第9話 メープル好きの二人とシウ

魔法使いで引きこもり?11巻の発売記念です

第一部の第十一章あたりの、プルウィア&ククールス←なんか昭和の歌手の紹介っぽい…



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 シウがククールスとプルウィアの三人で喫茶店に入ると、店主や給仕係の女性ら全員が一斉に視線を向ける。それも当然で、珍しいエルフが二人、更に滅多と見られない騎獣がいるのだ。このメンバーで視線を集めないわけがない。

 ともあれ、一番良い席に案内してもらい、注文も済ませたところで会話が始まる――かと思われたのだが――。

「どうしたの? 二人とも黙ってるけど」

「いやぁ、だってな~」

「別に、話すことってないもの」

「もう、二人とも……」

 呆れながら、シウは年上のエルフ二人を見た。互いに素っ気ない態度だ。といって、喧嘩をしているのではない。ただ相手に興味がないだけ。出身地が同じでも顔を合わせたことはほとんどないというから、こんなものなのかもしれない。

 注文した品が届いたので結界を張り、シウはとりあえず話題になるかと魔法袋からメープルのお菓子を取り出した。もちろん喫茶店では食べない。あくまでもお土産として渡す分だ。ちゃんとラッピングもしている。

「これ、新作作ったから」

「うおっ、マジか!」

「え、もらっていいの?」

 二人に渡したのは、こってりしたメープルクリームを、アーモンドを砕いて混ぜたクッキー生地で挟んだものだ。他にも塩気の強いナッツをメープルでコーティングしたものなど、どれも真空パックを使って個別包装しているから持ちはいい。

 シウが説明していると二人がゴクッと喉を鳴らした。

「分かっていると思うけど、ここで食べちゃダメだよ?」

「え、なんでっ」

「大抵の飲食店は食べ物の持ち込みを禁止しているから」

「えー」

 ククールスが膨れっ面で駄々をこねる。それを見て、プルウィアは手にしていた袋をテーブルに置き直した。どうやら彼女もここで味見しようと考えていたらしい。

 シウはふっと笑った。

「二人とも、似てるなぁ」

「え、嘘だろ」

「止めてよ、こんな人と似ているなんて!」

 と、同時に返ってくる。シウは益々面白くなって笑った。


 二人が会話をしないのだからシウが進めるしかない。勝手に話を始めた。

「今度、山に行く時にメープルだけじゃなくて、メープルにちなんだお菓子も作って持って行こうと思うんだ。どれがいいと思う?」

 狩人の里へのお土産だ。狩人たちもメープルを好んでいるため、同じ趣味のククールスやプルウィアに相談してみた。

「メープルシロップだけで十分じゃないのか?」

「それだけだと味気ないし。せっかくお邪魔するんだから、手間を掛けたいというか。だけど、前に素朴な味が好きだって聞いたことがあってさ。ククールスもどういうのがいいか考えておいてよ」

「分かった」

「ねぇ。シウがメープル農家と知り合いなのよね?」

 プルウィアがためらいがちに口を挟んだ。シウは首を傾げた。

「違うよ?」

 何故かククールスもシウと同じような格好だ。プルウィアは眉根を寄せた。

「でもだって、前にククールスが……」

「俺、なんか言った? シウがメープル作ってるって話はしたけど」

 プルウィアは「あっ」と声を上げた。どうやら彼女が聞き間違いをしたのか、あるいは勘違いしたようだ。シウもそれに気付いて笑った。

「僕の山でメープルを採取してるんだ。処理も全部自分でやってるんだよ。いっぱいあるから溜まる一方で、言ってみれば使い放題なんだよね」

「ええっ、そうなの?」

「うん。瓶が重いだろうから、この間は一つしか渡せなかったけど。あ、だから、また持ってくるよ」

 シウの言葉を聞いて、プルウィアの顔が赤くなった。

「あの、いいの?」

「うん。友達だからね。もちろん、ククールスにもあげるよ」

「やりぃ!」

「ちょっと、ククールス。あなたは少しぐらい遠慮しなさいよ」

「いいじゃん。くれるって言うんだから」

「そういうの、良くないと思うわ」

「なんでさ」

「友人でも、友人だからこそ、わきまえるべきよ」

「男同士ってのは、こんなもんだ」

「あら、あなたのやっていることは相手の優しさに付け込んで――」

「ストップ、待って、二人とも黙ろうか」

 二人の掛け合いが面白くて眺めていたけれど、さすがにこれ以上はまずいと口を挟む。

 なにしろ、声は聞こえていないだろうが、言い合っているのは見た目に分かる。喫茶店の主人や給仕係がチラチラ気にして見ているのだ。シウも二人の言い合いが喧嘩とまでは思わないが、居心地が悪い。

「プレゼントに関しては僕が好きでやっていることだから。プルウィアも遠慮しないでね。あと、ククールスはあえて悪ぶった言い方をしないこと。僕と一緒の時はそんな感じじゃないのに、なんでだろうねえ」

「おい、そういうの言うなって。止めろよな」

「はいはい。とにかく、二人とも落ち着こうね?」

 プルウィアはしゅんと静かになった。

「僕のためを思って言ってくれたんだよね。ありがとう。あのね、ククールスには、あることへのお礼として渡したのがきっかけなんだ」

「そうだったのね。……でも、じゃあ、わたしはいいのかしら」

「プルウィアとはお近づきの印って感じ? それに、バルバラさんやカンデラさんのことを教えてくれたよね。他にも情報をもらった。そのお礼でいいんじゃないのかなあ」

 シウの言葉にプルウィアは目を伏せた。

「ごめんなさい、何も知らずに、わたし」

「そういうのを話していこうよ。僕ら、圧倒的に会話が足りないんじゃないかな」

「あの、ええと、そうね。そうかもしれないわ」

 プルウィアはククールスを見て、ほんの少し溜息を吐いた。けれど、ふっと肩の力を抜いて笑顔になる。

「そうするわ。シウとも話をしたい。いいかしら?」

「もちろん」

「えー、俺も?」

「ククールス?」

「ほら、これだものね。全く、もう!」

 結局同じような雰囲気になるけれど、それでも最初よりは話が進む。

 もちろん、いきなり仲良くなろうとしても無理なのは分かっている。だからシウは徐々に、彼等が話が出来るようになればいいと思った。

 そんなお節介をしてしまうのは、街中にいるエルフが本当に少ないからだ。そして、同郷人同士の繋がりがあった方がいいと、先日の嫌がらせ事件で思い知った。幸いにしてバルバラやカンデラは同郷人の皆が協力してなんとかなった。

「とにかく、わたしは向上心のない人が嫌いなの!」

「仕事ってのは適度に手を抜くもんだ。遊びがないと危ないからな」

「信じられない。遊ぶですって?」

「余裕を持つって話じゃん。言葉通りに受け取るなって。これが人族風の言い方なの」

「嘘。シウ、嘘よね?」

「もう、二人とも……」

 話はできるようになったが、すぐこれだ。シウは呆れて匙を投げた。

「あんまり喧嘩するようなら、もうメープルあげないよ?」

 冗談で伝家の宝刀を抜く。すると、二人が焦って仲直り(のフリ?)をした。

 ちょうど時間も帰る頃合いで、喫茶店での最少同郷人会はそこで終わった。

 案外、こういう関係の方が長く続くのかもしれない。二人は性格が正反対に見えて、実は似ている。気持ちを隠さないところなどは特に。言えば同時に違うと返ってきそうで、シウは想像して笑った。そんなシウを、二人は店を出ようとして振り返り同時に首を傾げた。

 それが面白くて、シウはやっぱり笑ったのだった。






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