浸透圧

 このじいさんはブプレノルフィン出現場所の近くに住む村長さんのようだ。

 畑に現れては荒らしていく巨大ヒルに、ほとほと困り果てているらしい。


 フランに討伐の依頼を出したが一向にブプレノルフィンはいなくならない。

 しびれを切らした村長が、様子を見に来たというわけだ。


「そうしたいのは山々なんだけどな爺さん。ソタロールの奴らがいる限り俺達は手をだせないんだ」


 そこをなんとかと泣きながら食い下がってきた


「なんとかって言われてもな」

「大体なんで私たちに言うのよ。ソタロールに言えばいいでしょう?」



「こんな爺さんが泣いて頼んでるのに、CCブロッカーの奴等は冷たいな。血も涙もないのかい」

 そう言いながらまたもやソタが現れた。

 まあ、ここはフラン斡旋の食事処で大体の冒険者はここで飯を食っているから仕方ないが。

 なるほど、村人をけしかけて俺達を動かすつもりだったのか。


「優秀なソタロールさんがいれば、俺達の出番なんてないでしょう」


 ジル兄が毒を交えながら柔らかく応対。ニフェがプンと頬を膨らませる

「横取りしたって濡れ衣きせられたくないもんね」


「それとも、本当はろくに狩ができないとか?」

「きっとそうよ!コイツ等大勢で囲んで手柄を横取りするしか能がないのよ!」

 ベラがここぞとばかりに馬鹿にする。


「おい、口を慎めガキ共が」


「私たちが狩に行くのをやめた途端、成績が落ちたのはなんでかしらねえ?」

 すごんできたソタに、腕を組みながらベラが嘲笑をお返しする。

「ちょっと調子が悪かっただけだ。被害妄想はやめてくれ」


「調子が悪いのなら少し休まれてはいかがですか」


 無理ならさっさと手を引けばいいのに。お前らのせいで皆迷惑してるんだ。


「いや、もうよくなったから心配いらねえ」


 だよな。他の奴等に倒されたらかっこ悪いからそこは譲れねえよな。


「ですってよ!聞きました?村長さん!よかったですねぇ。ソタロールが明日にでもブプレノルフィンを退治してくれるそうですよ。これで問題解決ですね!」


 ベラが必要以上の大声をあげて村長さんの肩をたたいていた。

 周囲の奴等に聞かせるためだろう。

 村長さんはおお!と感謝の涙を流しながら「頼みます。これで村は救われます」とソタの手にしがみついていた。


 これで明日倒せなかったら、ソタの面目丸つぶれである。

 ソタは忌々しそうな顔をして去っていき、その背中に皆でアッカンベーをしてやった。


 次の日。やっぱりソタロールはブプレノルフィンを倒せなかった。

 あんな大勢の注目をあびている中、出来ると言っていたのに。

 笑いが止まらねえ


 いい気味だ。




 こんな機会はまずないため、今回で最後の一狩を決めてしまおうとソタロールが手を引くのを根気よく待っているのだが、あちらも意地になっていると思われる。全然引く気配がない。

 いい加減、諦めてくれないだろうか。



 そんなある日、俺達の持ち物が何者かに盗まれた。


 荷物の中身は主にブプレノルフィンを倒すために準備してきた物だった。

「くそっ」

「ソタロールのやつらか」

 慌ててソタロールを追う。


 ブプレノルフィンの弱点は塩だ。

 大量の塩をかければ浸透圧の差で体液が外にでていくらしい。そして縮み切ったところを止めをさす。分厚い体液の層のせいで攻撃が効かないだけでそれが無くなれば脆いとモンスター図鑑には書かれていた。


 ソタロールに追いついてみれば、やはり俺達の荷物を持っていた。

「お前ら!!それは俺達の荷物だろうが!」

 こちらに気が付いたソタロールは焦っていた。


「自分達じゃ手に負えないからって盗みを働くなんて!見下げた奴等ね!」


「ちょっと落ちてたのを拾っただけだろ」

「宿に部屋に置いてあるものを持って行くのを拾ったとはいわない」

「さっさと返してもらおう」


 そこへ運悪く巨大ヒルが現れた。毎日やってくるソタロールの味をしめたんじゃないのか。

 やつらはすぐに俺達の荷物の中身を取り出した。

「あっおい!勝手に使うな!」

 大量の塩が入った袋をブプレノルフィンにぶちまけた瞬間、破裂した。中の液体がビュービューと吹き出しながら縮んでいく。


 図鑑に書いてあった通りだ。

 このままじゃ、また手柄を持っていかれてしまう。

 

 他の奴等がデロデロになっていくヒルをみて度肝を抜かれている隙に俺とアム兄が動いた。それを目ざとくみていたソタも動いた。


 三人が競い合いながら攻撃を繰り出したが、それより先に槍がブプレノルフィンを貫いていた。

 まったく見覚えのない槍だ。




 槍が飛んできた先を見ると、騎兵が立っていた。

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