アイデイ
「クロと連絡取りたいんだけど」
フランに駆け込むなり開いてる窓口に向かう。
「手紙の配達の依頼ですか?それでしたら、この用紙に記入を……」
「違う!フラン環で連絡を取ってくれと言っているんだ」
「はい?何を言っているんです?」といった顔をされた。
「確かにフラン同士で情報の共有はしていますが、個人間のやり取りは取り扱っておりません」
そりゃそうだ。
もっとスムーズに話が進むと思っていた俺は焦った。何をどう説明したらいいだろうか
「だけど、このアイデイに連絡すればどこにいても伝わるってクロに言われたんだ!」
紙に書いたアイデイを見せた瞬間、受付嬢の態度が変わった。そこで待つように言われ奥に入っていく。
しばらく待っていると中へと通された。いつもクロが入っていくドアだ。
「どこで、それをお知りになられました?」
中に入ると、メガネの神経質そうな男が立っていた。
「どこって、本人から直接教えてもらったんだけど」
「クロピド様から……?」
「様」づけね。
「クロと連絡が取りたい。とる方法があるんだろう?」
「クロピド様に伝言を残すという形になりますがそれでよろしいですか」
「ああそれで十分だ」
「もし、差し支えなければ内容をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
手紙を書くものだと思っていた俺は首をかしげる。
「システム上なるべく短文が望ましいので」と説明を受けた。
短文ってことは伝書鳩系か。
特に隠す様な内容ではないから教えるのは構わないが。
「緊急事態なんだ、クロに助けて欲しくて……」
語尾がどんどん小さくなる。
勢いにのってここまで来てしまったが自分は随分大それたことをしてないか?
相手は、Ⅰ群だ。
俺ごときが頼み事できる存在ではない。
しかも緊急事態も何も、もう手遅れである可能性の方が高いのだ。
ただ俺が何かに縋りたかっただけで。
黙り込んでしまった俺を見て、男はメガネを上げた。
「わかりました。『SOS』と送りますね」
「エスオーエス?」
「『我、救援求む』という意味です」
俺が遠慮がちに頷くと「承知しました」と言って奥の部屋に入っていきすぐ戻ってきた。
「どれくらいで届く?」
「もう届いております」
「は?」
てっきり伝書鳩みたいな方法で飛ばすのだろうと思っていた自分はメガネの言葉に驚く。
「後はクロピド様がご覧になられるのを待たれてください」
用は済んだとばかりに去ろうとするメガネを慌てて引き止める。
「ちょっと待て!届いてるってどういうことだ?一体どこに」
「全フランにです」
「全フランって世界中にあるよな」
「はい」
「今の間にか?」
「はい」
普通は遠方のやり取りには、手紙が使われる
そして人や時には鳥などを使って届けるのだ
それを、今の一瞬で世界に散らばる全フランに届けただと?
「他言無用でお願いします。これが外に漏れてしまうと、使用者が殺到しシステムのパンクがおきてしまいます故」
ゾワリとした。
なんだ?このフラン環というのは。
ただの仕事斡旋所かと思っていたが違う
フラン環とはそれ自体が巨大な情報機関だ。確かにこれが知られたら使用者が殺到するだろう。
遠く離れた場所からリアルタイムでやり取りができる
一気に寒気が走った。本体はどこだ?
これは間違いなくクロも噛んでいる。
それでか。さっきから嫌な気配が周りを取り囲んでいる。
下手打ったら、消される。
「わかった。クロと連絡とれさえすれば俺はいいんだ。後は忘れる。心配なら見張りをつけてもいい」
「理解が早くて助かります」
そう言ってメガネは物騒な顔で笑った。
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