第6話 小さな魔法使いたちの奮闘

四巻発売記念SS

「魔法使いで引きこもり?」第一部の第三章をご覧いただければ、ネタバレにはならないと思います。





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 演習の最中に火竜が現れたことで、生徒たちは避難を余儀なくされた。リグドールたちもそうだ。リーダーのシウが事前に見つけていたという洞穴へ皆で向かった。そこまではまだ、慌てていたこともあって不安など感じなかった。けれど、シウが「火竜を誘導してくる」と言ったことから「これは演習ではない、現実なんだ」と気付いた。

 正直に言えば怖かった。それでもシウが笑顔で「大丈夫だよ」と言うものだから、信じることにした。何故か、シウが言うなら大丈夫だと思えた。それはリグドールだけではなかったようだ。皆が示し合わせたようにシウを笑顔で送り出した。


 途中、大人の護衛二人とレオンが、他の生徒を助けるために出ていった。その間、リグドールたちは洞穴を更に改造することにした。小さな洞穴では人数が増えた時に対処できないからだ。

 指揮したのはヴィクトルとアレストロだったが、リグドールも積極的に皆に声を掛けた。というのも他のクラスの生徒もいたからだ。たとえば同じ一年生の岩石魔法の持ち主などは、大貴族の息子のアレストロに腰が引けていた。同じように、親しくない生徒たちは、火竜が現れたことによる恐怖も相まって怯えている。そんな彼等に、リグドールは持ち前の明るい調子で話しかけた。

 それにリグドールが積極的に動くことで、生徒たちも自分の成すべきことを考えるようになった。

 洞穴の外にはいつでも土壁で入り口を隠せるように大量の土を用意した。周辺には罠を張る。茨の罠だ。また、魔獣がやって来ても洞穴に気付かないような道を作った。

「このあたりに壁があったら右の洞穴には気付かないよな?」

 ヴィクトルに相談すると、王都の地理に興味があるという生徒がおずおずと口を挟んだ。

「視線を考えたら、左手に何か気になるものを作った方がいいと思う」

「そうか。ありがとな!」

「ううん。あの、人間の動きとは違うかもしれないんだけど」

「生き物のことだから似たようなものだって」

 そんな風に話していると、他の生徒も自分の得意分野を考え始めた。

 薬草学が得意な生徒は、洞穴のすぐ傍にあった薬草を使って魔獣避け薬玉まで作り始めた。彼一人ではできなかった。火属性魔法を持った生徒が「乾燥」させることで早く出来上がった。これを周辺に設置することで、リグドールの外での作業も楽になる。


 洞穴を守ることは急務だったため、リグドールはポーションを何度も飲んで作業を続けた。迷路のように土壁を作り、紛れ込んだ魔獣を落とす穴も掘った。土属性魔法を必死で勉強して使い続けたことでこれだけの作業をこなせた。見ていた他の生徒も、

「土属性って、こんなに便利なんだ。僕も勉強したい」

 と、やる気だ。

 地味だと言われる木属性魔法でも使い道がある。木を切り倒して乾燥させると、すぐに燃料として使えるのだ。大きな木はテーブルにもした。椅子は岩石魔法持ちの生徒が作ってくれた。

 木属性持ちの生徒は蔓を柔らかく使えるようにして、女子生徒が頼んだものを編んだ。蔓のカーテンだった。リグドールが少し説明しただけで早速使えるようになったのだ。

 皆が知っていることを教え合い助け合った。

 リグドールがとうとうポーション酔いになってダウンした時も、治癒魔法持ちの生徒が治してくれた。レベル1しかないため完全に治るわけではない。けれど気分の悪さはかなりマシになった。


 少し休んで、また作業を続ける。その繰り返しで動いていると恐怖も忘れた。

 もちろん外にいる時は緊張感を持っていた。

 でも大丈夫。リグドールはシウを信じている。時折、通信魔法持ちのクリストフ宛に連絡が入った。その時のクリストフの表情が「大丈夫」だと教えてくれる。

 何度も何度もシウから連絡が入った。時々帰ってきては笑顔で状況を教えてくれた。

 だからリグドールはいつも明るく皆に言い続けた。

「シウが『大丈夫』だって言うんだから、大丈夫だよ。なーんにも知らない俺たちを連れて山の中で合宿やったんだぜ?」

 皆も同じような気持ちになったようだ。最後には名残惜しいだなんて言い出す友人もいた。リグドールもほんの少し、非日常が楽しかったと感じた。

 でも、やっぱりもう懲り懲りだ。

 アリスが最後に泣いていたのを見たからだ。彼女が過ごしやすいようにと頑張った洞穴生活だった。だったらやっぱり、アリスが嫌だと思うような現実は嫌だと思うリグドールだった。




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四巻まで出せたのも応援してくださる皆さんのおかげです。

本当にありがとうございます。

これからもどうぞよろしくお願い申し上げます。




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