キク攻略法(アムロ視点)
「ただいま、お菊さん」
いつもの調子で満面の笑みでアトルの元へと駆けてくるキクちゃんを両手を広げて抱きとめる。
そのまま抱き上げてグルグル回っていると、赤い瞳がびっくりしながらこちらをみていた
「なんじゃ?なんかええ事でもあったんか?」
「天使がこちらに駆けてきたからつい」
「うわっ!!さむっ!!」
「アム兄、キモ!!」
後ろでブーイングの嵐がおきていたが無視。
まず初めの第一歩は自分を意識してもらうこと。
我ながら歯が浮くようなセリフを言っている自覚があるが、なんだかんだ言って女の子はこういうのに弱い。「僕は君が一番だ」アピール。
はじめは寒がられても、何度もやっていくうちにまんざらでもなくなるのだ。
「そうかそうか、ええ事があったんじゃな」
「えかったのお」
笑顔で頭をナデナデされた。
……ん?
大抵ここで退くか、照れるかしてくれるんだけど。それこそベラとニフェのように。
『何言ってんの』
『いやー本気本気』
『馬鹿みたい』
……てな感じで軽口を交えながら会話の糸口を見つけていくはずだったのだが。
どうやら、よくわからなかったらしい。
「天使ってお菊さんの事なんだけど」
一応説明をいれてみるが、首をかしげてしばらく悩み、その後手の平に拳を当ててポンとした。
「わしゃまだまだ元気じゃ」
「そんな心配せんでもまだお迎えには早いようじゃぞ」と笑顔で背中をバシバシ叩かれた。
「????」
今度はこちらが首をかしげる番だった。
「君は僕の天使作戦」は失敗に終わったので、次の作戦に移行する
俺達の鎧を磨いているキクちゃんの横に座る。
ぱちくりしながらこちらをみてくるので「俺もやるよ」と声をかけた。
「休んどってええぞ?疲れたじゃろ?」
「わしが、出来るのはこれくらいじゃからな」
そういって拭き続ける白い手をそっと取る。そして紅い瞳をみつめながら
「……君と一緒にいたいんだ」
言ったーー!!決まったーーー!!
そのままキクちゃんの手にある雑巾を取り、鎧を磨く
キクちゃんはしばらく俺の方を見つめていたが俺が黙って鎧磨きをしているので、彼女ももう一枚の雑巾を手に取り作業を再開させた。
きっと、今キクちゃんの頭の中は「えっ?今のどういう意味?え?え?」と動揺中のはずだ。
だが、俺は答えない。何事もなかったように作業をするのみだ。
次の偶然パンチを待つ。
そして、ついにその時がきた。
今持っている籠手が拭きおわり次の装備へと手を伸ばした時、彼女も同じものを掴もうとして手と手がふれあった。
『ご、ごめん!』
『ううん!私の方こそごめん……』
さっきの意味深な言葉も相まって、お互い気まずくて顔を赤くする。
『あ、どうぞお先に』
『いや、そちらこそどうぞどうぞ』
と遠慮し合いながら意識しはじめるという王道過ぎる王道的展開。
……となるはずが、キクちゃんは手が当たろうが全く関係なく作業を進めている。
「あー。えっと……ごめん」
「ん?何がじゃ?」
「その、手があたって……」
「ほ?」
不思議そうな顔でこちらを見つめる
「汚かったかの?」
そういって自分の手の平を眺めていたがそうじゃないんです。
「まあ、拭き終わってから洗やあええじゃろ」
また何事もなかったかのように拭き始める。
その後も何度か接触があったが、俺だけ胸を高鳴らせてるだけでキクちゃんは全く無反応。
全然だめだ。なんのロマンスも生まれない!
最初の決めセリフの効果はどこにいったんだ!?
まさかの不発?
『言われたら胸キュンしてしまうセリフ』ランキング3位(※アムロ調べ)の「君と一緒にいたい」を発動させたというのに!そんな馬鹿な!
そうしているうちに、装備磨きは終わってしまった。
俺はこの完敗の結果に打ちひしがれながら、立ち上がった。
「もうええんか?」
ん?もう良いとは何が?
「なんか、喧嘩でもしたんじゃろう?」
喧嘩??いえ、してませんが?
「人間集まればいろいろあるけえの」
(愚痴くらいならいくらでも聞いてやるからの。わしゃ口は堅いぞ)
耳元でこそっと言われ、ニヤリと笑ってきた。
その悪い笑顔に どっきゅーん
なんだか、よくわからないが囁かれた耳は熱く、胸は高鳴るばかりだった。
◆
次なる手はプレゼント攻撃だ。
「キクちゃんって何が好きなんだ?何買って行ったら喜んでくれるかな」
「キクの喜ぶもの?」
参考までに一緒に住んでいるアトルに聞いてみる。
「米とか醬油はここら辺では売ってないしな」とぶつぶつ言いながら頭を悩ませそして出た答が
「魚のミイラとか……?」
「……」
こいつは何もわかっていない。乙女心と言うものを何にもわかっていない。
いや、俺が相談する相手を間違ったんだ。
女の子は一般的に可愛いものが好きだ。
花、アクセサリー、ぬいぐるみそのあたりだ。
「そんな気をつかわんでええそにからお金がもったいないぞ?」
彼女はいつもそうやって遠慮してくるが、押せばちゃんと受け取ってくれる。
他の女のようにガッツいて来ない、この慎み深さがたまらなくいい。
プレゼント渡した日は帰りに必ずお返しをしてくる。キクちゃんの手作りお菓子だ。
すごい美味い。幸せ。
そうしてプレゼント攻撃を繰り返していたある日
「迷惑だからもう持って来るなって角が立たないようにそれとなーく伝えるように言われたぞ」とアトルに言われた。
……どこがそれとなくだ。今ストレートに胸に刺さりましたよ?
「キクの気遣いはちゃんと伝わってきただろ?」
お前、これ聞いたらキクちゃん怒るぞー
大体『迷惑』って本当に言ってたのかよ。
「要約すると『迷惑』なんだからいいだろ別に。面倒くさい」
コイツ無精すぎる
こうしてプレゼント攻撃は終わった。
ここまでの所、俺の試みはことごとく失敗に終わっている。
何をどうしてもなびかない。
何の進展のない中、二人での鎧磨きの時間だけは穏やかなものになっていっていた。
あの完敗した後もずっと続けていたのだ。
最初のうちは、共通の話題がみつからず会話が途切れて悩んだ。
そのうちに、アトルの話をすると喜んでくれるということに気が付き、アトルの話題を選んで語る。
俺の話を顔をほころばせながら熱心に耳をかたむけてくれる姿はとても良い。
少しずつだがキクちゃんとの距離は近づいてきている。
悩みどころは、依然としてキクちゃんの大部分をアトルが占めていることだ。
まあ今までの二人きりの時間を考えると仕方ないのだが、俺としてはもう少し自分の方にも向いて欲しいわけだ。
ずっとこの家でアトルの事だけを見て来たのだと思うと非常に萌える。アトルとは違う「大人の男」というものを是非この手で教えてやりたい。
ここで一つ、賭けをすることにした。
賭けの内容は簡単、明日の天気予想だ。
事の始まりは「明日は雨がふるぞ」と俺が何気なしに言うと「いやいや、明日は晴れじゃよ」とキクちゃんが否定してきたところから。
「今日は夕焼けが最後まで綺麗にみえたからの」と得意気に言ってきた。
空には雲一つなくきれいな満月がくっきりと見えている。
こいつはもしかして……。
「絶対雨。大雨」
「いやいや晴れじゃよ」
「それなら勝負しよう。負けたら丸一日勝った人の言うことを何でも聞くってことで」
「ええんか?本当にええんか?この勝負もらったようなもんじゃぞ?」
そういって彼女はフッフッフッフと嬉しそうに笑っていた。
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