鎧百足

 ジルが光を向けると巨大なムカデが天井に張り付いていた。


「っっきゃあああああああ!!!!」


 ベラの悲鳴が響き渡る中、俺とアトルが動き後衛三人を後ろへと追いやり前に出る。


 同時に鎧百足ペチジンの頭部が勢いよく落ちてきて像にぶちあたった。すでに壊れかけていた像はバラバラに砕け散る。




 皆即座に距離をとり、それぞれ応戦体制に入った。






 ジルが光魔法を遺跡の真ん中に固定。




 天井からぶら下がった状態のペチジンをニフェの矢がを狙う。「カッ」だか「コッ」だか音を立てて矢がはじかれた。


 続けて三発打っていたが全部堅い体に弾かれていた。




「えー全然刺さんないよ」


 緊張感が伝わってこないニフェをジルが抱え物陰へと走る。


 ベラもちゃんと物陰に身を隠したのを確認し俺とアトルが迎え撃つ。


 大量の足を動かしながら壁を移動し襲い掛かってくるムカデの体にそれぞれ斬りつけた。




「~~~~~っ!!!」


 手にはしった衝撃に顔をゆがめる。


「超かってえええええええ」




 負けじと続けてもう数回斬りつけてみる。


 かろうじて足の一本は切り落とすことには成功したようだが、あの足一体何本あるんだ?


 百本以上あるだろ。もうどこの足を切ったのかさえわからない。




 肝心の体には傷一つついていない。


 まるで鋼鉄だ。剣の方がばかになるぞ。






「退いて!!」




 ベラの掛け声とともに目標から飛退く。


 ベラの杖から炎の球が発射された。




 おおっ連射だ!威力は少し落ちるが、すごい成長だ。




 だが、発射された炎の球はムカデの表面を滑って消える。




「魔法もだめなの!?」




 だから、そういう感想は避けてから言えって!!




 目標をベラに変えたペチジンが口を開けて突進する。立ち尽くすベラに体当たりし共に地面を転がりムカデを避ける。


 傍を大量の足が通り過ぎていく。あれに引っ掛けられただけで大怪我間違いなしだ。




「どうする!?」


「剣も魔法も効かない」


「あんなのどう倒したらいいのよ!」




「節だよ!背板と背板の間を狙って!!」


 鉄壁の守りに動揺する俺達に向かってジルが叫んだ。




「節って、また難しいお題を出してくるな」


「あんなに動かれてたらキツイ」




 壁に天井にと縦横無尽に動き回る巨大ムカデ。見てるだけでぞわぞわする。




 試しにニフェが矢で節を狙ってみるが、動きが早くて、一瞬見えてもすぐに背板に阻まれてしまう。


 全部弾かれたのを見て、これは動いてる状態で狙うのは無理だと理解した。


「どうにか動きを止めないと無理だな」




「どうやって!?」




 そう、問題はそこだ。何かいい案はないのか?と全員に目をやる。


 皆首をふってる中一人顔を上げた奴がいた。




 アトルだった。




「……誰か耐衝撃魔法はつかえないのか?」




 アトルの問いにジルが手を上げる


「俺使えるけど」




「ジル兄が囮になるってのは?」




 アトルの提案にジルが手を上げる


「やっぱ、使えなかったわ」




「囮決定な」


 即逃げようとしたジルの襟首をつかむ。




「バリアは疲れるから、長時間は無理なんだよー」


「すぐ済むから大丈夫だ」


「それに、ほかの魔法使ったら照明が消えちゃうよ真っ暗になっちゃうよ?」


「私が代わりに火をともすわ!」


「よし、問題解決。行くぞ」




「えーーーー」


 不満を漏らすジルを置いてきぼりに作戦は開始された。




「俺が行く!アトルは二人の護衛たのんだ!」


「わかった」




 アトルのいい返事を聞きながら笑う。


 先輩を囮に使おうとするとかコイツ容赦ない。




 照明が光から炎の光へと切り替わった。


 渋々ながらジルが中央にフラフラ歩いて行く


「あーペチジンさん俺囮だからねー。食いついたら馬鹿にされちゃうかんねー」




 馬鹿なムカデは狙い通りジルへと突進していった。


 ジルを頭部から丸かじりしようと大口を開けたが見えない壁に阻まれていた。


 だが勢いは殺せなかったらしく、後方へと引きずられる。




 これは駄目だ。全然止まってない!


 それどころかこのままだとジルが壁に叩きつけられる!






 とっさにアトルがジルと壁との間に入りクッションになっていた。


 ジルの体は壁に固定され、大量の足の行進は止まった。




「アトルっち!助かった!」




 後方にバリアはなかったらしい。


 鎧百足ペチジンが一生懸命目の前の獲物を食べようと口をガジガジする




「こわっ!めっちゃこわっ!!」


 目の前で鋭い顎が開いたり閉じたりするのを見てジルが悲鳴を上げる。




「いまだ!!」


 ジルを食べるのに夢中になったペチジンの体の動きが止まり、真ん中あたりの背中に飛び乗り顕わになった胴節にむかって剣を振り下ろす。背板の堅さ考慮し渾身の力を入れたら、想像以上に軽く体に突き刺さった。そのまま勢いあまって体を貫通し地面に縫い付けるのに成功した。




「どうだっ」




 剣を置き去りにし背中から飛退いた。


 ムカデは大暴れした。剣から逃れようとめちゃくちゃに体を振り回す。


 暴れて暴れてついに体が二つに引きちぎれ、動かなくなった。




「馬鹿め」




 最後は自滅か。一時はどうなるかとおもったが案外あっけない最後だった。




「やったわ!倒した!」




 囮役をやらされたジルが「ふいいい」と息を吐いた。バリアから光魔法に切り替え立ち上がる。




「あー死ぬかとおもったわー」


「ナイス囮!」


「回復役ってさー手厚く護衛されるものなのにまさかの囮……」


 ブツブツ文句を並べるジルとハイタッチをし「ナイスサポート!」とアトルの頭をグシャリとなでる




 ベラとニフェにも声をかけようとした瞬間、死んだと思われたペチジンがうごきだした。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る