行進
気が付いたらぬかるみの中に顔を半分突っ込んでいた
口に入った泥水をはきだしのろりとした動きで体を起こす。
体が怠い。
一体何が起きたんだ?
雨の降りしきる中、真っ暗な森を雷が照らす。見渡す限り人がたおれている光景が一瞬みえた。
「ア、アム兄?」
雨水が流れる中うつ伏せに倒れているアム兄を揺するが反応がない
仰向けにしてみると鼻血を垂らし目を見開いており、その瞳は動くことなく闇を湛えていた。
あまりの衝撃に後ろに尻もちをついた。
嘘だろ?たった今まで話していたんだぞ。
「ベラ?」
お尻を引きずりながら後退しているとベラの体にぶつかった。
必死で揺すってみるが、無反応だ。顔を横を向けたままアム兄と同じように眼球が動かない。
まだ敵に接触してもいないのに
なんだこれなんだこれ
夢か?俺は夢を見ているのか?
ドゴオンとそれを否定するように地面を揺らすほどの雷の音が鳴り響く。
「ニフェ!!」
ベラの向こう側に倒れているニフェに駆け寄る。
触った瞬間二人との違いがわかった。体温がある。揺すると反応があった
「ア…トル…ちゃ……?」
怠そうに体を起こし、あたりを見渡す。
「なに?これ」
辺りの異様な光景に絶句していた。
「アム兄?ベラ?」
傍に倒れている二人に駆け寄り状態をみる。
「うそ……」
ニフェはそのまま座り込み呆然としていた。
あまりに突然のことで、受け入れられないのだ。俺も同じだ。
「すぐにジル兄の所に連れて行こう!」
ジル兄ならきっとなんとかしてくれる
アム兄を運ぼうと肩に腕をまわす
「駄目よ……駄目。死んだ人は生き返らない!!」
首をふりながらニフェが叫んだ
「だけどっこのまま何もしないと死んでしまう」
自分で何を言っているのかわからなかった。
ただ、このままにしておけない。どうにかしなければという思いだけが心を占めていた。
また視界が真っ白になるほどの閃光と衝撃音が体を突き抜けた。
ニフェが悲鳴を上げて縮こまった。
もしかして雷が落ちたのか?
空を見上げる。黒い雲に覆われた空に無数の稲妻が走っていた。
黒い空を割るように稲妻が地へと落ち、再び轟音が響き渡った。
先程から異常な数の雷が立て続けに落ちている。いくら天気が悪いからと言って自然でここまで落ちるものだろうか。
これも魔法か?魔法なのか?
ドゴオンと再び落雷がおき、体が本能的に竦み上がる。
また近くに落ちたら今度こそ死ぬ。
その魔法の圧倒的なスケールに俺は震えた。一体これをどうしろって言うんだ。
落雷の恐怖におびえていると、突然、アム兄の体が動いた。
「アム兄!!」
よかった!生きてたのか!
俺は歓喜した。
すぐ、ジル兄の所へ行こう!
「……アム兄?」
ゆらりと立ち上がったアム兄は俺の方を見ることなく森の先へと歩を進め始めた。
へ?なんで?
一体どうしたんだと引き留めようとしたところ周囲に異変が起きた。
周りの倒れた奴等がアム兄と同様に起き上がり始めたのだ。
ベラの体もムクリと起き上がった。
そして敵陣へと前進する。
死者の行進がはじまった
俺とニフェでどうにかアム兄達を止めようとするが、押しても引いても駄目だった。
アム兄達は、俺達を押しのけ敵陣の方へと消えて行く。
俺達はそれを呆然と見送った。
なんだこれ。どうなっているんだ!?
死んだのにどうして動いているんだ。どうして敵陣に向かっているんだ!
「行くな!行くなよお」
あちらこちらから悲痛な叫びが聞こえる。俺たち以外にも助かった者はいるようだ。
何とか仲間を引き留めようとしていた。
その生き残りの中にはソタの姿もあった。
「うわああああああ」
起き上がり状況を把握したソタは大声をあげて一人真っ先に逃げて行った。
それを見た他の奴等も恐慌状態に陥りソタに続き走り出した。
それを冷静に見れるほどの余裕は俺達にもなく、パニックになりながら元来た道を走った。
雷が鳴り響く中ひた走った。
体中雨に濡れ泥水をあびながら無我夢中で走った。
落雷の頻度が徐々に増えていっている。もう数十秒も立たない内に次が落ちる。落雷場所はアム兄達が去っていった方角に集中していた。
これは間違いなく魔法だ。きっとあの死者行進を止めようとしているのだろ。
死者に効果があるのかはわからないが。
森の出口がみえた。ここを出ればすぐに味方陣営がある。そこまでいけばなんとかなる。
先に逃げていったはずのソタの後ろ姿が見えた。
どうしたんだ立ち止まって?
怪訝に思いながら近づくとソタの体が後方にばったりと倒れた。
「!?」
その姿をみて驚く。顔に体に無数の矢が刺さっていた。
信じられない光景に足がとまる。
心臓をバクバクさせながら前を見る。視界が開けた先に弓兵がならんでいた。
明らかにこちらを狙ったそれ。
「なっ!?」
矢の雨が降りそそいだ
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