討伐の依頼

「昨日見たのはここら辺だったよな」




 今、【鎧百足ペチジン】討伐の依頼に挑んでいる。




 討伐系は結構面倒くさい。


 まずは目標を見つけることから始まるのだ。




 報酬金も高ければ、評価も高い。


 経歴に残れば見栄えがする。


 ほとんどの奴がこの「モンスターの討伐」に憧れて冒険者になるのだが


 実際は華やかな戦闘は一瞬で、大半は地味な捜索作業である。




 鎧百足ペチジンを探してジャングルを歩き回ること今日で四日目だ。




 二日目の帰りに 三つ目オオカミ、正式には「フェンタニル」というのだが、それを数匹ほど狩って置いて帰った。ま、襲ってきたところを倒しただけなのだが。


 このエサにつられて出てきたところを叩く、おびき寄せ作戦だ。




 次の朝、日が昇る前に様子を見に来たがすでに食べられたあとだった。




 すごい食欲だな。狩ったフェンタニルが全部綺麗に食べられている。


 まあ、食べたのが鎧百足ペチジンとは限らないが。




 上手くいかないものだ。




 その日も結局当てのない捜索作業が続き、流石に諦めのムードに包まれかけてきた時、一瞬であったが俺達の前にその姿を現した。




 ジャングルの向こうの方ので鳥が騒ぎ出したので目を向けると、巨大なムカデが、高い樹に登り獲物でも取ろうとしたのか体を振り回していたのだ。




 遠目で推定だが三十メートルくらいはありそうだ




 たしかにあれだけ大きければフェンタニルなどペロリだろう


 急いで駆け付けたが、着いた時にはもうどこかに行った後だった。




 それが、昨日の話。








 今日は昨日見失った場所を重点的に探しているのだが見つからない。


 ペチジンは夜行性なため夕方にならないと活動をはじめない。問題はそこなのだ。


 昼間、巣で眠るペチジンを見つけ出すのはやはり無理な話か。




 だが、俺達はキクちゃんとの約束で日が暮れる前にアトルを連れて帰らないとならなかった。






 ……今日も収穫なしか。




 もうすっかり夕暮れだ。こんな時間まで粘っておいてこの結果。帰り着くころには真っ暗だ。


 キクちゃん怒るだろうなあ。




 ペチジンについてはすこし作戦を考えた方がいいかもな。




 ため息交じりで引き上げようとしたその時、木の根に埋まるように口をあけた洞窟が目に入った。




 近付いて奥を覗くとかなり深そうだ。


 しかもただの洞窟ではない。




 洞窟の壁を触ると表面は平らに整えられており、ところどころ崩れた箇所から石のブロックがのぞいていた。




 それは明らかに人工物であった




「遺跡だ」




 地面に埋まった古代の遺跡というのは、世界中あちこちで発見されており冒険者たちの心をくすぐっている。


 何十層にもなった遺跡もあれば、ワンフロアで終わる遺跡もある。


 かなり文明が発達していたようではあるが随分と昔のものらしく中はほぼ朽ちている。そのうえ大体がモンスターの住処になっていることが多い。




 遺跡によってはお宝がザクザク眠っていることがある。






 さてさて。ペチジンを追ってなんか余計な物をみつけてしまった。




「誰か、ここらに遺跡があるって話聞いたことある奴いるか?」


「私は聞いたことないわ!」


「俺もないかなあ」




 アトルもニフェも首をふった。




「俺らが初?」


「かもね」


「それか、話に上がらないほど大したことない遺跡か」




 第一発見者だからといって特に何かあるわけではない。


 遺跡自体に価値があるわけではなく、その中身が重要なのだ。


 お宝ザクザクか、ただの石の塊か。




 まあ、一攫千金の可能性はあるので夢は広がる。


 しかし、もう夕暮れ時だ。




「どうする?」


「行く!」


 アトルが即答した。


 コイツは遺跡を見ること自体初めての経験のようだ。




 おいおい、お前余裕でキクちゃんとの約束破る気だな。




 すでに帰り着いていないといけない時間なのに。と思いつつ、同感の俺はつい笑ってしまう。




 ペチジン捜索は夕方以降のほうが見つけやすい。


 キクちゃんに遠慮して口に出さないだけでたぶん他の皆も同じことを考えている。だからこんな時間になるまで誰も「そろそろ帰ろう」と言い出さなかったのだ。






「とりあえず入ってみて複雑そうなら、またにするってのは?」




「よし、それで行こう」



 さっそく遺跡の中へと踏み込む。中は真っ暗だった。




 ジルの魔法で杖が光りあたりを照らす。中は相当広いらしく光が奥まで届かない。天井は近いが底がよく見えない。


 何か見えないかとジルを催促しながらもう一歩踏み出した


「わ!馬鹿!アムロ押すな!」


「いや、よく見えなくて」


「だから押すな。おちるってわ、わ、わあああああああーーーー!


 足場が崩れ落ちたのか滑ったのかわからないが俺とジルは闇の中へと落ちていくことになった




「あーもー!アムロが押すから」


「悪い悪い」


 暗闇の中ジルの苦情の声が聞こえてくる。どうやら転落死は魔逃れたようだ。思ったより底は深くなかったらしい。


「ちょっとー!大丈夫?!」


 上からベラの心配する声が聞こえてきて「ああ、なんとか」と答える。


「ロープとってくる」というアトルの声が聞こえたのでお願いする。




 その間、ジルと共に中を探索することにしたが、すぐ元いた場所にもどってきて探索が終了した。


「これだけか。何もねーな!」


「このフロアだけみたいだね」


 広い空間があるだけで何もなかった。あるのは綺麗にならんだ石の椅子くらい。椅子の前方には一段床があがっており石像が一つ、他もいろいろあったような形跡はあるが全て朽ち果てていた。




「……祭壇なのかな?」




 ジルが正面に飾ってある崩れかけた像に近付く。場所的にこの像がこの祭壇の中心のようだ。


 詳細はもうよくわからないが人が拷問されてぐったりしているようにみえる。




「この像は何だろうね。生贄って意味なのかな?」


「じつはこれが魔王か何かで、倒してやったぜー!ザマミロって意味かもよ」




 他の三人も降りてきて像を眺める。特に重要とは思わないが他に何もないのだ。




 昔の人が何を考えてこれをつくったのかはわからない。


 俺がわかることは、ここにはお宝はないということだな。




 これでは落ち損だ。


 まあ、遺跡なんて大体こんなものか。




 俺達がなんとなく眺める像の上部の暗がりの中、大きな影が動いた。




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