第24話 鳴動する大鉱山 1
ノーリの打った槍斧を背負い、雑納を肩にかけて、陣は立ち上がる。
目の前には、同じように旅装束を整えた仲間たち。
「で、グルス……こっからどうする?」
「そうだな、鉄工街まではまだ距離がある、南に4日歩いた所にあるジルコニア大鉱山を目指すぞ」
「
「あぁ、昔結構な鉱脈が見つかって、それで鉱山が作られ……そっからさらに複数の鉱脈まで見つかった化け物鉱山さ」
「ちょっとちょっと、グルス君、それマジ!?」
陣以上に食い付いたのがノーリ、鍛冶師としての本能が聞き逃すのを許さなかったようだ。
「あ、あぁ、なんでも昔の鉄鉱山をもう少し掘り進めたら、鉄、銀、ミライト、ジルコニアの鉱脈が見つかって、貴重で希少な鉱山、ついた名前が一番産出量のあったジルコニア」
「じ、じゃあそこで鍛冶やってる人もおおいの!?」
無茶苦茶食い気味に、鼻息荒く思いっきり顔を近づけてノーリがグルスに詰め寄る、近い近い、とノーリを押しのけながら、もう少し思い出す。
「話は聞けって……そんな夢みたいな鉱山だったんだけどな、今は特に採掘なんかはしてなかったはずだ」
「なにゆえっ!?」
「政治と商売の縺れが同時に起きた」
こと作る事と掘る事になると一致団結するドゥビットとは違い、ヒュムの動きは政治経済に大きく影響される。発見された莫大な鉱脈と、多様な鉱石は、一致団結して掘るにはあまりにも魅力的だった。
「ま、そーであってこそヒュムって気もするけどな」
亜麻色の髪を手でかき回しながら、ネレッドが言う。
特徴的な釣り目を糸のように閉じたまま、そーいうもの、と達観した表情を見せるひねくれものに、グルスも苦笑する。
「まぁ、デカい鉱山が採掘してなくても、あのあたりのほかの鉱山まで止まってる訳じゃない、次の中継点はそこら辺の町で、そっから鉄工街に向かう」
「あぁ、そこはグルスを頼りにしてるよ」
この地域どころかこの世界の地理に明るくない陣としては、一も二もなくグルスに賛成する。
ノーリは話を聞いただけで行く気満々だし、ネレッドも面白がって付いてくるという。
人間二人とドゥビット、フービット、風変わりな一行はジルコニア大鉱山へと歩き始める。
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ジルコニア大鉱山……大陸南部と北部を分ける山脈の一部で見つかった鉱山が、その発祥の場所だ。初め小さな鉄鉱山でしかなかったそれは多種多様で、しかも豊富な鉱脈が次々と見つかったことで人々を集め、巨大な鉱山街を作り出すに至った。
長い間安定した品質の金属を供給してきたその鉱山が動きを止めてから早数年。最大の鉱山が動いておらずとも、付随するように作られた無数の鉱山が今も鉱山街を支えている。
今、この町ではある噂が持ちきりになっていた。
昔からこの町を支えていた最大の鉱山……ジルコニア大鉱山は実は「神の隠し金山」であり、それを暴き、掘り進めたこの町に禍が降り注ぐ……と。
「実際、鉱毒やら落盤、ガスなんかの事故がここ数年で一気に増えてるらしいぜ」
集めた情報を仲間と共有しながら、ネレッドが腕を組む。
「鉱山に落盤やガス、水はつきものみたいなモンだが……そこまで事故が起こってる場所だったか?」
「まぁ大鉱山はともかく、付随する並みの鉱山はな」
加えて最近では地震も多く発生し、大鉱山から1日のこの場所でも揺れを感じることがあるらしい。
「後、この辺りで鉱山の管理者が人を大仰に集めたりしてるな、ほんとに、何か悪いもんでも掘り返したのかもしれねぇ」
「まったく、誰よりも多く、誰よりも豊かに、か」
言いながら腰を上げるグルスに、陣は尋ねる。
「で、どうするんだ?」
「予定通りに向かう、何事もなければ、あそこでまた準備を整えなおして、次の場所だな」
雑納を背負いなおし、一行を見回してグルスは言う。
「よし、今日中に大鉱山に着くようにするぞ」
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霊峰ティルトをその中心に備える、ティルト大山脈はその頂を雲の内に隠すような峰がいくつも続く。
ジルコニア大鉱山を形成する山もこの大山脈の中に組み込まれているが、大石橋南街から3~4日もあれば着く立地の良さがあり、大陸南部への鉱石資源流通の始点となっていた。
山間に這うように作られた町はいくつもの坂が連なり、町自体が一つの芸術品のような美しさを醸し出している。その建築には、ドゥビットの建築技術が使われており、ヒュムネのそれと混ざり合い、独特な雰囲気を醸し出している。町の入り口……しっかりと組み上げられた岩の城壁と、そこにある門をくぐり、陣たちはジルコニア鉱山街の一つ、クリスタルにたどり着く。
「ここはいくつかの町が組み合わさってできた、複合都市ともいえる場所でな、下から上に「クリスタル」「サファイア」「アメジスト」「ルビー」と大きく4層に分かれてる」
グルスの説明を聞きながら、陣たちは「クリスタル」エリアを歩く。
がやがやと商談や雑談があちこちから聞こえ、どこか落ち着かない雰囲気と、火のついたような活気が辺りを占めていた。
「基本的には上に行くほどお偉方の領域……で、こっから見えるあの城が……」
グルスの視線を追って、陣やネレッド、ノーリもそれを見る。
視線の先にあるのは、空を映しこむ程奇麗に磨き上げられた城。
「「スカイゴールド」ジルコニア大鉱山の……まぁ、王室だな」
「王室……って事はこの鉱山街そのものが王国なのか?」
「いや?王室ってのはあくまでも通称さ、早い話が政治関係の決定場所って事だ」
近いもんはあるがな、と苦笑するグルスを後目に、ノーリがほへ~、と天高く輝く城を眺める。
隣で同じく輝く城を見つめるネレッドの目はどこか冷めていた。
「ところで、グルスの旦那、随分とこの辺り詳しいんだな?」
「……ま、いろいろとな」
少しからかうように言うネレッドに、グルスは肩をすくめて答える。
とりあえず宿をとろうと少し歩いた所で、門番の一人が大慌てで陣たちを呼び止める。
「お、お~い!ちょっと待ってくれ!」
「ありゃ、門番のにーちゃん、どうした?」
追いついて、乱れた息を整えてから、門番は陣たちに向き直る。
「あんたら、見た所傭兵か雇われの何でも屋だろ?これを渡すの忘れてた」
言いながら、彼は水晶の付けられたカードを陣たちに渡す。
「……魔道カード?ここぁ入ってきたやつらの管理でも始めたのか?」
「あ~、いや、そこまで大仰なもんじゃ無い。この町の厄介事や仕事の類をあんたらが集めやすいように、ここじゃあギルドを作ってるんだ」
無記名で、なんの登録もされていないカードをひっくり返してみながら、ふむ、とグルスが呟く。
「上の連中が下の俺たちとなるべくツラ合せずに仕事の依頼ができるように、か」
「そー言ってくれるな、そういう事ばかりじゃないさ」
ほんの少し、苛ついているかのような声音のグルスをなだめるように門番がいうが、否定はしなかった。
「あんたらに渡したカードのクラスは水晶、ここでの身分証代わりになるし、このクリスタルエリア内ならそれを見せてくれりゃ移動は自由だ……登録が終わればな」
「ま、いいさ……で、登録はどこでやるんだ?」
少し軟らかくなったグルスの口調に、相好を崩して門番は続ける。
「少し戻って、中央広場にギルドの建物がある、判らなくても、冒険者ギルドの場所を聞けば町の奴ならすぐに判るはずだぜ」
「そうか、わりぃな、手間かけさせて」
いいって事ヨ、と笑いながら、門番は職務へと戻る。
「さて、余計な手間が増えたな……こんな事まで始めやがって」
「グルス?」
「……いや、なんでもねぇ」
いこうぜ、と陣たちを促すグルスの口調は、少し固かった。
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