情報収集

 早速クロに連れられてフランへと向かった。

 俺が着く前に、すでに調査の依頼を出していたらしい。


 奴隷市の開催日

 ここ最近の死亡者リスト

 最近クマリンに立ち寄った奴隷商人の一覧


 クロが頼んだのはこの三つ。


「奴隷市?」

「はい、年に2回盛大な奴隷市がひらかれています」

「奴隷市ってそんな大々的にやってんのか!」

 実際奴隷は存在するのだが、人買いも売りもイメージが良くないので人目に付かないところでコソコソ取引しているんじゃなかったか。

「そうなんです。ちょっと前まで裏で取引されていましたけどね。今では奴隷の売買に高い税をかけることで帝国の利益にしています。高い会費や会場費を設定したりとても潤っているようですよ」


「その奴隷市が近づくと各地で行方不明者が続出します」


 そうだ!俺乞食してた時、たまに「夢の馬車」が来ていた。

 乗れば夢の世界に行けると、楽しい音楽と飴で子供を釣っていた。

 俺は胡散臭くて近づかなかったが乗った者は二度と戻って来なかった。

 楽しくて帰りたくなくなるのだとか言っていたがあれは奴隷として売り飛ばされたんだな。


「……そう言うことか。最悪だな」


「年中起こっていた誘拐が奴隷市の時期だけ気をつければよくなったという利点はあるようですが」


 なるほど表だろうが裏だろうが結局奴隷売買がある限りかわらないか。


「流石のキクでも飴に釣られて夢の馬車には乗らないと思うけどな」

「……アトルに会えると言われたら、乗るでしょうね」


 言われて血の気が引いた。


「いつ、どこでその奴隷市はあるんだ!?」


「開催日は明日、場所はフェナントレン」


「フェナントレン?」


 懐かしい響きに動きがとまる。俺が昔住んでた所だ

「あそこはシン王子が亡くなって以来、今ではりっぱな奴隷商業都市になってます」

 あのフェナントレンが……


 いや今はそんなことに衝撃をうけている時ではない。


 今、明日っていったか?

 今から、馬飛ばしても間に合わないじゃないか!


 次に渡されたのが死亡者リスト。

「良かったですね。記録上では銀髪の女の子はいないようですよ」


 冒険者から寄せられる死亡情報と教会で葬った死者を合わせた一覧のようだ。

 身元不明でも、頭髪や眼球、肌等の色、性別とおおよその歳、死因といった情報がのっている

 確かにキクらしき人物はのっていなかった。

 もちろん見落としは十分考えられるがとりあえずホッとしておこう。


 何のためにこんな記録をつけているのかわからないがすごい豆だな。

 感心のしきりだ。


 最後に立ち寄った奴隷商人一覧。

 これを調べるのに非常に時間がかかっているようでまだ出来上がっていなかった。

 クマリンでは一般の人の出入りは比較的自由なのだが、街で商売する者の通行は記録される。

 その記録の中から「奴隷商人」を特定するのに時間がかかっているようだ。

 白か黒かはっきりしていればいいが、表は白裏は黒という奴等ばかりなのだ。



 それにしても、すごいな。

 昨日までは生きているのか死んでいるのかも分からない、どこに行ったのかどこを探したらいいのかもわからない状態だったのに。今確かに前に進んでる。


 懸念していた俺を探しに外に出たという可能性は低くなった。

「奴隷市」今の所これが一番可能性が高い。そうなってくると奴隷商人一覧は非常に重要だ。


 途中作業を手伝うためクロも中に入っていった。


 俺も商人の一覧を見せてもらったがサッパリわからない。

 どれだけ自分が無知なのかよくわかる。


 何にも出来ない俺はじっとしていられず外にでた。


 奴隷商人を特定したとする。だが、フェナントレンまでどうやって行く?

 まさか奴隷市が明日なんて!


 どうやっても間に合わない。売られてしまったらもう追うのは不可能だろう。


 キクが俺に会えると思って嬉々として夢の馬車に乗ったのだとしたら……

 容易に想像が出来てしまうのが辛い。




「よう久しぶりだな」

 座り込んで肩を落としていると、誰かに声をかけられた。

 顔を上げると青髪がニヤニヤしながら立っていた。

「なんだあ、お前一人なのか」

 そういってわざとらしくあたりを見渡すコイツの名前はスル=ピリド


 浮浪児は集団をつくることが多い。食べ物を盗むにしても店の人の気を引く係、盗む係、逃走を助ける係と力を合わせた方が一人で盗むより断然成功率がいい。

 そうやって大体の子供達は助け合って生きている。


 俺は、そんな集団の中には入らず一人だった。一度入った事はあったがすぐ抜けた。

 生きるために盗むし、騙すし、なんなら殺しもする。この世の中を生き抜くためには仕方ないとわかってはいる。

 だけど、仲間同士で犯罪を犯すことを強要したり強要されたりするのが、どうも受け入れられなかった。

 悪事に手を染めるにしても誰にも強要されず自分で納得して行いたかったのだ。

 カッコ良さげに言ってはみたが、端的にいえば肌に合わなかったのだ。


 そして、このスルも一人であった。

 理由は簡単。浮浪児では珍しく仕事を持っていたからだ。


 集団からあぶれた者同士喋る機会も他よりは多かった

 だが仲が良かったかと言われると否だ。


「ああん?」

 絡む気満々のスルの態度にイラつく。

「なんだお前まーた捨てられたのか」

「違う!」


 キクは俺を捨てたりしない。

 そう自信をもって言える相手がいる幸福をおれは忘れていた。


「大体『また』ってなんだ!前だって捨てられたわけじゃない!」


「ああ、死んだんだったか」


 その言葉に体がビクリと反応してしまう。母親の死ぬ瞬間がフラッシュバックした。

 最悪なことにその姿が途中でキクの姿に変わる。


「お前の傍にいると皆不幸になるんじゃないのか」


 拳がスルの頬にめり込んだ

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