染まる(アトル視点)
馭者をクロが引き受けてくれ、家へと馬車を走らせる。
疲労困憊の皆は走り出したらすぐに眠り込んでいた。
俺は久しぶりのクロの帰還に心が弾んでいた。
話したいことが山ほどある。手綱を握るクロの横に座り、俺がどれくらい成長したのか聞いてもらおうと夢中で話した。
「クロ!聞いてくれよ!俺、ついにⅢ群に上がったんだぜ!!」
「そうですか」
それに対するクロの反応は薄かった。もっと「もうですか?すごいですね!」とか言ってくれると思ったのに。
「おばあちゃん、すごく心配してましたよ」
キクの話を持ち出されて、俺はむくれた。
「キクのやつ心配症で、うるさいんだよ。毎日のように自分も行くって言い張るし。あんな弱いんじゃ連れて行けるわけないし。皆強くなろうとして頑張ってる中、向上心がないキクがいたら足手まといだ」
クロは俺の話に眉をひそめた。
「……すっかり染まりましたね」
あ、マズイ。この話はクロにするべきではなかった。
「いっぱい稼いでさ、キクを喜ばせてやるんだ」
「おばあちゃんは、喜びますかね」
話を切り替えてみたがクロの顔は晴れなかった。全て見透かすような目でこちらを見てくる。
「そうこじつけていませんか」
「言ったでしょう?命をかけるには安すぎると」
確かにクロは言った。フラン活動するやつは酔狂だと。
今クロの目には俺が酔狂な奴に見えているのだろうか。それは心外だ。
「お金が欲しいのなら、おばあちゃんの料理でも習って町で売った方がずっと稼げますよ」
「僕より安全に容易く稼げます」
うるせえ
それじゃダメなんだよ。
最近、白パンが大流行している。
ラナに作り方を教えて売りにだしたら大ヒットしたのだ。
今キクは莫大なリターンを受け取っている
俺は知っている。キクはまだまだ沢山の引き出しを持っていることを。
それに比べ自分はどうだ
同い年くらいなはずなのに、何もない。
誇れるものが何も。
俺も、何か誇れるものが欲しかった。
拳を握る俺を見て、クロは目を細めていた。
「強くなるには切磋琢磨することも大切だと思うので、フランの活動を否定する気はないのですが、せめて、夕刻には帰ってあげてください。取り返しのつかないことになってからでは遅いんですよ」
それは不覚をとった先程の事を言っているのだろうか。
「大丈夫だって!確かにさっきは危なかったけどさ。次から気を付けるし。大体あんな家に一日いて家事して終わるなんてつまんねえ」
クロは口を閉じ静かに俺から視線をはずした。
その諦めたような態度は気に入らなかったが、小言はキクだけで十分だった。
「なあ、クロ。クロはどうして最近家に寄り付かなくなったんだ?」
そんなに俺のフラン活動に不満があるなら、クロがもっと家にいてくれればいいのに。
「仕事が忙しくて」
「……」
これは嘘だなと思った。
クロは例え短期間であっても仕事が終わればキクの元に帰って来ていた。仕方なくではなく居心地がいいから帰って来ていたはずだ。
「……俺らを巻き込まないようにか?」
帰って来なくなったのはラクタムでの襲撃があってからだ。
俺なりにどうして帰って来なくなったのか考えた結果、クロは俺達を自分のゴタゴタに巻き込んでしまった事に責任を感じているのかもしれないと思ったのだ。
俺の言葉に「そんな美しい理由じゃないです」とクロが答える。
「……やりにくいんです」
聞こえるか聞こえないかというくらい小さな声でポツリと呟かれた。
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