第3話 苦しむこともまた才能の一つである——ドストエフスキー

 学校。

今までは苦でしかなかったこの環境も、今となっては居心地のいい大好きな場所である。

入学の時からいまだやまぬ胸の高まりを抑えながら圭佑は教室へと足を踏み入れた。


 「おはよ〜羽柴くん」


 「おぉ、圭佑おはよう」


 教室に入ると柳瀬と中村が挨拶をしてきた。


 「おはよう」


柳瀬とはこの間の買い物から前よりも頻繁に話すようになった気がする。

圭佑も最初こそ緊張してうまく話せていなかったが、もともとコミュニケーションをとるのは苦手な方ではないらしくすぐに打ち解けることができた。


 「おはよーくん、この間はありがとう」


いきなり聞き慣れない声にをよばれて振り返るとそこには厄介な客に絡まれていた美少女店員であった。


 「おはよー。この学校の生徒だったんだ・・・・・・てか、同じクラス!?」


 「うん、実はそうだったんだ。前々からくんと話したいと思ってたんだけど特に話題もなかったし、何より周りに常にたくさん人がいるから話しかけづらかったの」


 「私の名前は小林涼子こばやしりょうこ。あらためてこの間のことのお礼を言わせて、助けてくれてありがとう」


 「いや、ついかっとなっちゃただけだし別に助けようと思ってのことじゃないからお礼を言う必要はないよ」


 「それでも私が助かったことには変わりないから。私あの店でバイト初日だったの、ただでさえ不安だったのにいきなりあんな事があって本当に困ってたの」


 「あぁ、初日であれは災難だったね」


 「うん、だからありがとう!ところで・・・・・・」


小林はそこで一旦会話を切り圭佑とその隣の柳瀬を交互に見つめた。


 「圭佑くんと柳瀬さんはもう付き合ってたりするの?」


 「いや、付き合ってないよ」


即答する圭佑に柳瀬は不満顔になった。


 「そうなんだ・・・・・・じゃ、私行くからこれからよろしく!」


小林は急に嬉しそうな顔をすると自分の席へと戻っていった。

圭佑が小林との会話を終え、隣に向き直るとムスッとした表情の柳瀬がいた。

怒った顔も実に可愛らしい。


 「羽柴くん、いつの間に小林さんと仲良くなったの?」


 「いや、会話の通り話したのは今日が初めてだよ」


 「名前呼ばれてデレデレしちゃって」


 「べ、別にデレデレなんかしてねーし!名前呼ばれたぐらいでなんともならねーし!大体入学式の自己紹介のとき、名前は好きに呼んでかまわないって言ったろ」


 「じゃあ私も圭佑くんって呼ぶ!」


 「あ、あぁ別にいいよ」

 

 「だから圭佑くんも私の事下の名前で呼んで!」


 「なんでだよ!それは関係ないだろ!」


 「あるもん!いいから呼んで」


 「たくっ、まぁ名前ぐらい別にいいけど・・・・・・えっと、ひ、ひとみ」


 「うっ、は、はい」


 「はいはい、口から砂糖が出そうな青春も一回やめようね。ここはお前ら二人の世界じゃなくて俺もちゃんと存在してるんだからな。それに——」


中村が会話に入ってきた。

よく見るとクラスのほとんどの目線が圭佑とひとみをとらえていた。

クラス、いや学校一とも言えるほどのイケメンの圭佑と、クラスのアイドル的な存在のひとみが甘い会話をしていれば見たくなくても視線が向いてしまうのは致し方ないことだろう。


 「まぁそういうことだから、いちゃつくときは場所をわきまえような」


圭佑とひとみはなんだかいたたまれなくなってそっとそれぞれの席に座った。

未だ感じる視線を払いのけるように机につっぺしていると、いつの間にか学校の終わりを告げるチャイムが校内に響き渡っていた。




 

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リベンジ少年K Ns @wanwan1081

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