ベラ=パミル

 私の名前はベラ=パミル


 炎の魔法が自慢の魔法使いよ


 魔法使いというのは魔法石さえ手に入れば誰でもなれる。

 いや「誰でもなれる」は語弊があるかしら。

 その魔法石を使いこなせるようになる必要があるのだから。


 大体の者が、魔法使いに弟子入りすることからはじまる。


 そうやって弟子を集めて生計を立ててる魔法使いがいるのだ。


 私もそんな魔法使いに弟子入りした。


 魔法使いになろうと思った理由は男に馬鹿にされないためだった



 気が強いですって?何よ。馬鹿にしてんの?


 男は「女なんて男が殴ったらすぐ泣く癖に」という理由で馬鹿にしてくる。

 反発すると「生意気」と言われる。

「女は男に媚売ってたらいいんだよ」と。


 本当腹がたつわ。

「強いから偉い」とかどんな原始人よ。


 馬鹿にされたら怒るわよ。反発するわよ。当たり前じゃない!

 男も怒るでしょ?女も怒るのよ!

 怒らずに媚を売れって何様よ!

 なら男は微笑んで媚を売れるの?売れないでしょう!

 女も同じよ!どうしてそれがわからないのかしら。


 でもこれをどんなに声を大きく訴えてみても「気の強い女」で切って捨てられる。


 悔しい。


 だから、力を持つことにしたのだ。

 これで文句は言わせない。


 そんな目的で始めたものだから身に付いたのは炎の魔法だけ。

 だけど、不満はなかった。

 子供だましのような小さな魔法を沢山使えたところでなんになるの。

 それよりもこの炎の魔法の威力を上げて周囲に一目置かれた方がいい。


 魔道士兵団に入るとか王宮魔導士になるとかそんな目標を皆が持っている中、私という存在はとても目障りだったと思う。


 そんな時ジルと出会った。彼はプロスタ・グランジン教の巡礼中であった


 教会は神聖魔法に特化している。


 神聖魔法は神の力を借りて人々を救うための魔法とされている。


 詳細はジルに聞いて欲しい。


 プロスタ・グランジン教信者「プロスタン」が修行を積み、人々を救うための神聖魔法を学ぶ。

 ジルは熱心なプロスタンというわけではなく幼いころから田舎の教会で育てられていたため、成り行きで修行に参加していた。地味な奴で、人に流されるままここにいますという顔をしていたので、そこが良かった。


 そんな何も考えてなさそうなジルだが、ちゃんと目的を持っていた。


 彼には故郷に帰れば幼馴染がいるのだと、打ち解けてきたころに聞かされた。

 その幼馴染とパーティを組むために腕を磨いているのだと楽しそうに語ってきた。


 私にはパーティを組めるような人なんていない。

 ただ馬鹿にされないために習っているだけで、皆が当然のように持っている「その先」を全く考えていなかった。


 だから同じように何にも考えてなさそうなジルに安心していたのだ。

 自分はジルを見ることで空っぽな自分を肯定していたかったのだ。


 なんだか裏切られたような気分になった。



 そのままジルのプロスタン一行は次の巡礼の地へと旅立っていった。


 その後も「目的」は見つからず空っぽな日々が続いた。



 ある日ふと思い立ってジルの様子を見に行った。

 ジルの話ではすでに巡礼の旅は終わり、幼馴染とフラン活動を始めているはずだ。

 クマリンで彼の姿を発見した。


 ふうん、あの人がジルの言った幼馴染ね


 孤児のジルをのけ者にせずに友達になってくれたというアムロ=ジピン。と女の子一人。

 遠くから彼らの姿を眺める。


 まあ、なんというか、普通。

 ジルの話がとても良かったので、美化しすぎていた。

 悪くないけど普通。


 でも想像以上に彼らは楽しそうだった。


 羨ましいと思った。来るのではなかったと思った。


 黙って帰ろうとしたところ見事に見つかって、そのままアムロに勧誘された。

 魔法から容姿からと、とにかく褒めちぎられ、まるでナンパまがいの勧誘であったが私は嬉しかった。


 炎の魔法しか使えない私を必要としてくれる人がいたのだ。

 早速、魔法の先生の所に報告にいったら全く止められることもなく快く送り出された。

 たぶん先生も扱いに困っていたのだと思う。



 アムロ達とフラン活動をはじめると、私は炎の魔法で周囲の人たちから一目置かれることになった。

 そしてアムロ達はそれを疎んじたりせず自分の事のように喜んでくれる。

 チームの自慢だと言ってくれる。


 なんだかすごく くすぐったかった。






 ◆






 アムロが恋におちた。


 お菊さんの前でデレデレしてかっこ悪いったらない


 これは別に嫉妬してるわけじゃないんだから!


 ジルとか勘違いしてるようでムカつくんだけど

 ただ、なんと言うか「ただの女の子」というのが納得いかないだけなのだ。


 魔法どころか戦う力を全く持っていない、家で待つことしか出来ない女の子




 ただ、作ってくれるご飯はすごく美味しかった。


 服は毎度洗濯されてきれいにたたんで置いてある。

 洗濯だけではない、それだけでこんなにピシッとはならない

 おそらくアイロンがけまでしてある。


 一体この子の目的は何だろう。

 こんなことをして何のメリットがあるの?

 一方的な奉仕に気兼ねしてしまう。


 他の皆は抵抗ないようで、すっかり甘えている。


 自分のローブのほつれを発見したときは、女として譲ってはいけないような気がして修繕は自分でやるからいいと断ったのだが「丁度よかった。糸が余ったところじゃ」とさっと針と糸を取り出して近づいて来た。

「着たままの方が形がわかりやすいからジッとしとれ」

「ほらほら、動くんじゃないよ」

 いつの間にか抵抗する方が失礼な流れになっている。

 あれやこれやと言ってるうちに白い手が器用にローブを縫い上げてしまった。


 この子はなんと言うか一枚も二枚も上手なのだ。

 年下のはずなのに。


 そんなことを繰り返しているうちにいつの間にやら自分も甘えるようになった。



 悔しいけど敵わないと思った。


 私ははじめてぶつかるだけが力じゃないのだと知った。


 ぶつかっていったところで、やんわりと受け止められてしまうだろうと容易に想像がついた


 私の魔法をつかえばイチコロだろう。

 でもそんな恩知らずな事出来るはずがない。しようとも思わない。




 ……こんな力があるんだ



 最弱だけど、この子が一番強い。

 だってこの子に逆らえる奴なんて私たちの中にはいない。

 全員お菊さんには頭が上がらない。


 あのクロピド=グレルも敵わないくらいだ。



 アムロが惚れる気持ちがわかる。


 私もこんなお嫁さんが欲しいのだから。

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