第21話 ドゥビットの鍛冶

「アタシ等ドゥビットは男も女も鍛冶を習うの、ある一定の年齢までね」

陣の槍斧を分解し、斧頭の状態を見ながらノーリがいう。

「で、基本を学んで、自分の斧を作り出す旅に出る。その旅で技を磨いて自分の斧を作り出したら、一端のドゥビットって訳」

斧部分の横っ面を軽く叩いて渋い顔、再度刃の付け方を見直し……

「もぅ……これ作ったの、あんまり腕のいい人じゃないわ」

その出来栄えに軽くため息をつく。

「しょうがないさ、何せ短時間で沢山作るために、刃の部分は鋳造を研いだ奴だ」

グルスが補足を入れると、ノーリの顔がますます曇る。

「ねぇ、ジン君?これもはや、修理とかメンテナンスするより買うか作るかしたほうが安全よ?」

「もともと安物だからな……作るにしても、当てはあるのか?」

グルスの言葉に、ノーリはしばらく考える。

「斧頭なら作れなくはないし、武器の構造は基本的に叩き込まれてるけど……さっきも言った通り、アタシまだ修業中なのよね」

「それでも普通の鍛冶屋の見習いに作らせるよりいいさ、鋳造が発達してからこっち、安物は大体鋳物だし」

ノーリは顎先に手を当ててしばらく考える。

「ジン君、グルス君、買い物、ついてきてくれる?」

「いいけど……何買うんだ?」

「材料」

陣の疑問にさらっと答えを言って、ノーリは立ち上がる。

「ここの炉じゃあんまりいい温度にならないみたいだからね、質のいい鉄、さがすよ」

「そりゃドゥビットの視線で見れば人間が作った炉は落第だろうよ」

「ってオイラ置いていくなよ!」

わいわいと好きに言い合いながら外へと繰り出す仲間たちに置いて行かれまいと……

「ま、まってくれよ!」

陣も慌ててついていく。

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 自由市場には様々な種族が思い思いに店を開いている。その中で、特にドゥビットが構えている店を覗いては、ノーリが真剣に売り物の質を見る。


「ね、おっちゃん?これってミライト鉱?」

「お、若いのに目がいいな、お嬢ちゃん……確かにこいつぁミライト鉱さ」


そのうちに話しかけたのは、いかにも熟練、といった感じのドゥビット。


「へぇ……ミライトをここまで手懐けるなんて、腕いいんだ」

「まぁ、それもあるがな?俺の所の炉はダマスカス炉だ、ミライトを手懐ける最大の秘訣さ」


それを聞いてノーリは目を丸くする。


「ひぇぇ……ダマスカス炉かぁ……おっちゃん良い腕してんだなぁ」

「はっはっは、お嬢ちゃんも100年も粘ればこれ位はできるさ、で、俺の鉄はお眼鏡に適ったかな?」

「適うも何も……ミライトで兜作れる実力者にそんな偉そうなこと……」


そして始まる鍛冶屋談義。グルスが肩をすくめて陣を見る。


「ま、種族によって中身は違えど女の買い物は時間がかかるって事だ」

「……そーいうもん、みたいだな」


なお、ネレッドはかなり早い段階で逃げだしていたことを参考までに記しておく。

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「いや~、人のいいおっちゃんで良かったわ~、腕もいいし」


腕に下げた篭一杯に仕入れた金属のインゴットをガチャガチャ言わせながら、ノーリは嬉しそうに言う。

ぱっと見篭一杯のパンを抱えた子供に見えなくもないのか、何人かが通りすがりに二度見している。そんな状況を見ながら、陣はふときいてみた。


「それで、ノーリ……その鉄でなんとかなりそう?」

「もーこれ以上ないほどにね!いや~、良い鉄つかえるとなると嬉しいわ、アタシもこーいう鉄作れるようにならなきゃなぁ」


どこか夢見るようなうっとりとした表情で、ガチャガチャとすさまじい勢いで鉄を鳴らす。

……一見小学校高学年の子供位に見える彼女の膂力を感じさせる行動に、陣は素直に恐怖した。


 借りた炉に帰って来るや、ノーリは炉の火を入れ直し、鉄を熱しては叩く作業を繰り返す。


「ノーリ、ここの炉って、ノーリが使うには温度低いんだろ?」

「まー使って使えない訳じゃないしね、それに、水車でふいご動かす最新型なんてそうそう使えるもんでもないし」


赤くなった鉄を叩いて成形するノーリ、熱と緊張のためか額に汗が流れだす。その汗は落ちることなく蒸発していった。

徐々に口数は少なくなり、真剣に作業する率が高くなってきたノーリの邪魔をしないように、陣はできるだけ静かに鍛冶場を離れる。

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 いつの間にか少なくなっていた呼吸により足りなくなった酸素を取り戻すかのように、扉を出るや何度か深呼吸する。


「よっ、ノーリいわだんごは集中し始めたみてーだな」


殆ど気配を感じさせずに喋り出したネレッドに、陣が慌てた表情を見せる。

それが面白かったのかネレッドは腹を抱えて笑い転げている。


「ネレッド、驚かせないでくれよ」

「はは、わりわり……でよ、ヒマだったらちょーっとばっか付き合わないか?」


にやりと笑みを浮かべて、ネレッドが続ける。


「ジン、お前さん、子供嫌いじゃないよな?」


 ネレッドに連れられてやってきたのは、それなりに大きな、と言える教会だった。


「ネレッドって信仰心あったのか?」

「あ?ねーぞ、というか、フービットがカミサマとやらの加護を受けたいと思わないだろ」


言いながら、教会の玄関横をすり抜け、その奥、寮のようになっている建物に向かう。


「用があるのはこっちさ」


扉の一部、郵便受けのようになっている部分に、ネレッドは懐から取り出した包み紙を差し入れる。

ごとり、と重たい音が扉の向こうからした


「よっし、用事終わりっと……今日は日が悪かったな、チビ共出てきてねぇや」


言いながら、今度は懐から飴玉を取り出し、「食うか?」と陣に一つ投げ渡す。

受け取ってすぐ口に入れたそれはべっこう飴のような飴で、陣はどこか懐かしさを感じる。


「そういえば……今のは?」

「あぁ……大勝ちした時は、あーする事にしてんだ」


賭けでもして、思いがけぬ勝ちでも拾ったのだろうか、のほほんとした言葉を聞きながら、陣がうなづく。


「菓子なんかも、一緒に包んである……こーいうとこだと、甘いものなんてあんまり食べられないからな」

「そうなのか?」


少し遠い目をしたネレッドの言葉に、陣は問いかける。


「まぁ、盗賊家業なんてやってると、それなりに経験がな」


今のところ、それ以上言う気は無い様で、ネレッドは自分で飴玉を一つ舐め始める。

男二人、飴玉をなめながら歩く事しばし……。


「戦争孤児にせよ、何にせよ……争いごとの一番の被害者はガキどもさ」


ぽつり、と呟くようにネレッドがいう。


「ま、そんな事は割とどーでもいいこった、それよりさ、グルスの旦那が捜してたぜ?」

「グルスが?」

「あぁ、なんでも、『クレメアにいたコを見つけた』とかなんとか……」


聞くや、陣が唐突に走り出す。


「お、おい待てよ!?お前らとオイラは歩幅違うんだって!?」


陣に置いて行かれないように、結構本気で走るネレッド、それを横目で見ながら陣は……


「ごめん、グルスはどこに!?」

「反応おせーよ!?」


しょーもないボケに、喉も裂けよと突っ込みが響いた。

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