第17話 ブリッジマーケットの戦闘
奇襲は成った、奴隷階級のコボルドを捨て石として突入させ、混乱が起こった所で指揮官級の敵を集中して狙い指揮系統を狂わせる。事は全て思うように成り、目的達成は目前だ。
そう、「戦況は」予想通りかつ理想的だ。だが……
「ふっふっふ……追い詰めたわよ?
「状況は」この上もないほど詰んでいた。彼はもう助からない。爆風で半分吹き飛ばされ、半ばボロ布と表現した方が正しいであろう服では隠し切れない、はだけた部分を隠そうともせず……「それ」は巨大な鉄塊を振り上げた。
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小鬼達の奇襲は成功したと言える、指揮官を
「グガッ!?」
誰かの背に斬りかかろうとしたゴブリンを、別の誰かが横合いから斬り捨てる。
「大丈夫か!?」
「すまない、助かる!」
助けられた方はすぐに気を持ち直すと、自分を助けた相手と背を合わせ、改めて敵に向き直る。
彼らを囲むのは、無数の小鬼。
「どーする?」
「降参でもしてみるか?」
「そりゃいい考えだ、相手が人間だったらな……左が薄い、突破するぞ」
「よっしゃ!」
二人そろっての一点突破、体格差に押され小鬼達の包囲網は突破を許そうとしていた。
「一息ついたら、南街の店でいいコ紹介するぜ」
「あぁ、そいつぁ素敵だ、生き残らなきゃな」
軽口叩きながら小鬼を薙ぎ払い、踏み殺す。
正直な処、数の不利をどうにかできるかは……五分だ。
橋の上の各所で戦いは続く、コボルドを捨て石として先行させ、混乱した所に本隊の突入、ありきたりだが堅実な策は確かに働いていた……だがその効果も時間に比して薄れている。攻撃を受けた側も、混乱しているなりに体制を立て直し、指揮系統を再構築していく。
上意下達の軍隊は比較的短時間で、そうでない傭兵は遊撃として動く事で状況を立て直し始めている。
そして組織的反撃が開始されれば、ばらばらと侵入してくる小鬼のやりかたは、戦力の逐次投入となる。
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「どりゃっ!」
グルスの振り下ろした槍斧が小鬼を肩口から真っ二つに割く。獣の皮を巻いただけでまともな防具を装備していない小鬼は悲鳴を上げることも無く地に還った。
側面から殴りかかろうとした小鬼を鉄製の籠手で殴り飛ばし、矢筒に入れていたジャベリンを投擲、壁に串刺しにする。
「おぉぉぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ドゥビットの少女のやり方はさらにハデだ、本人の宣告どうり魔術は使えていないが、大槌を振るうたびに小鬼の頭が潰れ、犬頭が吹き飛ばされる。ついでに流れ弾ならぬ流れ打撃で石造りの建物に大穴が開いたりしている。
「あんたやるね!」
「嬢ちゃんもな!背中任せられる戦士は久しぶりだぜ!」
小鬼達に押しやられ、前に出てくる犬頭の殺戮を続けながら二人は少しでも有利な状況を維持するために走る。
諸所で小鬼達の軍勢が不利になっていく中、逃げ惑う一般人にターゲットを絞った一群は楽な仕事をこなしていた。抵抗されたとしても複数で追い込めば楽に鎮圧できる、こっちに向かったのは当たりだ。
腹を裂かれ、腸を垂れ流しながらそれでも逃げようともがく商人の男の様を笑いながら見ていた小鬼は、次の瞬間頭を切り落とされる。
振り返りかけた小鬼を石突で殴り、がら空きになった胸にスパイクを突き立てる。口から血と悲鳴を同時に吐き出すという器用な芸を見せる小鬼を蹴りつけて外し、ブレードでとどめを刺す。
仲間2体を無残に殺され、その場にいた小鬼達が揃って1歩後ずさる。ぎゃあぎゃあと聞いたことのない……おそらくはゴブリン語、とでもいうべき言葉なのだろう、とにかく、何か叫びながら乱入者を包囲……というか逃げ腰になって下がり、遠巻きに半包囲する。
小鬼達の中から他とは装備の違う1体が躍り出る。他の小鬼よりも頑強な、
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頭の中から、相手がある程度以上の知性を持ち、少なくとも秩序だった行動が可能な生物だ、という憶測を追い出す。目の前にいる敵を倒さなければ、自分が死ぬ。それだけじゃない……。
「この先は、行かさないぞ」
呟き、槍斧の柄を握りなおす。敵中に躍り出て注意を引く、その危険性くらいは容易に想像できている。
だが……この近くに鉄火場から逃げ出そうとしている子供達がいるとなれば、話は別だ。ここで暴れて、より多くの敵の目を引き付ける。
「っらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
突き出した穂先は体を捻るだけで回避され、そのまま振り回したピックを、籠手の金属部分で防がれる。舌打ちすると後ろに大きく1歩下がる、直前まで陣の脚があった所に小鬼の槍が襲い掛かった。
ガンと地面に突き刺さった槍の柄に足をかけ、全体重をかけて踏み折る。小鬼が使う事に適している細い槍はあっさりとへし折れた。勢いあまってたたらを踏む小鬼の頭めがけて振り下ろした槍斧は、そのまま前転した小鬼に回避される。
小鬼が腰に差しているダガーを抜き、状況は仕切り直しだ。
「くそっ……グルスは楽に倒してるっていうのに……!」
「グゲッ……ゲゲグッ!」
にたり、と言った様な表情を浮かべる小鬼の言を、陣の耳は言語とは認識しなかった。
一拍の反応の遅れ、小鬼の手にしたダガーが陣の右腕を切り裂く。悲鳴を堪え繰り出した蹴りは空を切るだけに終わった。
「負けて……られるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
再度の突撃、互いの得物をぶつけ正面からの力圧し。体格に勝る陣が小鬼をじりじりと押していく。互いに額がぶつかりそうな距離……咄嗟にくりだした陣の頭突きが小鬼の頭にクリーンヒットする。
流石に悲鳴を上げ、よろける小鬼。その無防備な胴体に、陣のハルバードが吸い込まれるように突き刺さった、響くさらに大きな悲鳴に耳を貸す余裕など陣にはない。
「死ねぇぇぇぇぇぇ!!」
アックスブレードまで突き刺さっていたハルバードが、鎧ごと小鬼を真っ二つに切り裂いた。
半裂きにされて断末魔の痙攣を繰り返す鎧を着た小鬼を打ち捨て、陣は半包囲を続けながら狼狽する小鬼達に槍斧の穂先を向ける。
「次はどいつだ!?」
穂先を向けられた部分の小鬼達がたじろぐ、既に奥の方は逃げ始めていた。
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「無事か!?ジン!」
「グルス!」
包囲への突撃も中ほど、逃げようとするものとそれでも迎撃を試みようとするもので魔女の坩堝と化している場所に、グルスが突っ込んできた。
「あのコは!?」
「判らん!逸れた!……が、大丈夫だろう」
周囲の小鬼を薙ぎ払い、二人並んで走る。
「……修羅ってのは、あーいうのを言うんだろうしな」
結ぶ言葉をつぶやいたグルスの表情は、少し青かった。
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