ニフェ=ジピン

 私の名前はニフェ=ジピン


 よくのんびり屋とか天然とか言われるけど、自分は決してそんなのじゃない

 私の家は大家族なのだ。


 何世帯もの家族が一緒に住んでいる。

 いつも一緒に遊んでる子が自分の兄弟なのか甥姪なのか、はたまた叔父叔母なのかよくわからない状態の家だった。

 家の全員、狩りにいったり、畑にいったり、家畜の世話をしたり、伐採に行ったりと小さな頃からそれぞれ仕事があたえられている。

 そんな環境だと自分の主張なんて誰も聞いてくれはしないのだ。

 どんなにいろいろ考えたって自分の意見は通らない。

 考えるだけストレスがたまる一方なのだから考えない方がいいという結論に小さいうちから達していたのだ。

 アム兄は家を出て行ってやると息巻いていたが、私はあまり深く考えていなかった。


 この田舎で老いて死んでいくんだろうなと思っていた。

 そのことに特に不満もなかったし、それ以外の事を考えたこともなかった。


 そろそろ私に結婚相手をあてがおうという話が出てきた頃、ジル兄がフランに誘ってきた。


 ジル兄は近くの教会に住むアム兄の友達だ。小さい頃からよく可愛がってもらっている。

 いつでも頼りなさげでいて、でもその緊張感のない感じがとても心地よかった。


 外の世界にでるのは不安ではあったがアム兄とジル兄が一緒なら心強い。


 それに楽しそうでもあった。


 私が家を出ることになってもまだ結婚話は全然すすんでもいなかったのもあり、強く反対されることもなかった。





 ◆





 あまりの寒さに体が震え、目が覚めた。

 目の前には黄色い後ろ頭があった。どうやら自分はおんぶされているようだ。

「アトルちゃん」

 言おうとした瞬間息が詰まった。


 背中が熱い。私一体どうなったの


 いま、私を負ぶってくれてる子はアトルちゃん。

 CCブロッカーではずっと私が一番年下でお子様扱いされていたが、アトルちゃんが入ったことにより私からアトルちゃんへと移った。


 小さいのに強がって素直になれない不器用な感じがたまらなく可愛かった。

 不機嫌そうな顔をしててもちっとも怖くない。まだまだ幼さの残るその頬を突っつきたくなる。


 私がたくさんお世話をしてあげなくちゃ

 年下の仲間が嬉しくて張り切ってお姉さん風を吹かせていた。


 それなのに、今のこの状態だ。

 自分より大きな私を背負って苦しそうなアトルちゃんの息遣いが聞こえてくる。

 降りてあげたいけど力が入らない。息が上手く吸えない


「ごめ…ね。アト…ちゃ…」

 私の方がお姉ちゃんなのに。

 喋るたびにせき込みそうになり、そのたびに胸に力がはいり痛みが走る。


「いいから、喋んな」


 アトルちゃんにそう言われ喋るのをやめ頭をそっと背中にゆだねる。

 視界の端に矢羽が見えた。自分の背中からのびている。


 ああ、そうか私矢を受けたんだ。


 気を失う前、此方を狙う弓兵の集団をみた。逃げようとした瞬間背中に衝撃が走った。


 背中が熱い。なのに体は凍えるほど寒い。


 あの弓兵は間違いなく味方の兵だった。私たちは嵌められたのだ。

 最初から殺されることになってたんだ。



 私、こんな風に死ぬんだ。



 アム兄もベラも死んでしまった。


 死んでしまったのだ。



 さっきは全く現実感がなかったのに自分の死が近づいた途端私もああなるんだと妙な現実感が湧いて来た


 怖くて悲しくてウッと嗚咽を漏らす


「大丈夫だ。すぐジル兄の所に連れて行ってやるからな」

 だから頑張れとアトルちゃんが励ましてきた。


 うん。そうだね。ジル兄なら何とかしてくれるよね


 私が怪我をするとすぐ駆け付けてくれるジル兄。

 どんなに痛くても、ジル兄が来るまで我慢すれば良い。

 その手が触れるだけで嘘のように痛みが引く。


 だから大丈夫。


 大丈夫。



 正面からだとあの弓兵がいるからアトルちゃんは遠くから回り込んでジル兄の所に行こうとしているんだろう。


 私はそれまで耐えれるかな。



 ジル兄早く来て。私を助けて。



 雨がどんどんと体温を奪っていく。熱かった背中ももう何も感じない。

 全身が氷になっていく




 いや。


 イヤ



 こんな死に方は嫌だ。



 私まだやりたいことが沢山あるの。



 結婚もしてない。



 子供も産んでない。



 恋だってまだしていないの。





 死にたくない。



 死にたくないよう。





「助けて……ジルにぃ……」


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