大人の暴力

 キクの反対を押し切って、俺達は特殊モンスターの討伐を再開させた。


 ソタロールの奴等は何故か俺ばかり狙ってくるので、俺はなるべく単独行動は避けるように言われ常に誰かの傍につく


 だが、戦闘中はそうも言っていられない。

 アム兄と俺とで獲物を挟んで攻撃するのがいつものやり方だ。


 二手に分かれ息を合わせて踏み込んだ瞬間、背中に衝撃が走りそのまま意識が飛んだ。



 次に気が付いた時はモンスターはソタロールに囲まれてすでに息絶えていた。

 俺は皆に囲まれジルの治療を受けていた。


 また俺は足を引っ張ってしまったようだ。

 屈辱で震えていると「見ろよ!この剣!」とソタロールの方から感嘆の声が上がった。


「うわっすげえ!魔法石ついてやがる」


 その言葉にびくりとなる。目を向けると思った通り俺の剣がソタロールの手に渡っていた。


「こりゃ良いもの拾ったな」

「ガキには勿体ない」


 ふざけんなこの野郎!

 頭より先に体が動いた。


「あっ馬鹿!一人で飛び出すな!」

 アム兄の制止の声など沸騰した頭には届かなかった。


 それは、親の形見だ!汚い手で触るな!!


 剣を持ってる奴に飛びつき、手にかみつく。鉄の味が広がったがどうでもいい。緩んだ手から剣を奪い返した所を拳で顔を横殴りにされ、地面を転がった。

 ベラ達の悲鳴が上がったが、大丈夫だ剣は取り返した。

 取り返せたことにホッとしていると腹に衝撃がはしり体が上へと吹き飛んだ。吹き飛んだ先に別の奴が立っていて組んだ拳が上から降って来て、俺の体は地面にたたきつけられた。


「おっと、駄目だぜ兄ちゃん。そこの姉ちゃん達をしっかり守ってやらないとな。若い女の子前に皆興奮気味だからな」

 痛みに悶えながら目を向けると俺を助けに向かおうとしたのだろうアム兄がソタの野郎に止められていた。下卑た声を出した男たちがアム兄達を囲み、アム兄とジル兄がベラ達を背に隠す。

 女を狙おうとするとはなんて卑怯な奴等だ。


 いままで、不慮の事故を装っていたがもう体裁を保つつもりはないらしい。


 何とか起き上がろうとしたところを、頭を足で踏まれ地面に額がめり込む。それからは数人で殴る蹴るの暴行だ。

 それは浮浪児だった時にも経験した理不尽な大人の暴力だった。


 

 あの頃と同じように身を小さくし、ただ終わるのを待ち続けることしか出来なかった。


 俺、強くなったと思ったのに、何にも変わってないじゃないか。




 


 途中、低い悲鳴と「動かないで!!」というニフェの声が聞こえた気がした


 ソタロールの動きが唐突に止まり、俺の体は地面に沈んだ。絶えず続いていた衝撃が止まったことに安堵した俺は、そのまま意識をとばした。









 

 ―――えっなんなんですか一体?



 俺の声じゃない声が聞こえた。

 自分の目の前には黒い上着を着た男が三人嫌な笑みを浮かべて立っていた。



「俺達にガン飛ばしてただろ」


 ―――誤解です!ちょっと目が行っただけで、ガン飛ばしてなんか


「ああん?俺達の勘違いって言いたいのかコラ」


 ―――気分に触ったのなら謝ります!すみませんでした!だから


「うっせえ」


 問答無用で殴られ真っ黒な地面に手を突いた。そこにぼたりぼたりと赤が落ちる。

 震える手が自分の顔をさわり、そっと離れると掌は血に染まっていた。

 ギョッとした瞬間第二撃がきた。そのまま訳の分からないリンチがはじまった。


「おっ結構持ってるじゃんコイツ」


 悲鳴をこらえてとにかく堪えていると、嬉しそうな声があがり顔をあげる。

 男の手の平には……


 ―――かえせっ!!!





 ◆






 手を伸ばした先には白い天井が広がっていた。


 一瞬何が起こったのか分からずに、飛び起きる。

 顔に手をやったが特に手が赤く染まったりはしなかった。

 黒い男達の姿はなく、代わりに紅い目の女の子がいた。


「大丈夫か?」

 白い手が伸びてきたので思わず身をよじってさけると、ゴトンと何かが落ちる音がした。

 目を向けると、ベッドの下に剣が落ちていた。


 あれは俺の剣だ。


 そこでやっと頭がクリアになってきた。


 そうだ俺、ソタロールの奴等にボコボコにされたんだ。


 ここは俺の部屋だ。

 ってことは俺はあの後気を失い、アム兄達に運ばれたのか。



 心配そうな顔をしてこちらを見ているキクを見てカッとなった。


 なんてことだ!こんな無様な姿をキクに晒してしまったとは!


 俺の体を心配して額に触ろうとするキクの手を弾く。


 自分で突っ込んでいってリンチにあって手も足も出せなくて、挙句の果てに気を失って運ばれるとか

 かっこ悪過ぎる



 アム兄達からなんて説明されているのかはわからないが、気を失った所を見られただけでも赤面ものだ。いつも引き止めようとするキクに、大丈夫だと自信満々に言っている手前、とても恥ずかしい。



「何見てんだよっ!」


 はやくどこかに行ってくれないだろうか。 

「ほら見たことか」と思われてそうで耐えられなかった。


「あー坊、ばあちゃんはな……」

 

「出ていけ!」


 喋らせる隙を与えずギッと睨みつける。

 しばらく何か言おうとしていたが、頑なに拒否する俺の態度を見てキクは静かに立ち上がり部屋から出て行った。


 それと入れ違いにアム兄達が入ってくる。俺の声が聞こえたのだろう。

 ドアの所ですれ違うキクをみて引き止めようとしていたがキクはそれをやんわりと断っていた。


「何か、あったのか?」キクがどんな表情してたか知らないがアム兄達は怪訝そうな顔で俺とキクを見比べてくる。

 俺はそっぽを向いたまま「別に」と答えておいた。


「キクちゃんすごく心配してたぞ」


 そんなこと、言われなくてもわかっている。

「ふーん」と素っ気無い返事をする俺を見て言っても無駄と判断されたのかこの話題は引っ込められた。


「体の具合はどうだ?」


 べつにどこも痛くない。ジル兄が完璧に治してくれたのだろう。



「すまなかった!!!」


 突然深々とアム兄が頭を下げてきた。

 驚く俺に、直ぐに助けれなかったことを何度も謝ってこられて困惑する。


 謝られることなどないのに。



 俺が不甲斐ないだけなのだ。


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