第15話:こんなことも、あろうかと

 今回の勝負に使用するコースはいつもの部活動のコース。

 火野からしてみればホームコースであり、有利にことを運べると算段している。


「今回の勝負、ルールをこちらで決めさせてもらってもいいかぃ?」


 コースを一目みて金田が思案顔で提案をしかけてきた。


「ホームコースを使ってる分、こちらが有利だしな……いいぜ、条件飲んでやる」

「じゃぁ、6周勝負にしよう。大勝負だし、この小さなコースで3周じゃぁ盛り上がりに欠けるからねぇ」

「6……か、いいぜ、6周勝負!受けて立つ!」

「ふふ……」


 2人のマシンがグリッドにつく。

 火野は汗ばみ少し震えている。

 対して金田は余裕の表情を見せている。


「今回ばっかりは、負けられないんだよ!!」

「ふふ……力んでるねぇ……」


「それでは行きます!レディ……ゴー!!」


 少しフライング気味に火野の炎龍が前にでる。


「焦りすぎだよぅ……ふふ……」

「行けぇ!炎龍!!」


 ホームコースでもあり、がっつりセッティングが出せている火野のファイヤードラゴンが飛ばしている。

 しかし、その後ろをほとんど離れず食らいつく、金田のトライダガー。


「なんてスムーズな着地なんだよこいつ……走りに途切れ目を感じさせねぇ……」

「ふふ……でもボクのトライダガーわぁ……こんなもんじゃぁ、ないんだよぅ……」


 3週目に入るとジリジリと追い上げるトライダガー。


「うそだろ、初めて走るコースなのに……」

「このトライダガーはどんなコースでもマルチにセッティングできるようにしてあるんだぁ……こんな初級のコースだったらノンブレ、ノーマスダンで行けるかもねぇ」

「くっそぅ、がんばれ、炎龍!!」


 ストップ&ゴーが信条の炎龍が決して遅いわけじゃない。

 このコースに合わせた、最高のセッティングの1つなはず。

 ただそれ以上に、金田のマシンが……速い。


 4週目後半、ついに並ばれる。


「ばか……な……」

「ふふ……さぁいけぇ!トライダガァ!」


 炎龍をジリジリと引き離していく。


「なんでこんなに速い……んだよ……」

「キミのマシンが遅くなってるのさぁ……ライトとハイパーの差だよぅ……電池の消費量がライトの方が少ないのさぁ」

「!!?」


 ライトダッシュモーターとハイパーダッシュモーターではたとえ同じ回転数でも、トルクと電池消費量が違う。

 もちろんトルクはハイパーダッシュの方が上だが、このコースはバンクも少ない。

 パワーを必要としないコースであればトルクより高速性がモノを言う。

 しかも6周勝負にしたことによって、電池消費量が直接勝敗を分けることになったのだ。


「この手のコースでボクのライトダッシュに勝ちたいなら、ハイパーダッシュより上のモーターで勝負をかけないと……無理さぁ」

「……」


 3馬身ほど差をつけて、金田の勝利。


「おつかれさぁん……残念だったねぇ……」

「ぐっ……う……すまない、みんな……」

「ながないでぐだざい部長……仕方ないでござるよ、ごんなマシン反則でずぅ……」

「泣いても喚いても無駄さぁ……部室はもらってい……」


「ちょっと待って!!!」


 みかどが工場の入り口で仁王立ちしていた。

 背後から差し込む西日のせいか、後光が差しているように見える。


「みか……ど……?」

「あなた、金田家のお坊ちゃんでしょ!?たしかこの工場跡地の権利を欲しがってたわよね?」

「……あぁぁ、皇さんちの娘さんだったかぁ。うん、ここはこの街の一等地、前から欲しかったよぅ。でもお父上が亡くなられた後の騒動で保険屋に入られて、手に入れられなかったなぁ」

「じゃ、うちの工場の権利書、売ってあげる」

「……へぇ、いいのかいぃ?」

「いいわよ、ただし、あたしのマシンに勝てたらね!!」

「なぁるほどねぇ、代わりに負けたら部室を返せ、ってことだろぅ……?」

「みかど!無理だやめろっ、こいつのトライダガー、バケモンだ……俺たちのためにお前の父ちゃんの工場まで取られちまったら……オレ……」

「大丈夫、心配しないで。こんなこともあろうかと、あたしもマシンをセッティングしてきたんだから」

「お前のマシンも速いけど……それでも……」

「さぁやるのかいぃ……それとも怖気ついたかなぁ?」

「やるわ」

「権利書だぞぅ?」

「二言はない」

「こいつぅ、いい根性だぁ……目がいいねぇ。負けてもそいつらみたいに喚いたりしないだろうなぁ」

「……あんたなんかに、負けない!!!」

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