第12話 異端たる閃光の戦士
最初の一人が無残な戦旗と華麗な転身を遂げさせられた事で、鍬や鎌を持った「戦利品」目当ての有象無象が後ずさるのが判った。それをみて、武装神官が一歩前に出る。
「仔等よ、恐れることは無い」
静かながら、響く声はどこか人を落ち着かせるような感じを与えさせる。
「異端の魔女とその傭兵が如何なる力を持っていようとも、正当なる神の使途である我らに敵するものではない」
そうだ、俺達には女神教の、武装神官が付いている。この戦いで力及ばず倒れたとしても、その魂は女神の御許に届けられる!
有象無象の中に扇動役がまぎれているらしい、萎えかけた彼らの闘志に再び火が付く……前に、声を出した辺りを巨大な閃光が貫いた。
一瞬にして辺りを支配する静寂。
「敵を目の前にたらたらとご高説ありがとな」
光の根本には、槍斧を左手に持ち、右腕を突き出した陣が居る。
「おかげで無駄に長い詠唱時間、稼げたぜ!」
光を放ったまま、周囲を「薙ぎ払う」
彼が身を守れたのは、とっさに掲げた盾が同じ光の属性であったが故、だろう。
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気づいたのは、数瞬前。殆ど思いつきのギャンブル。
魔術とは、「すべ」でありその施行に詠唱は本来必要ない。頭の中でしっかりとイメージができていれば、
セリフ一つで術を強化することも出来るのではないか。
周りの混乱に陥りかけた連中を鎮めるために、鎧が大声を出している。注意は……逸れた!
「マナ・コンバータ出力全開、エネルギージェネレータ全段直結」
イメージするのは、一撃必殺の破壊力。全てを消滅させる、閃光の砲撃
「仰角固定、一番、二番薬室内圧力正常加圧」
イメージの中で、砲塔が砲身を掲げ、敵をロックオンする。砲身に紫電が走り、高圧のエネルギーに発光が始まる。
「最終安全装置解除、重粒子加速砲……撃ぇっ!」
SF漫画お約束の未来兵器、ビーム砲をファンタジー世界でぶっぱするという反則技が炸裂した瞬間だった。
文字通り目を潰すほどの閃光が収まる。直撃を受けた範囲には……何もなかった。
エルの家を囲む様にしていた有象無象の半数が、ただ一発の魔術で消滅したのだ。
「光の魔術だと!?」
武装神官が驚愕に満ちた声を上げる。攻撃にも使えるほどの光……それはまさしく、女神教において神に導かれた勇者が最初に与えられる魔術、光の槍そのものではないか。
「穢れたエルムに惑う下種が!勇者を汚すか!!」
怒りに任せて振り下ろされた戦槌は、大地を打つだけの結果に終わる。
「礫は背教者を打つ!」
「
隙は見せぬと即座に放たれた礫の嵐は、エルの生み出した魔力の渦に飲まれて落ちる。
その間に陣は後ろに距離を取り、エルに渡されていた魔力石を口に入れる。
ただの小石であるはずのそれは、陣が軽く奥歯で噛むとすぐに砕けた。死ぬほどまずいが、魔術の行使によって疲弊した精神が持ち直す。
「おりゃっ!」
エルの前に飛び出したグルスがハルバードを突き出し、その切っ先を武装神官が大盾を使って弾く。
「ぬぅっ!?」
想定外の打撃の重さに、武装神官の表情がゆがむ。
「神の決定に抗うか、背徳者め!」
「俺がイカれた女神オタに尻振るお嬢さんにみえるかよ!?
押し切ろうとするグルスを武装神官が蹴り飛ばし、距離を取る。
追撃を試みるグルスに対し、扇動者に煽られた有象無象の集団が拾った石を投げつけ始めた。ただの投石と侮るなかれ、古来戦場では、投石が歩兵の常套手段だ。
先だっての「光の槍」で半数が消滅し、崩壊しかかった烏合の衆の数パーセントと言えど、持ち直したのはまさに神の奇跡と言ったところか。
しかし奇跡は長く続かず、二度は起こらない。
「ぐわっ!?」
戦槌がグルスの防御をかいくぐり、左腕から力が抜ける。片腕で支え切れるようにハルバードを持ち直そうとし、それよりも早く放たれた第二撃が、グルスの手からハルバードをもぎとる。
「その罪、神の御許で懺悔しろ!」
グルスにとどめを刺そうと振り下ろされる戦槌、それをグルスは……
「お、りゃぁぁぁぁぁっ!!」
十分に速度を乗せて振り下ろされた腕、それを残っている右腕で掴むと、そのまま撥ねるように前転宙返りを行う。無論勢いをかって腹にケリを入れておくことも忘れない。
変則的な投げ、強く背を打つような痛みこそ与えられず、驚く以上のダメージは期待できない。
そして戦場では、その一瞬の驚きが命取りでもある。
「エル!」
「できてる」
跳ね起きようとした神官が、己の動きが阻害された事に驚いて腕を見る。地面の一部が変形し、まるで枷の様に彼の腕を捉えていた。
「エレメント……!邪法がぁっ!」
力任せに拘束を引きちぎろうとし、もがく。それに夢中になるあまり、彼は自分が闇に捕らわれた事に気づくのが一瞬遅れた。
「暗闇の友よ、我らを害するものに根源の恐怖を与えよ」
それが、発動のスペル。それが響くと同時に、神官の心の内から急速に力が抜ける。それはマナを使い過ぎた時の様な……
「闇の精霊か……!?くっ……卑劣な……!」
闇の精霊は心を蝕み、善き意思をくしけずる。それを思い出した神官は今度こそ力づくで拘束を解くと、鈍痛のする頭を抱えて立ち上がる、心はまだ折れていない。
「神の名の下に……悪しき魔女を……!」
エルに向かってゆっくりと前進を続け……
「
エルの放った無数の衝撃波で頭を何度も強制的に揺らされ、脳震盪を起こしたのか、そのまま倒れた。
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グルスとエルのタッグが敵の大将を抑えている間、陣は何人かの扇動者に連れられた有象無象の対応を行っていた。
予め仕込んであった精神力回復の為の道具……陣が判りやすく言うならMPポーションをひと瓶あおり、その苦さに一瞬吐き出しそうになりながらも飲み下す。底を突きかけていた精神力が強引に持ち直させられ、軽い頭痛を感じながらも、陣は動くことが出来る状態を維持した。
囲まれない様に立ち回りながら、ハルバードを振り回す。こっちも向こうも刃物向けられるのは慣れない同士か、と陣は内心ほっとする。同時に同じような格好の中で反応が鋭い者を何人か確認した、おそらくそれが扇動者。
「ひ、怯むなぁ!俺たちには女神さまの加護がある!!」
「そうだ!それに相手は一人!さっさと潰して神官様を助けるぞ!」
勢いを付けようと声を上げるが、いかんせん鍬や鎌で装備した農民主体の有象無象は及び腰になっている。無論彼らは最後に残った極僅か、その精神力は確かに立派と言えるほどなのだろう。
しかし、自分たちの半数を消滅させた光に恐怖するほどには、普通の人だった。
伝承や神話で見る「光の槍」を目の当たりにして、まさか自分たちは光の勇者を敵としてるんじゃ……と思ってしまうほどには普通の人だった。
だが、あやしい森の魔女と一緒に居たこともまた事実、あのエルムと一緒に居た男が、勇者であるはずがない、と彼らは己を奮い立たせる。勇気を出せ!ここで勝利すれば、俺達は英雄だ!
功名に駆り立てられた何人かが叫びをあげて陣に向かっていく。
しかし彼らは、すぐに何かに足を取られて転倒した。思ったよりも衝撃は無く、その変わり、体が沈んでいく。
「な、なんだ!?」
「お、おい!?体が沈んで……!?」
「な、なんっ……たすけっ……!」
たぷん、と液状化した地面に襲い掛かってきた何人かが呑み込まれたのを見て、陣はそのあたりに仕掛けた液状化の魔術を解除する。元の硬い状態に戻る地面。呑み込まれた連中の運命は語るべくもない。
「じ、冗談じゃねぇ!」
「ま、魔物だ!悪魔だぁっ!?」
ついに、恐怖に耐え切れず戦線は崩壊した。
引き留めようとする扇動者は、陣の放つ光に撃たれて倒れる。後には倒れた武装神官が残された。
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