無念

 冷たい雨が降りしきる中、重たい足を引きずりながら歩く。



 俺は一人になっていた。




 味方陣営には近付けない。近付けばまた狙われるかもしれない。

 そちらを避けるべく迂回をしたのだがなにせ全く地理がわからない。二日間歩き通してやっと村を見つけ俺は倒れ込んだ。


 気が付くと民家の中にいた。五人家族の家だった。


 道端で倒れているのを見つけ、厄介ごとはごめんと放っておこうとしたが子供だったので憐れに思ったらしい。

 俺に少ないながらパンとスープを与えてくれた。


 貧しい家だった。家の中はほとんど何もなく、小さい子供が毛布一枚を身を寄せ合いながら使っていた。

 税の取り立てでみんな持っていかれてしまったらしい。


 クロが他は酷いと言っていたが、ここまでとは。


 今の戦いの行方について聞いてみたがよく知らないらしい

 わかったのはこの大雨であちこちで土砂が起きて生き埋めになったとか洪水がおきて流されたとか漠然とした情報だけだった。


 ただ、話をきく限りこの村は反乱軍を歓迎しているように見えた。


 帝国側であった自分はなんだか申し訳なくて早々に村をでた。





 ◆




 近くにある大きな町をとりあえず目指す。


 途中たまたま通りかかった行商人の馬車に乗せてもらえた。


 どうやら戦いは帝国の勝利で終わったらしい。

 行商人二人の話が盛り上がる中、俺は黙って聞いていた


「それにしてもよくあの人数で勝利したな」

「今回の戦いには、Ⅰ群のメキシ=レチンが参加してたらしい」

「へええⅠ群か。すげえんだろうな」

「なんでも、死者を操れるとか」

「ははっそりゃいい。無敵じゃないか」


 聞き捨てならない内容に俺は堪らず男に掴みかかってしまっていた。

 思わずやってしまった行動で拳が上がる前に頭が冷静になる。


「なんだ?小僧」


 俺の体は速やかに馬車の外へと投げ飛ばされた。



 地面を転がった俺は悔しさに震えた。




 最初から俺達は死ぬことになっていた。




「……殺してやる」



 アム兄とベラの仇だ。


 ニフェの仇だ


 俺達の命をなんだと思ってやがる



 殺してやる。絶対殺してやる。



 そうじゃないと、死んでも死にきれない。

 あんな死に方あんまりだ。


 皆の無念を晴らしてやるのだ。



 これが、成功しても失敗しても俺は死ぬだろう。



 だが、このまま何もせずに帰れるはずがない


 みんな死んで俺だけ逃げかえってどうする

 生き恥をさらしてどうする


 命など惜しくない。




 死んでもいい。


 どうにかメキシ=レチンってやつにこの無念をぶつけてやろう


 そのためなら、俺はなんだってする


 自分の命で済むなら安いものだ。


 必ず一矢報いてやる



 ドロドロとどす黒い思いが体中を駆け巡る。

 血がにじむほど唇を噛みしめ道の先を睨みつけた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る