あやまち
クロに置いていかれた俺は、その場に座り込んだ
いろんな思いがせめぎ合っていた。
いや、違うか。
いろんな思いを封じ込めるための自分の正当化に必死になっていた。
俺は飢えている村をみた。
ボロキレ一枚を身に着け骨と皮になった子供たちを見た。
乞食だったころの俺の方がよっぽどいい生活をしていた。
貧富の差がはげしいだけでクマリンでは食べ物は周りにあった。
しかしその村では周りにも食べ物がないのだ。
村全体が少ない食べ物でなんとか食いつないでいる。
自分の眼で見たくせにそっと流した。
俺は認めたくなかったのだ。
皆の死が無意味なものだったこと。
何か信念があったわけでもなく、お金や名誉が欲しかったわけでもなく
ただ、退くにに退けなくなって参加しただけだった
自分達が過ちを犯してしまったのだということ。
これを認めることが血を吐くほどに辛いことだった。
俺はあのパーティが好きだったのだ。
皆と一緒に行く狩はとても楽しかった。
叶うことならずっと一緒に狩に行けたらいいと思っていた。
だが、いい加減に飲み込まないといけない
このまま、自分は悪くなかったと言い続けて
俺はまた過ちを犯すのか
折角クロが来てくれたのに。
まだキクが生きているかもしれないのに
その機会をも捨てるのか。
本当はずっと気が付いていたんだろ
だからクロには最初、仲間のことを伏せていたんだろ
だからキクから逃げ回っていたんだろ
そしてさらに過ちを重ねたのだ。
俺がキクの元へさっさと帰っていたらキクがいなくなることも無かったかもしれないのに
俺は俺達を嵌めた奴等を恨むことでうやむやにしていただけだ
浅はかな自分たちの行いから目を逸らして
クロの叱責から目を逸らして
そうやって誰かのせいにして逃げまわって
俺はこれからどうするつもりだ
アム兄、ジル兄、ベラ、ニフェ
皆の顔を一人一人思い出す。
俺達が馬鹿だった。
涙がスーっと静かに頬を流れていった。
なんであんな争いに参加してしまったんだろう
特殊モンスター狩りに夢中になり、ソタロールの奴等と張り合って
確かに周りが見えなくなっていた。
「どんどん引けなくなってドツボにはまるのがオチじゃ」
どうしてキクの声を聞かなかったんだろう。
あの時止めておけばよかったのだ。
キクの言う通り最後の一回など必要なかった。
あんなに憎かったソタが目の前であっさりと死んだ。
それを見ても嬉しくも悲しくもなかった。
ただただあっけなかった。
俺達は井の中の蛙だったのだと思い知らされた。
狭い世界で些細な事でいがみあっていたのだ
大海に出たとたん一瞬で波に呑まれて消えて行った。
外の世界では飢えて苦しんでいる人がいた。生きるために命がけで戦っている人たちがいた。
そんな中に横やりを入れて死んで、一体誰が同情してくれるってんだ
俺達は馬鹿だ。
大馬鹿者だ
◆
クロはクマリンのキクの家にいた。
てっきりフランにいるものだと思っていたが、行ってみればこっちに来ていると伝言をもらった。
かなりの時間待たせてしまったのだが、クロは俺と顔を合わせるなり「いい顔になりましたね」と言ってきた。
何と返したらいいか分からないでいると
「ここ、おばあちゃんが注文してこうなったとか」
一段高くなった床に腰掛けながらクロが笑う。
キクがなんでこんな高い段差をつけたのか謎だ。すごく不便そうに見える。
一方のクロはとても嬉しそうだ。
「畳を敷きたくなりますねえ」
「タタミ?」
俺が首をかしげると「すみません。アトル君は知らないですよね」とすぐに発言を引っ込めた。
「俺の事、呼び捨てでいい。敬語もいらない」
クロは返事をしなかった。
でも、それが俺の決意表明だということは伝わったようだった。
「ごめ……」
「別に僕に謝ることでもないでしょう」
続けて「アトル」とクロに呼び捨てにされる。
そこに俺への期待を込めてくれたことが伝わってくる
それがやたらと嬉しかった。
「キクの奴、俺を探しに行こうとしたのかな」
「さて、どうでしょうね。絶対一人で出歩かないようにと念をおしましたが」
聞くような人じゃないですからねと苦笑していた。
「もし、そうだったとしたら……」
俺はどうしたらいい?
「そうでないことを祈りましょう」
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