失恋(ベラ視点)

「俺、歩いて帰るわ」


 クマリンへの帰り道、アムロはそう言って馬車を降りた。

 反対したりとか理由を聞いたりとかせずジルは「わかった」とだけ言ってアムロを下ろした。


 遠ざかっていくアムロの姿は哀愁が漂っていた。



 もう!馬鹿ね!



「止めて」

 私が言うとすぐ馬車は止まった。

 ジルが笑ってこっちを見ている。


 ムカつく!


 とぼけた顔しているくせに。



「アムロの奴よろしくね」


「私はただ一人だと危ないと思っただけで、別に……」

「あいつ、たぶん失恋するの初めてだから」

 私の言い分は聞かずにジルが言う


「なにそれ。いい気味ね」


 アムロの口説き落とす手腕をみたところ、かなりのベテランだ。決して初恋などではない。

 モテモテで羨ましいですこと。


「まあそう言わないで。口説いている時のアイツは本気なんだから」









「なんだよ」


 私の姿に気が付いたアムロが嫌そうな顔をした。

 失礼ね!そんなに嫌がることないでしょう!?


「笑いに来たのかよ」


 違うわよ


「一人じゃ危ないと思っただけよ!」

「余計なお世話だ」


「今、一人になりたい気分なんだ放っておけよ」

「放っておけないわよ!」

「あんた、あのクロピド=グレルに叩きのめされる気でいたでしょう?」


 だからあんな目の前で挑発的な行為をして見せたのだろう。


 アムロは否定しなかった。


「……そうしたら諦めもつくと思ったんだよ」


 不貞腐れたように口を尖らせる


「結局俺は相手にもされなかったけどな」

 Ⅰ群の目には自分なんて恋敵とすら認識されなかったと自虐的に笑う。


 それで済んで良かった。


「相手はⅠ群よ。死んでたかもしれないわ」


「それがどうした」


 アムロの言葉に顔をしかめる。


「俺、キクちゃんにあって初めて家庭が欲しいって思えたんだよ。それを守るためなら命かけても惜しくねえなって」


「それで?叶いそうじゃないからって命投げ出すの?馬鹿みたい」

「なんだと!」

 食って掛かってくるアムロの胸に指を当てる。

「家庭守るために命かけるならわかるけど、まだそのずーっと手前じゃない!」

「仕方ないだろ!ろくな女いないんだから」

「近くにいる女は火力馬鹿だしよ」

「なによ!!」


 慰めてやろうと思っているのにムカつくわね! 


「くやしかったら、キクちゃんみたいなご飯作ってみろよ!」


 にらみ合っていると、アムロがそう言ってせせら笑ってきた。


「絶対無理だろうが」と。


 私の勢いは地まで落ちた。




「無理よ」


「お菊さんみたいに、美味しい料理をつくるとか、家で大人しく帰りを待ってるとか絶対無理」


 勢いを失った私はうつむき唇をかむ。




 でも




 だけど



 

 私にだって何かできるはずなのだ。



「無理…だけど……」



「胸をかしてあげることぐらいは出来るんだからね!」



 うっわーーーー何言ってるんだ自分。

 言った傍から顔があかくなる。




「はっ?」


 アムロの鼻で笑う声が聞こえてきて、言ったことを心底後悔した。


 ああ!もう!

 ムカムカしてきて、何か思い切り致命傷を負うような事を言い返してやろうと振り返リ見たアムロの目からボロリと水滴がこぼれた。


 私は衝動的にアムロの頭に手を伸ばし自分の胸で隠した。

 


「お前なんかキクちゃんの足元にもおよばねえよ」

「でしょうね」

「すぐ手が出るし」

「うん」

「高飛車だし」

「そうね」



 前の自分だと考えられなかっただろう。

 自分をののしる男を抱きしめるなど。

 泣いてる姿をみて「情けない男」と思っただろうし、抱きしめてる女を見てそんなに媚売って点数稼ぎたい?と一笑に付していた。





 いいわ。笑うなら笑えばいい。


 今、私はこの人を癒してあげたいのだ。




 相手を倒すばかりが強さじゃない。




 私は知っている



 包み込むのもまた「強さ」なのだと。


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