番外編 貨幣価値とデート
世界が違うことによる常識の違いは種々多様なものに及ぶ。例えば、この世界の多くの国にとって、人死には忌むべき事ではあるが日常でもある。例外があるとすれば帝国や南部連合の一部と言った所か。
多くの旅人が行き交い、傭兵が旅をし、さすらう世界と時代では、陣が暮らしていた日本のような安全性など求めるべくもない。
「ただいま……」
「おかえり、エル」
森の中に住まう、エルムの魔女……彼女もまた、日常の中に生きていた。
***
採取した薬草や触媒を卸してきた帰り、陣は以前から気になっていた「常識の範疇にあること」をエルに尋ねる。
「ねぇ、エル……この辺りって貨幣でのやり取りが普通なの?」
「ん……少し離れ気味といっても帝国の勢力圏だから……基本は帝国貨」
財布代わりに使っている布袋から、何枚か貨幣を取り出す。小さな手のひらに乗せられているのは、長方形に成形された金属片
「左から、銅貨、鉄貨、銀貨、金貨……高額のものは玉、瑠璃、紅瑠璃になる」
「よく使うのは金貨まで?」
「そう、銅が5枚で鉄が1、鉄が2枚で銀が1、銀が5枚で金が1」
「玉、瑠璃、紅瑠璃も同じ?」
「そう、玉5枚で瑠璃1、瑠璃2枚で紅瑠璃1……普段使う分には、紅瑠璃が最高額」
わかりやすいのは良いことだ、と思いつつ、陣は内心思わぬ共通点に驚く。最も、厳密にはその貨幣価値そのものが違う、というのは体感しているが。
「鉄以上に関しては帝国の造幣局が製造している、けど……」
「そうでないものも出てくる?」
「そう、それらは私銭貨って言って……純粋に金属としての価値、として対応される」
「貨幣経済としては1400年頃くらいか……」
陣の呟きに軽く小首をかしげて、エルは続ける。異世界生まれのエルは、当然信長による貨幣推進や、私的に作られた悪銭の存在など知る由もない。
「ちなみに、私たちの採ってきた薬草一束が平均して鉄1枚と銅3枚ってところ」
「触媒の方は?」
「ものによるけど……赤毛熊の肝は紅瑠璃3だったかな」
頬に指先をあて、小首をかしげて思い出すエル。もともと美少女なコなので、そういう仕草が可愛らしく映える。
「ちなみに、これは国が変わるとがらっと変わるから、旅をしたりするときは、注意、ね?」
言いながら、近くの屋台に二人で歩を進める。串焼きを4本注文し、慣れた手つきで鉄貨2枚と交換。広場で歩きながらの買い食いは、やはり楽しいものだった。
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