第4話 王子様に守られるお姫様はテンプレ
委員長達の前に立ち塞がった桜宮さんは、まるでボクを守る王子様かのように手を広げた。な、何だろう、この感覚。
最近、虐げられてばかりだったからなぁ……誰かに助けてもらう事も早々ないし。ちょっと、涙が……。
「いきなり、殺気丸出しで物を投げつけるとは何事ですかっ! 何時から、月風、双神、森塚はそのような事をする家になったのです? 猛省なさいっ!」
か、カッコいい! あの委員長がちょっと怯んだ顔をしてる!
いいぞいいぞ、桜宮! いいぞいいぞ、桜宮っ!!
……あ~、冗談だよ? ハハハ、ボクが委員長の敵に回る筈ないじゃないかー。もう、嫌だなぁ。だから、本気で睨まないでほしい。怖いから。
立ち上がり、桜宮さんにお礼を言う。
「ごめんなさい、大丈夫。この子達なりのコミュニケーション手段なので」
「……これがですか? 姫野様、少し甘やかし過ぎなのでは? こんな事をする暴力女と一緒に行動する事は、貴女の為にならないと思います」
「なっ! そ、それは貴女に言われる筋合いはないっ!!」
「そ、そうよ!」
「そ、そうですっ!」
「いきなり、防がなければ血塗れになるような攻撃を放った貴女達が言っても、説得力に乏しいと思うのだけれど?」
「「「…………」」」
す、素晴らしい……! ここまでのド正論を言ってくれる人がまだ、残っていたなんて。今、ボクは猛烈に感動しているっ!
何か、うちの姉妹や、委員長、八ツ森、最近だと月風や、双神さん……は、まぁまだいいけど、とにかく! ボクは大分毒されていたみたいだ。
いけないいけない。ボクは真人間。道路の真ん中を歩いていかないと。
気付いた時には『……あれ? ここ何処』状態になっちゃ駄目だ。
「姫野様。お優しいのは素晴らしい事ですが、優し過ぎてもそれは良くありません。ここは少し、距離を置いてみては? その間のお世話は、不肖、この桜宮栞が務めさせていただきます」
「そんな悪いよ……」
「いえ、良いのです。私は先程、はっきりと天明を悟りました。私の人生は貴女様を守る為に、お傍にいる為にあるのだと!」
「そう、なの?」
「はい! ですので、どうかこの私にお命じください。『ボクを守って』と」
「ボクは……ボクを……」
嗚呼……甘美な響き。
頭がぽわ~としてきた。しかも、いい香りがするし……桜なのかな?
そうだね。諸々、面倒だし、一応この子、主筋と言えば主筋なんだし、そう言ってしまってもいい……炎と風が舞う。
それに対して、桜宮さんは、無数の桜の花弁で防御。少し遅れて、周囲一帯を双神さんの水魔法が洗い流していく。おっと、危ない危ない。
慌てて跳躍してフェンスの上へ。ん? 何だか、思考がはっきりしたような?
下を見ると、桜宮さんと三人が対峙中。ちょっと……怖いです……。
「……私の姫野を誑かそうとするとは、幾ら貴女が『二宮』の一角である、桜宮家の御令嬢であっても、看過出来ないな」
「……そいつが甘い事に付け込んで、精神汚染をしようとするなんて、あんた、殺すわよ?」
「……姫野先輩も姫野先輩です。わざとそれに浸ろうとされるなんて。お仕置きが必要です」
「貴女達が日頃から、姫野様を虐めているからでしょう? 私と一緒にいた方が、幸せになれます!」
おお……空間に火花が見える気がする……。
あ、双神さん、ボクは単に一度『桜宮』の精神汚染を経験しておこうかな、と思っただけで……ハイ、ごめんなさい。
そろそろ、止めないと委員長と月風が暴発するかなー。流石に屋上が全部破壊されるのはマズいし。
――仕方ないなぁ。
右手を軽く振り、三人が展開していた魔法を消失させる。
桜宮さんの顔が驚愕に染まり、委員長は憮然。月風は、何故か頬を紅潮させている。何でさ。
「はいはい。物騒だから、そこまでにしようね。あのさ、君達って仮にも、名家の娘さん達なんだから、少しは落ち着こうよ」
「ほぉ」
「へぇ」
「ひ、姫野様。私はそんなに乱暴な女では……せ、精神汚染と言っても、そんなレベルではなく、少しだけ引っ張る程度で……」
「うん、大丈夫。守ってくれたのは嬉しかったし。ありがと」
「…………っ。こ、これは腰にきますね……」
「気を付けた方がいいぞ。姫野は基本的に釣った魚に餌をやる人間ではない。素で鬼畜だからな」
「そうね。人間としては駄目駄目だし。何しろ、未だに自分を男とか、よく分からない事を叫んでるし。ちょっと、残念な奴よ」
「あは、あはは……二人とも、あんまり言い過ぎると、嫌われちゃうよ? 本当の事だけど」
「……君達」
酷い。あんまりだ。もういい、ぐれてやる!
それで、田舎の学校に転入して、夢のような学校生活を送るんだ!
よっと。フェンスから降り、睨みつける。
「ボクの何処が、鬼畜なのさ! それとボクは男だ! 残念じゃないっ!」
「鬼畜だろう」
「姫じゃない」
「えっと……あ、可愛いお洋服着ますか? 矢野先輩セレクトの」
「怒った顔も可愛いらしい……」
うぐっ。数的劣勢が激し過ぎる。この戦場はボクにとって不利だ。
……有利な局面って記憶にないけれども。
取りあえず、双神さん。拓海セレクトって何かな? もう用意したの? 早過ぎない
そんな目しても、着ないよ? 着ないからね?
――後日、双神家でのファッションショー開催が賛成多数で可決されました。数の暴力には勝てなかったよ……。
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