迎え(アムロ視点)

 そいつは黒い髪で黒い衣を纏っており夜の闇に溶けていた。

 手に持つ片刃の剣だけが月の光を反射し存在を主張している。



 誰だ?


 あのムカデを一刀両断しやがった。しかも胴節とか全く無視して、背板ごとスッパリ切られている。



「クロ!」


 アトルが明るい声を出した。


「どうしてここに?」


 嬉しそうに男のもとに駆け付ける。



 クロ……?


「おばあちゃんに頼まれて迎えに来ました」


 剣を鞘に納めた黒衣の剣士は、地面に落ちたムカデの首を拾いアトルに手渡した。


「えっいいのか?」

「ええ、僕には必要ないので。それに、すでに一匹倒してるようですしね」


 黒い目が俺が持ってる首を見た。


「ただし、手柄の譲渡はルール違反なので秘密ですよ」


 そういってさわやかに笑う。

 足がスラリと長い。超イケメン。



「……誰?」


 状況について行けず俺達が遠巻きに二人のやり取りを見ていたら、アトルがこちらに気が付いた。


「あ、こいつが俺の剣の師匠」


「今アトルっち『クロ』っていった?……もしかして?」


 ……

 ジルに言われてハッとしもう一度その男の姿を見る。

 黒目黒髪、黒衣、それでもって片刃の剣


 まさか!!


「クロピド=グレル!?」




「……そう呼ぶ人もいますね」



「クロピド=グレルって、Ⅰ群の!?」





 きゃああああああ!!!



 黄色い声をあげながらベラとニフェが飛びついた。


「あ、あ、あのっ!! 助けてくれて、ありがとうございます!」

「私、ニフェっていいます」

「ベラ=パミルです!ベラって呼んでください!」


 女どもの目がキラキラしてる。


 いや、俺の胸も初めて目にする大物に高鳴っているのだが

 きゃあきゃあとはしゃぎまくるベラとニフェの姿を見ると頭が冷静になるものだ。


 Ⅰ群剣士はグイグイ来る女の勢いに明らかにビビっていた。


「初めまして。キクの許婚のクロです。クロと呼んでもらえると嬉しいです」

「いつも彼女とアトル君がお世話になってます」


 穏やかに笑ってはいるが、全力で一線を引いてきた。



 なん……だと?



「……お菊さんの……許婚?」


 女のテンションがだだ下がりしたのが目に見えてわかった。


 ついでに俺のテンションもだだ下がりした。

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