(なんだか悪い予感がする。会長さんの自信ありそうな目が、気になる。)


 穏やかに見える笑顔の奥にはきっと何か恐ろしいものが潜んでいる、そんな気がしてならないみかどだった。

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