特別依頼

「おいっ誰だお前!今止めを刺すところだったのに!」


 アム兄が騎兵に苦情を言う。よく見ればコイツ女だ。兜からクルクルの長い髪があふれている


「アテノさんっ先に行かないで下さいよお」


 女の後ろからゾロゾロと騎兵が大勢現れた。全員同じ鎧であるところを見ると正規兵だ。


「アテノ部隊ロールだ」

 ソタロールの奴等がざわめいた。


 アテノ……ってことはあの女が隊長か


「てめえっ!折角この俺が止めを刺そうとしてたのに、横取りすんなや」


 いや、お前じゃなくて俺らが止めさすところだったんだけどな。


「ああ、そうだったか。貴様らがぐずぐずやってるからだ」

 アテノは髪をかき上げながら悪びれることもなく言った。


「ふざけんな!瀕死だっただろうが!美味しいところだけかっさらって行きやがって卑怯者が」


 女は「卑怯者」という言葉に反応しソタをにらみつけてきた。


「私だってなあ、来たくなかったんだ」

「兵を動かすのにだって金かかるんだ。宿の手配から移動費、宿泊費、途中で怪我でもしてみろ治療費まで発生するのだぞ?こんな雑魚モンスターごときに」


「お前たちの方でさっさと片付けろボケ。そしたら報奨金程度で済んだのに」


「大体こんな雑魚に何日かけてるんだか」

 あきれ果てたように肩をすくめそして嘲笑を浮かべる

「村人から報告が来ているぞ随分無様な戦いぶりだったようだな」

「なんだとお!?」


 全く他人事である俺達は、真っ赤になったソタを見ながらほくそ笑む。



「アイツらが邪魔をするからな」


 突然弾をこちらに向けられて驚く。


「はあ?いつ邪魔をしたってのよ!」

「俺達の荷物漁ったくせによくいうよ」

「てめえらがもったいぶって弱点を教えないからこうなったんだ」

「なんであんたに教えないといけないのよ!」

「村の奴等も頼みに来たってのに、無視しやがって」

「あんた達が囲い込んでたせいでしょ!さっさと退けばよかったのよ!」

「黙れ!てめえらは俺のために動けばいいんだ」


 俺達の言い争いをみてアテノは鼻で笑った。人を心底馬鹿にする笑い方だった

「ちょっと何がおかしいのよ」


「貴様らじゃあ、絶対Ⅱ群にはあがれないだろうと思ってな」


「低能なサルめ」



 カッチーン

 俺の頭か、ベラの頭か、それとも全員の頭か、音が鳴り響いた。


「口が過ぎますよ」

 そういってアテノを窘めながら前に出てきた男は、眼球が見えないほど目が細くて狐顔をしていた。


「折角の手柄を申し訳ない。Ⅱ群狙いでしたらブプレノルフィンは大切な経歴ですからね」


「代わりといってはなんですが、一ついい情報をお教えします。帝国が緊急に傭兵募集を出したことをご存知ですか」

「いや、知らねえな」

「ここはすこし離れていますからねやはり届いていませんか。じつは今帝国南部で反乱がおこり、鎮圧のための人手が足りていません。」

「緊急事態に正規部隊とは別に傭兵部隊を主戦力として組むことになりました」

「鎮圧に協力するだけで破格の報奨金がでます。そして手柄を立てた者は士官入りが約束されています」


「なんだと!士官入り!?」

「帝国の危機を救ってもらうのです。当然でしょう」

 ソタロールの目の色がかわった。

「そりゃ、是非参加させてもらわなきゃな」

「ありがとうございます。Ⅱ群を多く産出している「はみだし部隊」の参戦は心強い」

 狐顔は恭しく頭を下げた。


「君たちはどうしますか」

「こんな役立たずのガキを誘うな!邪魔だ」

 俺達の方へと話を向けられた瞬間女が切って捨ててきた。


「私には一端の剣士のように見えますが」

「はっそいつの子守は誰がするんだ?私はごめんだ!」


 吐き捨てるように言われ、思考が停止する。

 動きの止まった俺から目を外し、今度はベラ達の方へと視線をむける

「おい、女!貴様らのような女はなあ、街で着飾って男誘ってればいいんだ」


「んなっ!あんたも女でしょう!?」

 あからさまな女を侮辱する発言にベラが怒る。


「こんな小娘と一緒にされるとはな。私も落ちたものだ」

 高らかに笑う声がまた神経を逆なでてくる。


 すげえ。コイツいきなり現れて煽ってくる煽ってくる。



「サルはサルらしく獣追い回してキャッキャやってるのがお似合いだ」


「アテノさん!すみません。誤解されやすいんですが今のは、狩とは違い弱い人はすぐ死んでしまうので、止めておいた方がいいというアテノさんの優しさです」


 狐顔がフォローをいれていたが今の火に油を注いだよな。

 頭の中のやかんが沸騰寸前だ


「そうだぜ。やめてたほうがいいぜお前らみたいな弱い奴らわよ」

「実戦経験ないんだろうが」

「モンスターですらまともに狩れないお前らが役に立つわけないだろ」

「すぐ訳が分からなくなってすぐ死ぬに決まっている」

「布団に入って怯えていろ」

 ソタロールたちのギャハハハハと馬鹿にして笑う声が癇に障る。さっきまで俺達頼りだったくせにこいつ等!


「そうだ。お遊戯ごっこなら他でやれ。足手まといだ」


 アテノの止めの一言でやかんが汽笛をならした。

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