第4話
更にそれから二週間後、鬼訓練に耐え抜いた俺の身体は今迄にも増して筋肉量が増え、そこそこガッチリした体格へと変貌を遂げていた。
それでもロワさんには遠く及ばず、精々細マッチョ止まりだが。
「今日から本格的な修行へと移行するぞっ!」
晴天の下、いつものように村長の声が村中に響き渡り、俺達の朝が始まる。
身体造りに関しては全て自己管理になり、本日より戦闘訓練の開始だ。
因みに、俺達の現在の強さ、ステータスというものを“
これは初級中の初級魔法であり、理論上は産まれたばかりの赤子であろうと使用可能だ。何故なら、魔法という枠内には分類されているものの、使用魔力数値はゼロなのである。その為に魔力切れを起こしたとしても、それだけは使えてしまうという摩訶不思議な魔法だ。
その理由の一つは“ステータス数値は何が基準になるのか”である。
見た目がゴツイ人であっても、その人の強さを示すSTRという項目が一般平均より低い場合も存在するし、逆に可憐な女の子のSTRが尋常じゃない程高いという事もあるのだ。
これに関しては何を基準とし、誰がどのように計測しているのか分かっていない為、神の所業だと言われるようになった。
俺は必死に何かを説明している村長を置き去りに、ステータスを開く。
「
何の音も無く表れたそれは、灰色の背景に白字で書かれた長方形。
手がすり抜ける紙が浮いていると思ってくれると分かりやすいだろうか。
其処にはこう記されている。
“ファージ 十六歳
??? 熟練度 ??
SKILL
鍬 最上級 熟練度MAX
一般魔法 初級 熟練度3
UNIQUE
??? 最上級 熟練度??
??? 初級 熟練度1
??? 初級 熟練度1
??? 初級 熟練度1
TITLE《称号》
農夫の鏡
至高の楽観者
目覚めし者„
一般的な能力値平均は総じて十。職業に応じて変動はするが、戦闘職以外は基本そうなる。
魔法使い《ウィザード》だとINTが初期から二十あったり、
レベルアップに応じた数値の上り幅もまちまちだが、基本的には二から五の間である。これの初期値に関しても、職業と同じだ。大体、職業の熟練度が上がると、その上位職にランクアップが可能になり、最上級職で熟練度をカンストさせると転職が可能になる。
幾つかの職を極めなければ就けない職もあり、代表的なのが
少々脱線したが、次にスキルについてだ。
これは誰でも習得できる能力の事であり、転職したときに発現したり消えたりするものと、熟練度を上げる事で発現する方法がある。熟練度をカンストした場合は次の職に引き継ぐことが出来る為、世界で名を轟かせる凄腕冒険者達の殆どが過去の職で手に入れたスキルを引き継いでいるらしい。
只、熟練度が上がればその職に応じた技も習得可能になるのだが……凄い技とかをポンっと覚えられるという事は無く、覚えられる“可能性”が上がるだけである為、中には未だ剣を振る事しか出来ない人もいるのだとか。
因みに、俺の鍬スキルは畑を耕す以外脳の無いクソスキルだ。仕事では重宝していたが。
ユニークスキルはその人しか習得し得ない特別なものだ。唯一無二の能力であり、そのどれもが途轍もない効果を誇るのだとか。一応全ての生物が習得する可能性を秘めているものの、それを可能にした事例は過去を遡っても十数件しかない。これは周知の事実であり、覆されることの無い確かな情報だ。
通常は一人一つまで可能性があるらしい……。
以上の事から見出される結果は――
「俺、なんかおかしくね?」
自らのステータスをもう一度確認し直すが、やはりおかしい。
何で職業はてななの? 能力値上がり過ぎじゃね?? 何でINTだけ通常より低い伸び方してるの??? ユニークは???? なんか目覚めちゃってるけど????
俺は溢れる程の疑問符を浮かべ、何度も首を捻りながらステータスを凝視する。
確かに、だいぶ前から鍬スキルカンストしてたし、農夫から農耕民族に転職しようかなーとは思ってたけどさ。
「はてなって何なのおおおお!!!」
「黙らんかいぼんくらがっ!!」
「あだっ!」
目と鼻をこれでもかと見開いき、大口を開けて叫んだ俺に村長の鉄拳が飛んで来る。
鉄と鉄がぶつかったような気持ちいい音が鳴り響くと、俺は頭を抱え村長は真っ赤に腫れた拳を撫でて涙目になる。
クソ爺の涙目なんて誰得だよっ!!
と内心では思いつつ、心が清らかな俺には口に出すことが出来ず、恨めしく見つめるのが精一杯だった。
「な、何じゃその目は……婆さんの大切な躰に傷を付けおって」
「けっ! 精々ギックリ腰にでもなってレオナにゴミを見る様な目で見られてしまえっ!!」
「ファージ……それはお前限定だぞ」
「えっ」
ロワさんが憐れむように俺に視線を向けてくるが、その視線は俺ではなく他の誰かを映し出している気がする。が、気のせいだろう。
そもそもロワさんは俺と同じくらい頭の弱い人だ。そんな難しい事出来る筈がない。
俺はまあいいかと視線をロワさんから村長へと戻し。
「そんな事よりっ!! このステータスどうなってんだよ!!」
終始開いていたステータスを村長へと見せる。
ロワさんも気になったようで、村長の背後へと回り覗き込む。その時に村長が自らの尻を手で隠したのを、俺は凝視した。
「なっ!」
「…………まぁ、魔王殿の婿になるんじゃ。これくらい当たり前じゃろうて」
驚愕を露わにするロワさんと、脂汗をダラダラ流しながら澄まし顔で見つめてくる村長。
……こいつ、本当にどうにかしてやろうか。
一度糞ん長に蔑んだ視線を送り、再度ステータスを確認する。
「やっぱりおかしいな……本当にどうなってんだ?」
「まさか、お前が勇者だったりしてな」
「そんなわけねぇーだろっ! だいたい帝国が異世界から勇者召喚したって噂してんのに、他に勇者が居てどうすんだよ!」
「確かにな」
冗談だと笑うロワさんに、俺は垂れてくる冷や汗を拭い取る。
本当に勇者なんかになってたまるかよ。いいように扱き使われて、最後は殺されるか永久に国の兵器になるかの二択しかない職業だぞ。
そもそも勇者になるまでに幾つ職を極めたらいいと思ってんだ。最初から勇者に就いてる奴なんか、それこそ召喚されるか生まれ変わりかしかないだろ。
「まぁ、なんにせよ前代未聞の職に就いてるのは確実だろう。ただ、それが何なのか分からないのが玉に瑕だよな」
「確かにそうじゃな。これでは何を鍛えたら良いのか分からんのう」
難しい顔をする二人。
実際、職が分からない事には特訓のしようがないからな。
剣士なら剣術、魔法使いなら魔法と、其々伸ばすところが明確なのだが……。
二人に釣られ、俺も難しい顔になってしまう。
唸り合う男三人は、傍から見たら異様な光景かもしれんが、大事な事だからな。俺の今後が掛かっている。
だが、幾ら――――その時……!
唐突に響き渡る魔獣の叫びに俺達は耳を塞ぐ。
「な、何事じゃっ!!」
『魔獣が攻めてきたぞー!!』
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