片割れ

 尻尾部分を置きざりに頭部分がウゾウゾ向かってくる。




 再び緊張がはしった。




「しつこーい!」




 ニフェが後退しながら矢を射る。狙ったか、たまたまかはわからないが、見事目に突き刺さった。目は堅くなかったようだ。




 痛みでのけぞったムカデの腹をベラの炎が襲う。照明の炎をそのまま転用したようで随分発動が早かった。




 背中と違い、腹の方は弱かったらしい。炎に焼かれのたうちまわっていた。




「やった!」




 ベラが歓喜していたが、ムカデは半分にちぎれ火にまかれてもまだ動いていた。




「いいかげんっ!くたばれっ!!」




 俺が剣を取り戻す前にアトルが動いた。


 瀕死のペチジンにアトルの剣が突き刺さる。見事に胴節を貫いていた。




 アトルの剣は魔法石付きだ。攻撃が当たれば勝手に炎が付加でついてくる。


 最近アトルはその付加の炎を自分の意思で付けたり付けなかったりが出来るようになっていた。付加の炎がムカデの内部までをも焼く。




 魔法石付きってのは本当便利でいいな。俺には高くて手が届かないけど。




 炎がおさまった後ペチジンは全く動かなくなった。


 今度こそ、本当にくたばったようだ








「今度こそやったのよね?」




 さっきまで単純に喜んでいたベラが慎重になっていた。離れた所から杖でツンツン突っつく。




 気持ちはわかる。二度あることは三度あるからな。


 俺も警戒したまま様子をうかがう。




 動きだす気配はなかった。どうやら三度目の正直だったようだ。




 やれやれだ。


 安堵の息を吐きながらペチジンに近付く。




 さあて、こいつをどうするかだ。


 このペチジンだが、堅い体とか道具の材料として高く売れるのだが、何せこの大きさだ。


 俺達で持って帰るのは無理そうだ。後日どうにか回収を依頼するしかない。


 採算が取れるかどうかで、自らフランに依頼を出すか、情報だけを売って終わるかが変わる。




 とりあえず、今回の目的は「ペチジンの討伐」だ。


 倒しただけでも、報酬金がもらえる。


 あとは討伐の証として首を持ち帰れば当初の目的は終了だ。




 この首を切り落とす作業が一番大変だった




 首近くの胴節が隠れた状態で固まっており、斬り落そうにも刃が全く入らない。なんとか背板の隙間から剣を差し込みグリグリと強引に胴節部分をえぐり地道に傷口を広げていく。




 動物と違い血があふれ出たりはしないがとにかく硬く重労働だった。






 なんとか首を切り落とし遺跡から這い出て来た時には空は星で埋め尽くされていた。




「んー!!やっぱり外の空気はいいわね」




 ベラが手を交差し伸びをする。




 最後のアトルが登ってきたのを確認してからロープを回収する。大樹にしっかり括りつけられていた。


 その下に皆が集まり今回の労をねぎらいあう。




「お風呂入りたーい」




 体中をはたきながらニフェがいう。遺跡内では気づかなかったが埃で服が真っ白になっていた。月明りでこれだから明るい場所で見ると相当汚れていると思われる。




「俺はさっさと眠りたいよー」




 ジルが木の根にしゃがみ込んでそうぼやいた。




「そうだな。流石に疲れたな」




 アトルは?と話をむけると「腹減った」とだけ答えた。






 全部全部キクちゃんの元に戻れば叶うことだった。途端にキクちゃんが恋しくなる。


 たぶん皆同じ気持ちだろう。はやくキクちゃんの元に帰りたい。




 あーやっぱりいいな。キクちゃん。




 もし、キクちゃんがいなければ、この空腹を満たすための飯の調達に悩むことになる。


 この時間になると酒場ぐらいしか開いてないため、酔っ払いだらけの煩い場所でマズイ料理を高い料金で食べることになるのだ。


 そしてお風呂のためのお湯を沸かし、服を洗濯するという作業をしなければならないのだ。




 キクちゃんはそれを全部引き受けてくれる。




 俺のお嫁さんになってほしい。






『お風呂にする?ご飯にする?それとも……私……?』と頬を染めてモジモジするキクちゃんが脳内で再生される。




 いい!最高だ。








 妄想に浸っていると頭上で木々の揺れる音がしてなんとなく、上を見上げる。




 巨大な影が口をあけて俺達の上に落ちてきた。








 それが何かとか、どうすべきかとか




 そんなことを考える間もなく




 絶対的な死が落ちてきた。










 なすすべもなく、ただ呆然と立ち尽くす俺達の目の前でその影は二つに分かれた。




 何が起きたかはわからない。




 狼狽する俺達の横にドサリと落ちた物体は今自分が持っている首より一回りでかいペチジンの首であった。続けてずり落ちるように大量の足がついた体が降って来て、わきに避けながらその光景に度肝を抜かす。






 今コイツに食われるところだったのだ。


 皆その事実に言葉を失っていた。










「駄目ですよ?ムカデ系は必ず傍に片割れがいますから油断したら」




 突然沸いた声に目をむけると、黒衣の剣士が立っていた。




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