第3章:ミニ四駆部VS生徒会

第12話:ようこそ、あたしん家へ

 商美での合同練習の帰り道。

 ミニ四駆部メンバー達はそろってうなだれていた。


「ちっくしょう……あいつらほんとはぇぇんだよ……」

「ほんとすごかったです、ナツさんもこういちさんも、他の方も全然速かった。あたしなんかセッティングじゃどうにもならなくて、電池が減ってからじゃないと完走すらできなかったもん」

「あぁぁ、速くなりたいぜ……もっと広くコースが置けて、使える工具があればなぁ……」

「うち部費とか出てないでござるからなぁ……100均のリューターやヤスリじゃ限界でござる」


 工具?場所?みかどはふと立ち止まる。


「ん?前言いましたけど、うち工場やってたんですよ。敷地と工具は残ってるんで使えますよ?」

「「「あっ……」」」

「それって俺たちが使ってもいいのか?」

「もちろん。使わない工具は片づければコース置くスペースも作れますよ。なんならこれから見にきます?」

「「「拝見させてください!!!」」」

「そんなかしこまらなくても、それじゃご案内いたしまーす♪」

「女神か……女神はここにいたのであるか……」


 みかどの家の工場は町田宮校の近くにある。

 町工場としてみればかなり大きな敷地面積。


「そういやここ、工場だったな」

「もう使ってないけどね。差し押さえられると思ってたんだけど、負債は上手いこと保険とかいろいろでまかなえたから、工場自体は残っちゃってるの。運営してないから処分しちゃってもいいはずなのにね。思い出が詰まってるから、お母さんも踏ん切りがつかないのかな」


 みかどはぽそりと呟く。


「あ、嫌なこと思い出させ……」

「あ、ううん、ぜんぜんいいよ。とりあえず使えるものがあるか見てみてね」


 工場をざっと見渡す。そこは宝の山だった。


「すすすごいでござる、旋盤から電動ヤスリのサンダー、溶接器具まであるとは!!」

「メッキ塗装できる設備もあるし……コンプレッサーも業務用のそれですよね」

「粉塵対策器具や他にも工具はなんでもあるじゃねぇか。おまえん家、何屋だったんだ?」

「車のカスタムパーツを作ってたって聞いてるんだけど、細かいことはあたしにはわからないの……これだけあれば足りるかな?」

「足りるなんてもんじゃねぇよ、世界最高レベルのミニ四駆基地になりうるぞこれ」

「敷地も充分、これなら大型のコースも設置できるでござる!」

「あぁぁ夢のようだ……」

「そんな大袈裟な……」


 工場を後にし、帰路へとつく。

 京商で負けに負けて死んだ目をしていた部員たちの顔は今、希望の光に溢れている。


「来週からコースとか持ち込ませてもらうな」

「はい、大丈夫です、母にも伝えておいたので」

「しっかし、すごいところでしたね、あそこでミニ四駆ショップとか開いたらひと儲けできますよ!」

「それ素敵かも♪なんだかあたしも楽しくなってきちゃった!」

「……いいのか?お前の父ちゃんの工場、こんなことに使っちまって」

「遠慮しないで。さっき母に電話したんだけど、すごく喜んでくれたの。あたしとお友達が楽しめるなら好きに使って、って」

「お前にまた借りが出来ちまったな」

「いいのいいの、あたしも母も、父の工場に活気が戻ってくることがほんとうれしいから」


 父が元気だった頃を思い出して、みかどはくすくすと笑った。


ーーーーーーーーーー

用語解説:

・リューター

 小型の電動ドリル。

 イメージ的には歯医者さんのあれ。


・旋盤

 削りたいものを接続し回転させる機械。

 そこに刃物やヤスリを当てて削る感じに使います。


・コンプレッサー

 空気を電力で貯め、圧縮する機械。

 業務用スプレーや粉塵対策器具の動作に必要。

ーーーーーーーーーー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る