第4話:初めての改造、そしてレース
みかどはさっそくマシンを改良することになった。もちろんスーパーエンペラーをベースに、である。
老朽化したパーツを入れ替えるだけではない。自分のこだわりをマシンに反映させていくのだ。
工具とパーツ、分解した超帝のパーツを作業台に並べる。
「いいか、やり方は教える。だから自分で作るんだ。そのほうが絶対楽しいぜ」
「うん、あたしもやってみたい。こう見えて手先は器用なほうだと思うよ」
「じゃまずはバンパーカットからだ」
火野たちからやり方を教わり、シャーシにバンパーレス加工を施す。
ネジ穴がバカになっているバンパーを切り落とし、FRP(繊維強化プラスチック)で補強されたバンパーを取り付けるのだ。
そのために、ニッパーとデザインナイフを使ってバンパーを切り落とす。荒くなっている断面をヤスリで整える。
元の形と変わっていくが、だんだん自分のマシンになってきている、そんな気がする。
兄のマシン、だけどこれからはみかどのマシンでもあるのだ。
「言うだけあって上手いじゃねぇか、あとはローラーをつけて……そう。最後にモーターを付けてギアをはめて……グリスを忘れるなよ、滑りをよくしてやると速くなるんだ」
「はい……このペンのグリス、すごく使いやすい……でカバーを付けて、ボディをこの丸いの?でつければ……完成!!やったー!できたー♪」
やったことはバンパーレス加工と組み立てだけだ。
しかし、バラバラのパーツを一つのマシンに組みあげる達成感は大きい。
出来上がったマシンをいろんな方向から眺めて、みかどはニコニコしている。
「あぁぁ……女子がいるっていいでござるな……」
「泣くなよ親友……ぐすっ……」
「ふふ、男所帯ってだけでむさ苦しかったのに部長がバンカラでござるからな……」
「ああ、そのぶん、みかど氏の笑顔が胸にしみますなぁ……」
何故か水戸と木暮が感動している。
「よっし、じゃ俺と勝負してみるか?」
突然の火野からの提案にみかどの手が止まる。
「……え?まだ出来たばかりなのに……レースなんて早いよ」
「んなことねぇよ、そのマシンのスペック考えればぜんぜんレースになるはずだぜ」
たしかに、レーシングカーは走らせるためのものだよなぁ、とみかども思う。
「うーん……わかった!やってみる!」
作業スペースの横にはすでにコースが組まれている。
JCJC(ジャパンカップ ジュニア サーキット)と呼ばれる市販のオーバルコースを2つとスロープ、ジャンプ台を使った小規模コースだ。
テクニカルだけどスピードも出しやすい、練習にはモッテコイな設定となっている。
「オレのマシンは……これだぜ!」
「部長、そのファイヤードラゴンはガチマシンではありませんかな!!?」
火野のマシンはファイヤードラゴン。通称、「炎龍」。
片軸シャーシのARシャーシをフロントモーター化する、「FMAR」マシンとなっている。
昨今のトレンドの1つと言える改造方法だ。
ポリカーボネートのボディにはオリジナルのファイヤーパターンが施されている。
矢印のようなボディ形状からも、一直線に加速していくイメージが浮かぶ。
「うるせぇよwオレは勝負と名のつくものには負けたくないんだよ!勝負は本気じゃなきゃだめだよな、みかど!」
「うん、やるなら本気がいい!どっちが速いか、競争だよ!!」
「みかどさんがいいならいいでござるが……大人気ないですよ、部長……」
「だってまだ高校生だもーん」
「くすくす♪」
スタートグリットに並ぶファイヤードラゴンとスーパーエンペラー。
元は別々の漫画から生まれたマシンだったはずだが、並んでみると違和感がない。
どちらも丸みのあるデザイン、旧コロコロコミックの読者層に絶大な人気があったマシン達だ。
「レースは先に3周できたほうが勝ちでござる」
水戸が改めてルールを説明すると、みかどがごくりと喉を鳴らす。
彼女にとっては初の勝負、レースになるのだ。
「準備はいいですか?」
「おぅ!」
「はいっ!」
二人同時にマシンのスイッチを入れ、レーンの上で構える。
「それでは……レディー……ゴー!」
両者ともに滑らかな滑り出しだった。
勢い良く走り出したのは……なんとみかどのスーパーエンペラー。
「やっぱりだ!このマシンくっそ速ぇぇ!」
「お店で走らせたときと全然違う!?こんなに速いの!!?」
しかし火野のファイヤードラゴンも追い上げる。
「ストレートはみかどさんのほうが速いけど、コーナーとジャンプの挙動は部長のほうが上だ!」
「さすがにヒクオの安定度とリアにローフリクションが入ったシステムでござるな!」
ヒクオとはジャンプから着地した時、跳ねてコースから飛び出さないための仕組みである。
コースアウトは失格となるため、レースを完走するためには重要な機構だといえる。
ローフリクションとはタイヤの種類のことで、あまり摩擦を起こさないものを指す。
ツルツルのローフリクションタイヤはコーナリングの際に威力を発揮する。
コーナーに入ると、タイヤがずるっと滑る。つまりマシンをドリフト状態にすることができ、コーナーリング時の加速度が増すのだ。
一方、みかどのマシンはストレートの加速性では上回っているが、コーナーでの減速、そしてジャンプの姿勢が少し不安定で荒い走りになっている。
とはいえ、その加速性能で火野のファイヤードラゴンを追い回す。
サイドバイサイド、両者ほぼ横並びのデッドヒートになっている。
「すげぇマシンだよみかど!おまえの兄ちゃん、やっぱりただもんじゃねぇぜ!!」
「ほんとにあたしもびっくりだよ!」
「だが……勝つのはオレだぁぁ!いっけぇー炎龍!!!」
最終コーナーを抜けたところで火野のマシンが頭ひとつリード。
「よしっ!勝っ……って、えっ……?!」
火野のファイヤードラゴンは最後のレーンチェンジでバタついてしまった。
リアの上段ローラーがレーン外に出てしまい、バランスを崩したのだ。
その間にバックストレートで加速しきった超帝が脇を駆け抜けた!!
「ゴール!みかどさんの勝ちです!!」
「やったぁ!部長に勝っちゃったー♪」
呆然とする火野。
いまいち状況が飲み込めていないようだ。
「……ちょい……今のなし……もう1回やろ、な?」
「部長、それはバンカラの美学に反するのではないですかな?」
「わーいわーい!これすっごく楽しい!すっごく気持ちいい!!あたしミニ四駆好きかもー!!」
「さすが部長、いつもどおり本番に弱いでござる」
「ヘタレが走りにも出るのでしょうかね?」
「だぁれがヘタレだこらーーーー!」
「わぁーやめてとめてやめてー」
「くすくす♪」
ミニ四駆の楽しさ。
それは作ったり走らせたり、だけじゃないかもしれない。
「しっかし……そのマシン、もう1回見せてみろ」
「ん?なにかおかしかったの?」
「部長、負けたからって因縁でもつけるつもりですかな?」
「そんなんじゃねぇよ、ただなんか、違和感があるんだよ」
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用語解説:
・ペンのグリス
タミヤから発売されている「オイルペン」のこと。
すごく薄く伸ばしやすく、ごみ取りとかにも使いやすい。
ちょっと高いけど便利すぎるので買っておくべき!
・JCJC
「ジャパンカップ ジュニア サーキット」の略称。
市販で手にはいるコース1セットのことをこう呼んでいます。
定価は2万円を超えますので、なかなかお高いお買い物に。
・ファイヤードラゴン
ドラゴンシリーズの第二弾。
もとはコロコロで連載していた「ラジコンボーイ」という漫画のラジコン。
ファイヤーパターンがかっこいい真紅のマシン。
ポリカボディは限定商品で今はとても手に入りにくい。
※2017年8月に再販されたぞ!!
・ヒクオ
もともとは提灯式マスダンパーといって、リアバンパーからボディの上を通す感じでアームを伸ばし、マスダンを吊り下げて、上下に可動するようにしてボディを叩いてマスダンを使うものがありました。
非常に制振性は高いのですが、見た目がとても悪くて。
ヒクオはマスダンパーユニットをボディ下から接続し、ボディそのものを可動するようにリアバンパー側からアームを作ってつける仕組みです。
アーム部分がボディ下に隠れるので、見た目もすっきりします。
ユニット自体をシャーシに叩きつけるので、2重の制振効果があり、ジャンプの着地がとても安定します。
・ローフリクション
ローフリクションタイヤというタイヤ。
ローフリクション、つまり抵抗が低いタイヤということで、すっごくツルツルです。
ミニ四駆はステアリングが切れないので、コーナーリング中は常時すべっている、ドリフト状態なんですね。
なのでタイヤのグリップがありすぎると滑らず、抵抗になって減速してしまうんです。
こいつを使ってフロントの抵抗を抜くことでコーナリングを早くすることができる、って寸法です。
ちなみに限定商品ですので、持ってない方は急いで買っておきましょう!
・レーンチェンジ
ただ溝を走っていた場合、内側が有利になってしまいます。
なので、走ってる溝の位置を交代する仕組みがコースに入っていて、それがレーンチェンジ(略してLC)です。
レーンの上をまたぐ、橋のような形になっているので、小さなジャンプ台のような感じになっており、通過するには飛び出さないような工夫をしないと攻略できません。
何気に一番最初にミニ四駆やっててつまづく場所だったりします。
LCを制するものは世界を制する!
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